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「全ての遺産を母に」親孝行のはずが、思わぬ事態に 計算外だった「相続人」が浮上
画像はイメージです(tkc-taka / PIXTA)

「全ての遺産を母に」親孝行のはずが、思わぬ事態に 計算外だった「相続人」が浮上

すべての財産を母に相続させるため、一人っ子は「相続放棄」を選んだーー。そう聞くと、なんと親孝行な、と思われるかもしれません。ところが、弁護士ドットコムに質問を寄せた人はその後、意に反した結果になったと言います。一体、何が起こったのでしょうか。

相談者は「相続放棄した私の分の財産は、父の兄弟に権利がいってしまうと聞き、慌てています」と投稿しました。親孝行するための行為が結果として、母のために使える財産を減らしてしまったのではないかと相談者は慌てています。

相談者は一人っ子で、自分自身に子どもはいません。一方、父の兄弟は2人おり、それぞれに子どもがいます。このような場合、できるだけ母の取り分を多くするために、相談者は何をするべきなのでしょうか。隈本源太郎弁護士に聞きました。

●原則は「兄弟姉妹(もしくはその子)に権利がいってしまう」

ーー相談者の「相続放棄」は本来するべきではなかったのでしょうか

「まず、ご相談者のおっしゃっている『相続放棄』ですが、ご相談者が単に母との間で相続を放棄すると約束したといったことであれば、法律上は『相続放棄』にはあたらず、父の兄弟に権利がいってしまうということはありません。

しかし、ご相談者が家庭裁判所での相続放棄の手続をとられたということですと、ご相談者は、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)」

ーーその場合、相続の手続きはどのように進みますか

「民法では、亡くなった方に直系卑属(子など)や直系尊属(親など)が存在しない場合は、亡くなった方の兄弟姉妹(もしくはその子)が相続すると定められています(民法889条、887条2項)。

すなわち、ご相談者が家庭裁判所での相続放棄の手続をとられたのであれば、ご相談者は一人っ子ということですので、直系卑属はいないということとなります。

直系尊属も存在しないのであれば、ご相談者が相続放棄した分の財産は、兄弟姉妹(もしくはその子)に権利がいってしまうというのが大原則です」

●「相続放棄は錯誤(勘違い)」という訴え

ーー相談者の親孝行は意味がなくなる可能性があるのですね

「そうですね。相談者が相続放棄をした意味がなくなってしまいかねません。

そこで、ご相談者がすべきことですが、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出してからまだ日が浅いのであれば、まず、家庭裁判所に取り下げができないか、大至急確認することです。取り下げが間に合えば、相続放棄はなかったことになるからです。

取り下げが間に合わなかった場合には、民事訴訟手続を利用して、相続放棄が『錯誤』すなわち勘違いによるものであったとして、相続放棄が無効であったと認めてもらうことが考えられます」

ーー錯誤との訴えで、無効と認めてもらえるのでしょうか

「『錯誤』があったというだけで相続放棄がただちに無効となるということではありません。

過去の裁判例などをみると、たとえば、すべての財産を母に相続させるというのが相続放棄を行う動機であったということを相続放棄の手続の中で裁判所に明らかにしていたなどの事情を主張・立証することができれば、相続放棄を無効とできる余地があります。

その主張・立証の可否や方法などについて、弁護士に早めにご相談されるのがよいでしょう」

ーー取り下げが間に合わず、かつ「錯誤」による無効主張も難しいとなった場合、どう対応すればよいのでしょうか

「相談者としては、相続人となった父の兄弟2人と母との間で今後行われることとなる『遺産分割協議』に際し、ご自身が相続放棄をした事情をよく説明するなどして、できるだけ母の取り分を多くしてもらえないか、説得を試みるほかないでしょう」

プロフィール

隈本 源太郎
隈本 源太郎(くまもと げんたろう)弁護士 隈本源太郎法律事務所
第二東京弁護士会所属。離婚・相続の問題、中小企業の顧問弁護士業務、労働問題その他各種民事事件を中心に取り組んでいます。

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