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ダイヤモンド・オンライン連載企画/覚えておきたいダブル不倫の“ダブル”な代償
ダイヤモンド・オンライン連載企画

ダイヤモンド・オンライン連載企画/覚えておきたいダブル不倫の“ダブル”な代償

明るいキャラクターとしてお茶の間でも人気のあったモーニング娘。OGでタレントの矢口真里さん。ところが不倫が発覚して騒動になった事で、あっという間にその人気も地に落ち、テレビで見る事もなくなってしまいました。今や慰謝料はいくらになるのかといった話題に登場するくらい(記事はこちら )。不倫は当人の社会的地位や信用を損なう非常にリスクの高い行為です。今回は不倫のなかでも、もっとも複雑な「ダブル不倫」のケースを取り上げ、慰謝料などの経済的負担について解説したいと思います。

●すべてが始まった3年前の夏の社員旅行

 相談に訪れた男性は、ほとほとやつれた表情で相談室の椅子に座っていました。ダブル不倫の末に、壮絶な家族会議を重ねてきたということです。筆者が促すと、訥々と話し始めました。

 私(孝雄・44歳)は、広告代理店で部長をしています。私には、専業主婦の妻、真弓(40歳)と10歳になる長男、5歳の長女がいます。今年で結婚12年目を迎えました。

 ことの発端は、3年前の夏の社員旅行でした。

 社員旅行の懇親会で隣にいた当社社員の彩子(29歳)と共通の趣味で話が盛り上がり、酒が進んでしまいました。意気投合ってやつですね。職場では見られない、楽しそうな彩子の表情が可愛かったのを今でも覚えています。

 すると、懇親会が終わって、彩子からこう言われました。

 「夫の政男との結婚生活について悩みを聞いてほしい」

 プライベートなことなので、他の社員に知られてはいけないと思い、私の車の中で二人きりで話すことにしました。私は去年の6月、彩子と政男との披露宴に呼ばれ、主賓スピーチをしたこともあります。そういう関係で、二人のことは知っていました。

 しかし、彩子の悩みを聞いているうちに情がわき、理性が抑えられなくなってしまい、衝動的に彩子と肉体関係を持ってしまいました。今思うと、お互いにかなりの量の酒を飲んでいた事がいけなかったのかもしれません。

 私も彩子も家庭を持っていますので、お互い1回だけの関係にしようと考えていました。ところが、お互いにあの夜のことが忘れられず、社員旅行が終わってからも、私はメールや携帯電話で彩子を誘い、月2~3回、多いときは月5回以上、彩子と食事をしては、ホテルや車で逢瀬を重ねてきました。

●妻と子どもたち、それに彩子も愛しています

 会うたびに、「今回が最後だ」と思っていました。きっと彩子もそうだったと思います。でも、なかなか止められませんでした。

 そしてついに、彩子との関係が妻に発覚してしまいました。2週間前の土曜日、突然、妻から、彩子との関係について問い詰められました。

 はじめは彩子との関係を否定していましたが、彩子から私に宛てたメールを示され、彩子との不倫関係を認めざるを得なくなりました。

 私は、妻に謝罪しましたが、妻は私と話し合っても感情的になるばかりで、建設的な話し合いができませんでした。そして事態はもっと悪い方向へ進んでしまいました。妻が彩子の自宅に押し掛けたのです。当然、私と彩子との関係は、政男にも知られることになりました。

 その修羅場から1週間後、妻は、突然、子ども達を連れて、実家に帰っていきました。

 私は、彩子を愛していますが、妻の真弓と二人の子どもたちも愛しています。実際、不倫発覚直前にも真弓との肉体関係はありました。

 本当に私は身勝手な男です。家庭を守りたいため、家族や社内の人間には彩子との関係を悟られないようにしていました。彩子にも同様に行動に気をつけてもらい、不倫関係を悟られないようにしていましたが、家族に知られてしまい、彩子との関係も家族との関係も壊れてしまいました。

