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赤字招いた同族経営批判で突然の解雇、上野学園大・前音楽部長が地位確認求め提訴
会見する村上曜子さん(左)

赤字招いた同族経営批判で突然の解雇、上野学園大・前音楽部長が地位確認求め提訴

学校法人「上野学園」(東京都)が運営する私立大学「上野学園大」の教授で前音楽部長だった村上曜子さん(64)が5月16日、学園批判や無許可での集会招集、SNSでの情報漏洩などを理由に受けた解雇通知は無効だとして、同法人に地位確認と慰謝料など計約1063万円を求めて、東京地裁に提訴した。

上野学園は上野学園大(生徒数約350人)など4つの学校と1研究所を擁する学校法人で、卒業生には国内外で活躍しているピアニストの辻井伸行さんらがいる。

訴状によると、村上さんは上野学園大に28年間勤務し、2015年からは音楽学部の学部長を務めていた。学部長としての任期は2018年3月までだったが、今年3月中旬に「3月末で学部長を交代させる」と口頭で通告され、3月17日には4月19日までの自宅待機命令が通知された。4月18日には、待機期間満了日の翌日である20日付けで即時・解雇すると通知された。

●解雇の背景にある「同族経営」批判

記者会見した原告側代理人の秋山直人弁護士によると、同学園は石橋家の一族が理事長を務めてきた。学園の年度収支は2006年〜15年度までの10年間で1年間のみ黒字で、残り9年間は年度収支が約2億〜18億円の赤字が連続していた。

その結果経営陣は、経営悪化を理由にして、教職員の給与を削減し、専任教授を非常勤講師へ降格。さらに専門の実技とは別に行う副科レッスン時間を半減し、能力別に行なっていた基礎科目のクラス編成数を半減以下にするなど、授業時間を減らしていった。

学園が所蔵していたメンデルスゾーンの自筆楽譜やヴァイオリンの名器など計約7400万円、世界的に価値が高いバッハの自筆楽譜も約3億5千万円で売却してしまったという。

こういった経営状況に対し、教授や保護者などが立ち上がった。2016年に「上野学園の将来を考える会」(のち「新しい上野学園を作る会」)を結成し、村上さんは同年6月に共同代表に就任。石橋家に払われてきた高額な役員報酬や、学園が業務委託をしていた同族経営の会社への利益供与について問題提議を続け、FacebookなどのSNSなどで発信してきた。

学園はこうした村上さんの活動を「市民的自由の一環として保護される範囲を超えている。マスメディアやインターネットで学内外に開示することを通じて学園の名誉・信用を著しく毀損する行為を繰り返してきた」と主張し、解雇理由とした。

●突然の解雇で何のフォローもできず…「生徒はショックを受けている」

「お預かりしている学生への責任を全うするという意味で、最終的に提訴に踏み切った」。村上さんは今回の提訴に至る経緯をそう話した。

突然の解雇通知があったのは、生徒たちのレッスンのスケジュールを組み終えたあと。声楽が専門の村上さんによると、声楽は初期のうちに生徒にふさわしい声のカテゴリーの先生をつけて指導することが非常に重要だという。しかし解雇された今はそういったことも一切配慮することができない状態だ。授業も4つほど持っており、生徒一人一人に「こういうことになって、あなたたちの授業ができなくてごめんなさい」と話したという。

「大学として教育を第一に考えるはずなのに、自分たちの利益だけは確保するということに憤りを禁じ得ない。教育の質の低下を招いていることが明らかだった。そこのところが一番許せなかった」。村上さんは厳しい表情でそう語った。

(弁護士ドットコムニュース)

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