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職業選択の自由とライバル会社への転職禁止規定はどちらが勝るか

職業選択の自由とライバル会社への転職禁止規定はどちらが勝るか

あなたの勤める会社では、競合会社への転職は禁止されていないだろうか。

先日、米国ヤフーの最高経営責任者に、競合会社であるグーグルの幹部であったメリッサ・メイヤー氏が就任したことが話題を呼んだ。ヤフーとグーグルはインターネット検索サービス市場において競合関係にあり、メイヤー氏は現在のグーグルの隆盛に大きく貢献したとされる重要人物であったからだ。

米国ではこのようなライバル会社への転職は決して珍しいことではなく、日本においてもメイヤー氏の件のように広くニュースにはならなくとも、このような例は存在するだろう。自身がそのような経験をされた方や、知人がライバル会社へ転職をしたという方もいるかもしれない。

ところが、実は一部にはライバル会社への転職を社内の規定で禁止している会社が存在することをご存知だろうか。

例えば社員が入社する際に、「私は退社後2年間は貴社と競業する企業への転職をしません」というような規定を含んだ誓約書などを提出することを義務付けている会社がそれにあたる。当然、競合への転職を禁止する目的は自社の競争力の源泉であるノウハウや人材が競合に流れてしまうことを防ぐためだ。

しかし、このような規定は職業選択の自由を定めている日本国憲法に違反しないのだろうか。労働問題に詳しい勝浦敦嗣弁護士に聞いた。 

●場合によっては競業禁止規定自体が無効に

「退職後の競業禁止規定は、職業選択の自由を直接的に制限する、労働者側にとっては大きな制約となりますので、場合によっては、規定が無効と判断される場合があります。」

「判例では、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、制限の代償としての金銭(代償金)の受領の有無等について、使用者側の利益(企業秘密の保護)、労働者側の不利益(再就職の不自由)、社会的利害(独占集中のおそれ)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要するとされています。」

●転職禁止期間が1年以内なら有効、3年以上なら無効?

「たとえば、競業禁止の期間が1年以内など短期間の場合は、競業禁止規定が有効となる可能性は高くなります。2年を超える期間となると判断は難しくなりますが、一般の社員に3年以上の競業禁止を課すというのは、相当額の代償金の支払などの特別な事情がない限り、無効とされやすいでしょう。また、同じ期間でも、機密性の高い情報に接している労働者だけを対象者とする場合や競業を禁止されている地域が限定されている場合は有効となりやすいといえます。」

「このように、競業禁止規定の有効性は様々な要素を総合考慮して具体的に判断されますので、一概には言えませんが、禁止されている期限が1~2年程度であれば、ライバル会社への転職は期限を待ってからの方が無難でしょう。」

●違反した場合、損害賠償を請求される可能性も

「競業禁止規定が有効とされ、労働者がその競業禁止規定に違反して競業行為を行った場合、以前に在籍していた会社から損害賠償請求が認められるのみならず、場合によっては競業行為の差止めが認められるケースもありますのでご注意ください。」

これまで自分が培ってきた経験を活かして同業界での転職を考えている人は、自分の会社には競合会社への転職を禁止する規定がないかどうか、また規定がある場合にはその内容の有効性はどうかという点に、ぜひ気を付けていただきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

勝浦 敦嗣
勝浦 敦嗣(かつうら あつし)弁護士 勝浦総合法律事務所
1999年司法試験合格。2000年3月東京大学法学部卒業。01年10月、TMI総合法律事務所入所。05年10月、司法過疎解消のための公設事務所(鳥取ひまわり基金法律事務所)に赴任。10年6月、勝浦総合法律事務所開設(現在所属弁護士5名)。「身近で、頼りになる弁護士」を目指し、残業代請求などの労働事件、交通事故、債務整理などに力を注いでいる。

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