●責任を追求されるのは孝雄だけでなく彩子も

 これは、所謂「ダブル不倫」です。今回のケースを法律的な観点から先々の展開を予想した場合、どのような事態が考えられるのでしょうか。

 【真弓さんが孝雄との離婚を選択した場合】

 まず考えられるのは、上記のケースです。夫の不倫に怒り狂って、子どもたちを連れて実家に帰ってしまったのですから、孝雄は真弓さんから離婚を突きつけられる可能性は大いにあるでしょう。

 孝雄には、妻である真弓さんに対し、貞操を守る義務があります。すなわち、真弓さん以外の女性と不貞行為に及んではいけない(肉体関係を持ってはいけない)のです。

 ところが、孝雄は、彩子さんと3年以上にわたり不倫関係にあったのですから、離婚事由の1つである不貞行為(民法770条1項1号)を理由として、真弓さんから離婚を請求される可能性があります。

 また、孝雄は、真弓さんから慰謝料を請求される可能性があります(民法709条、710条)。それだけではありません。孝雄は、離婚するまでは真弓さんから婚姻費用分担請求(いわゆる生活費の支払い。民法760条)、(子どもの監護を真弓さんがするのであれば)離婚後の養育費(民法766条)、財産分与(民法768条)、年金分割を請求される可能性があります。

 一方、孝雄と不倫していた彩子さんにも、責任があります。

 彩子さんは孝雄が既婚者であることを知っていたにもかかわらず、不貞行為に及んでいます。その結果として、孝雄と真弓さんの夫婦関係が破綻し、離婚することになりました。したがって、彩子さんは孝雄と共同不法行為に及んだことになります(最高裁昭和54年3月30日判決参照)。

 彩子さんは孝雄と共同で、政男さんに慰謝料の支払い義務を負うことになります(不真正連帯債務。民法709条、710条、民法719条)。

 同様の理由で、真弓さんは、夫である孝雄と共同不法行為をした彩子さんに対し、慰謝料請求をすることが可能となります(民法709条 710条、最高裁昭和54年3月30日判決参照)。

●孝雄は彩子の夫・政男からも慰謝料請求の可能性あり

 次に考えられるのが以下のケースでしょう。

 【真弓さんが孝雄との離婚を選択しなかった場合】

 専業主婦である妻の真弓さんは、夫の孝雄が他の女性と不貞行為に及んでも、自分や子どもの将来の生活の不安から、離婚を選択しないケースも少なからずあります。

 将来的な経済的安定を考えると、孝雄の年収1000万円は捨て難いものです。今後の子どもの教育費などを考えると、なおさらでしょう。真弓さんは孝雄との話し合いでは感情的になっていますが、実家に帰っているうちに冷静になり、離婚をすることは得策ではないと判断する可能性も十分に考えられます。

 では、真弓さんは自分を裏切った孝雄と一つ屋根の下で暮らすでしょうか。それはいくら離婚を思いとどまっても、考えにくいでしょう。このケースでは、離婚はしないが別居をするというのが現実的です。

 そうなると、孝雄は真弓さんから別居中の生活費(婚姻費用)を請求されることになります。

 さらに、妻の真弓さんは、不倫相手の彩子さんに対して慰謝料を請求することが考えられます(民法709条、710条)。

 忘れてはいけないのが、孝雄は政男から慰謝料を請求される可能性があるということです。

 ただし、彩子さんと政男さん夫婦の婚姻関係が、すでに破綻していれば、慰謝料を支払う必要がなくなる場合があります(最高裁平成8年3月26日判決参照)。

 ちなみに、政男さんが彩子さんとの離婚を選択する場合、政男さんは彩子さんに対して離婚請求(770条1項1号)、慰謝料請求(民法709条、710条)、財産分与(民法768条)、年金分割を求めることが考えられます。

●ダブルパンチで孝雄の財政状況はボロボロに

 ダブル不倫とは法律用語ではありませんが、一般に、既婚者同士が不貞行為に及ぶことと言われています。では、ダブル不倫は、通常の不倫のケースとどのような違いがあるのでしょうか。

