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風俗も「コロナ助成金」の対象になったが…デリヘル経営者「女の子は身バレ恐れ手続きしない」
取材に応じた風俗店経営者

風俗も「コロナ助成金」の対象になったが…デリヘル経営者「女の子は身バレ恐れ手続きしない」

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた一斉休校で、子どもの世話をするために仕事を休んだ保護者を支援する政府の仕組みが批判を受けた。当初、助成金を出す対象から風俗業が外されたからだ。

今月に入り見直されたが、現役の風俗経営者は一定の評価をしつつ、一連の推移から「風俗は偏見をぬぐえない」と話す。税金の確定申告をおこなっている女性は「業界歴10年超で1人しか知らない」という独特の業界。「助成金の対象になっても、女の子は身バレ恐れ手続きしない」と見通しを語る。(ジャーナリスト・高野真吾)

●風俗業を対象外としたことは批判をあつめた

議論の対象となった助成金制度では、一定の要件を満たせば、業務委託を受けて個人で仕事をするフリーランスは一律日額4100円を受けられる。風俗業界で働く女性は、店舗と業務委託契約を結び客へのサービスを提供しているケースが多いとされている。

厚生労働省のHPに当初アップされた「支給要領」を調べた。一定の要件に当てはまる「風俗営業等関係者」が「暴力団員」「暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体等に属している者」などと同じく「不支給要件」に定められていた。

これに対して、性風俗で働く人々の当事者団体が4月2日、支給要件の見直しを求め要望書を加藤勝信厚労相あてに提出した。

風俗店で働く女性に対する無料の生活・法律相談を実施している支援団体「風テラス」の発起人(坂爪真吾・一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)が、ネットの署名サイト「change.org」でキャンペーンを始めた。4月8日、厚労省に9407人分の署名を出した。その後、署名者数は1万人を超えている。

こうした批判の高まりを受けて、加藤厚労相は4月7日、対象外としてきた風俗業や客の接待を伴う飲食業で働く人も対象にすると表明した。厚労省が現在アップしている「支給要領」の「不支給要件」では、「暴力団員」「破壊活動〜」は残るものの「風俗営業等関係者」は外れた。

●「風俗は偏見がぬぐえない」

こうした一連の議論や動きに対して、現場の受け止めはどうなのだろうか。首都圏でデリヘル(デリバリーヘルス・無店舗型風俗店)を開く40代の男性経営者に電話取材をした。

「除外されても仕方がないと考えていた」ことから、助成金の対象になったことは一定程度、評価した。その一方で、「どうしても風俗は偏見がぬぐえない」とも感じている。

男性はデリヘルを経営する以前、2カ所の風俗店でスタッフとして働いた。業界歴は合計で10年超。この間、「仕事の内容を明かすと家を借りることもできない」という現実に突き当たった。また、東北地方に住む親には、「デリヘル経営者」だとバレたくないと隠し通している。

●「確定申告している女性はほとんどいない」

さらに、気になる点もある。男性の店舗でもキャストと呼ぶ女性とは、業務委託契約を結ぶ。その契約書では税金を支払う確定申告は女性自身の責任でおこなう、としている。

2011年秋からのオープン以降、数百人の女性をキャストとして迎えてきた。ところが、確定申告に使う書類をほしいと申し出てきた女性は1人もいない。

男性はキャストに日払いで報酬を渡している。手渡し時に支払い額を記入した用紙を渡していた時期もあったが、今はやめている。もちろん、自身の店舗は税理士を雇い、毎年の納税義務を果たしている。他方、キャストが確定申告をするならば、店舗に残っている売上データが必要になるはずだが、誰も申し出てきたことがない。

店舗経営の前、別の風俗店でスタッフとして働いていたとき、1人だけに書類がほしいと言われたことがある。「彼女だけ。デリヘルで働いている女性で確定申告をしている方は、ほとんどいないはずだ」

●「身バレのリスクがある」

また、デリヘルの仕事はシフト通りに出勤すれば、固定給があるわけではない。客がついて売上があれば、女性と店側で相応の取り分で分ける形式が普通だ。

男性が経営するデリヘルでも、小学生の児童を持つ「ママさんキャスト」がいる。特にシングルマザーの場合には、家で子どもをみるために出勤できない状況に追い込まれた。「助成金の対象になったことは伝えてみる」としつつ、「女の子は身バレを恐れ、手続きしない」との見通しを語った。

助成金を申請するには、業務の「発注者名」「発注者住所・連絡先」「具体的な業務内容」などを書類に書く必要がある。日額4100円の金額と、手続きを通して、行政に風俗で働いていると把握される身バレのリスクを天秤にかける。すると、後者が勝るとする。

また、複数の書類をそろえる手続きの面倒さも、申請を遠ざける要素に挙げた。

●「コロナは誰でもかかる」

男性は税理士をつけて納税義務を果たし、雇っている従業員スタッフの社会保険料もきちんと負担してきた。「デリヘル業界の中では、クリーンに経営してきた自負がある」

政府は現在、売上が50%以上減った中堅・中小企業に対して、給付金を支払う制度の創設を進める。男性は対象事業者となれば申請するつもりだが、またしても「性風俗の壁」にぶつからないかを懸念する。

キャストの女性が助成金までたどり着けそうもない見通しを踏まえて、結局、国民1人ずつにもれなく平等に一時金を支払うのが、最も良いと考えている。額は3万円でも5万円でも、あるいはもっと少なくても構わない。

「コロナは誰にでもかかるから、みんなリスクを負って暮らしている。だったら、お金を配るのも対象を設けるのでなく、一律にする。それが最も平等だと感じます」

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