妻の奨学金を肩代わりして支払っていた人が「離婚したら、妻のために返済した分を返してもらえないか」と、弁護士ドットコムに質問を寄せました。
相談者の妻は結婚前、自分で働いたお金で奨学金を返済していました。しかし、相談者によれば「つわり等の状態が酷く、有給もほとんど無いため仕事を辞めました」といいます。
その後、義理の父から「お前が妊娠させて、働けなくしたんだから奨学金は夫が払うのが当たり前」と言われたそうです。そこで、妻が妊娠して会社を辞めてからは相談者が代わりに払うことになりました。
しかし、相談者夫妻は離婚することになりました。そこで「妻の奨学金返済のために払った分のお金を嫁に請求したい」と考えています。代わりに払っていた配偶者の奨学金を離婚を理由に返して貰うことはできるのでしょうか。澤藤亮介弁護士に聞きました。
●「義父の要求は法的根拠に乏しい」
ーーそもそも夫は妻の奨学金を肩代わりする義務はあるのでしょうか
結婚やそれに伴う妊娠、出産などの人生のイベントは強制されるものではなく、ご自身の意思や配偶者との話し合いを経て、対応を決めるものです。
法的側面からすれば、妻のかわりに夫が奨学金を返済するべきという義父の要求は、根拠に乏しいと言えるでしょう。
●返済してもらえるか?
ーー離婚時に妻のかわりに返済してきた分を返してもらえないのでしょうか
夫が立て替えてきた金銭が(1)貸金、(2)贈与、(3)婚姻費用の分担のどれに該当するかによって結論は異なります。
(1)貸金:法的に貸金となると、妻に対し貸金返還請求ができる
(2)贈与:プレゼントなどと同様。法的に贈与となると、妻に対し返還請求ができない
(3)婚姻費用の分担:結婚中の生活費の負担。法的に婚姻費用の分担となると、妻に対し返還請求できない
相談者が考えるように、妻に対する「貸金」と言えそうですが、法的には「贈与」や「婚姻費用の分担」などと考える余地はあると言えます。
ーー相手がもし(1)と素直に応じた場合にはどうなりますか
婚姻期間中に夫婦間で立て替えがあり、出してもらった側が借りたものであることを争わない場合は、離婚協議や離婚調停の中で、何らかの形で清算することが多いと思われます。
例えば、財産分与の検討の結果、夫から妻への分与金の支払いが出る場合、それと立替分を相殺処理する形や、離婚協議書や調停調書に立替金の支払方法(一括や分割)を明記したうえで清算する方法などです。
ーー逆に(2)や(3)と相手が主張した場合には、どのように対応するべきでしょうか
他方、妻側が貸金であることを認めずにその法的性質を争う場合、調停の次の手続である審判事件や訴訟の中で、夫側が、返済義務の生じる「貸金」であったことを主張・立証することにより、その返還を求めることになります。
そのため、実際は家庭内のことであるため難しいかもしれませんが、立て替えた奨学金について争いが起こる可能性があるようでしたら、それはあくまで貸したものあることを記載した念書や覚書を残しておくと宜しいかと思われます。