 単に男性が不倫し、妻から離婚請求された場合、併せて、慰謝料、財産分与、養育費、年金分割等の請求をされます。

 一方で、ダブル不倫で離婚することになった場合、不倫をした男性は、妻からの請求に加え、不倫相手の夫からも慰謝料を請求される可能性があります。

 話し合いで解決できればよいですが、裁判になることも少なからずあります。ダブル不倫した男性は、妻からの離婚裁判だけではなく、不倫相手の夫からの慰謝料請求の裁判にも応じなければならなくなります。

 つまり、男性は2件分の裁判の弁護士費用もかかってしまいます。

 まさに、妻からの慰謝料などの請求と不倫相手の夫からの慰謝料請求、ダブルパンチを食らいます。年収1000万円のエリートサラリーマンの孝雄にとっても、これは痛いはずです。参考までに、以下にシミュレーションしてみたいと思います。

【前提条件】

年収:孝雄、額面1000万円

   真弓、0円

預貯金:1000万円

住宅ローン:残2000万円(残25年。孝雄名義。月10万円。ボーナス月払い有)

自宅マンション:2000万円(孝雄名義。不動産業者の査定)

【離婚するまで】

 孝雄は、住宅ローンや自分の生活費等の通常の支払いに加えて、別居している真弓に対し、毎月18~20万円の生活費(婚姻費用)を支払わなければいけません(婚姻費用算定表参照)。

【離婚時】

■真弓に対する慰謝料

 不倫の事実が証拠(メールや探偵事務所の調査報告書等)により明らかであり、孝雄が不倫の事実を認める場合、通常、慰謝料を支払うことになります。

 慰謝料金額は、婚姻期間、不貞行為前の夫婦関係の状況、不貞行為が夫婦関係に与えた影響、行為態様、不貞期間等の諸事情を総合考慮して決まります。慰謝料の相場は100~500万円です。100万円以下となるケースも約3割あるといわれています(東京家庭裁判所家事第6部編著『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情[第3版]86頁以下』)。

 孝雄の場合、慰謝料は500万円くらいになるかもしれません。

■財産分与

 財産分与についてですが、1000万円の預貯金があるので、基本的に半分の500万円は真弓のものになります(財産分与の際、思わぬ譲渡所得税がかかる場合もあります)。

 2000万円の価値のある自宅マンションがありますが、残ローンが2000万円あります。この不動産の処理で紛糾するケースがよくあります。

 この場合、任意売却することにより、ローンを消すことが考えられますが、手数料等のため、ローンが残ることも考えられます。

 自宅マンションを残すことも多くあります。子どもの校区や住宅ローンの支払いの関係(専業主婦である妻が毎月10万円の住宅ローンを支払うことは困難)から、孝雄がローンの支払いを継続し、真弓さんと子ども達が自宅マンションに住み続けることになることも十分に考えられます。

■養育費:毎月14~16万円の支払い義務が生じます(養育費算定表参照)。

 通常は20歳まで支払うことが多いのですが、大学卒業、大学院修了まで請求されるケースもあります。

■政男に対する慰謝料

 彩子さんと政男さんの婚姻期間は短いですが、孝雄の立場や収入、不貞の行為態様等から、300万円を超える慰謝料が認定されることも十分考えられます。

 孝雄が真弓さんと離婚し、孝雄が自宅マンションを出る場合、その他の費用として、引越費用、移転先の敷金礼金、仲介手数料、移転先の家賃、生活費、新規購入の家具代等もかかります。 

●双方が離婚をしない場合 孝雄は経済的負担はなし!?

 では、真弓さんが離婚を選択しない場合、どうなるのでしょうか。

 まず、真弓さんからの慰謝料請求や財産分与等の請求は回避できることになります。

 一方で政男さんからの慰謝料請求は回避できるのでしょうか。

 「孝雄と真弓さんの財布が共通(生計が同じ)」、「彩子さんと政男さんの財布が共通」であることを念頭に置いて考える必要があります。

 法律上、孝雄は政男さんから慰謝料を請求される可能性はあります。ただ、同時に彩子さんは真弓さんから慰謝料を請求されることも考えなければいけません。

 実際に孝雄が政男さんから請求されても、孝雄/真弓夫妻、彩子/政男夫妻が離婚を選択しない場合、真弓さんの彩子に対する慰謝料請求と打ち消しあう形になる(但し、法律上、相殺禁止、民法509条)ので、相互に慰謝料を請求することに経済的な意味はほとんどありません。

 ただ、真弓さんの彩子に対する慰謝料より、政男さんの孝雄に対する慰謝料額が高額になる可能性があること、真弓さんが紛争を好まず、彩子に慰謝料を請求しないことも考えられますので、政男さんは、孝雄に対し、慰謝料を請求するメリットは多少あるかもしれません。

 ただ、訴訟になれば、訴訟で争う期間(約1年)や弁護士との打ち合わせ、尋問等での裁判所への出廷等の手間もかかります。

 また、慰謝料請求の裁判は民事訴訟ですので、証人尋問の際、公開の法廷で、彩子や政男さんの恥部が傍聴人(一般国民)にさらされる可能性も十分にあります。裁判を通じ、政男さんが知りたくない事実も明らかになる可能性もあります。

 そうすると、政男さんが孝雄に慰謝料を請求しないという選択肢を選ぶことも十分考えらえます。

 双方とも離婚を選択しない場合、孝雄は、余計な経済的負担がなくて済みそうです。

 ただし、自分の妻を結婚式で主賓スピーチをした上司に寝取られた政男さんが経済的合理性のある行動をとるとは限りません。

●素人同士で面談をすれば 刑事事件に発展の危険性も

 真弓さんが離婚を選択するケースと選択しないケースとで、孝雄の経済的負担には大きな違いが出ることになります。

 多額の経済的負担を回避するという観点からすると、真弓さんに離婚を選択させず、別居を早期に解消し、元通り家族4人で同居するよう説得すべきですが、これはかなりハードルが高いでしょう。

 感情的になっている当事者同士では話し合いが難しいことも多いので、弁護士に依頼する方がよいかもしれません。訴訟になる前に4者間で示談による解決をすべきです。

 ただし、人間は感情の動物です。常に経済的合理性ある行動を選択するとは限らないことは前述したとおりです。

 真弓さんが彩子宅に押し掛けるような、感情的な行動は慎むよう諭す必要もあります。男女トラブルから、暴行、傷害、住居侵入、名誉棄損、器物損壊等の刑事事件に発展することもままあります。

 政男さんがダブル不倫の事実を知っているということですから、孝雄は政男さんから面会要求されることが考えられます。

 しかし、これはトラブルになる可能性が高いでしょう。当事者間での話し合いは、一方又は双方が感情的になる恐れが高いからです。冷静な話し合いは期待できません。余計に紛争が激化し、刑事事件に発展する恐れもあります。

 親族や友人を間に挟むことも考えられますが、曖昧な法的知識で対処することで、余計に紛糾することもあります(生兵法は怪我の元)。ダブル不倫が発覚した場合、まずは、弁護士に相談し、適切なアドバイスをもらってください。場合によっては、弁護士に示談交渉、調停、訴訟等を依頼し、適切な解決を図ってもらうことになります。

 当然のことですが、ダブル不倫が発覚すると4者間で泥沼の争いになる恐れがあります。不倫をした男女は当然のこと、それぞれの配偶者や子どもを不幸のどん底に陥れてしまいます。当事者や配偶者の経済的、精神的負担、子どもの精神的負担は著しいものがあります。周囲の人間も巻き添えを食らうことも少なくありません。

 男は妻子も財産も社会的信用も失ってしまいます。ダブル不倫はもちろんのこと、そもそも不倫などしないことが一番です。

プロフィール

大西 信幸
大西 信幸(おおにし のぶゆき)弁護士 大西信幸法律事務所
大阪府出身。平成18年3月立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了(法務博士)。平成19年9月新司法試験合格。平成20年12月大阪弁護士会登録(新61期)。平成21年1月〜23年12月大阪市内の法律事務所にて勤務弁護士、平成24年1月大西信幸法律事務所開設(代表弁護士)。労働問題のみならず、交通事故、借金問題、離婚問題、刑事事件等、幅広く対応。所属:大阪弁護士会・労働問題特別委員会

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