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「いつか戻ってくる」愛人と駆け落ちした父を35年間待った母…慰謝料は請求できる?
画像はイメージです(bino / PIXTA)

「いつか戻ってくる」愛人と駆け落ちした父を35年間待った母…慰謝料は請求できる?

「35年前に愛人と駆け落ちした父と母が離婚したら、父に慰謝料は請求できるのか」という相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者の父は、相談者と弟がまだ未成年のうちに愛人と家を出ました。その後、仕送りもしてくれず、母はパートと内職で家計をやりくりして子ども2人を育ててきました。

そんな父はたびたび「離婚を承諾してほしい」と母に連絡していましたが、母はそれを受け入れず、気づけば35年が経ちました。

母は「お骨になってでもいずれは自分のもとに父が帰ってくる」と信じていましたが、現在父は、駆け落ちした女性とは別の女性と17年もの間同居していました。

そこで相談者はついに母親に離婚するよう切り出すことにしましたが、「このままでは私も納得ができません」と話しています。

母や相談者は、父に慰謝料を請求できるのでしょうか。近藤美香弁護士に聞きました。

●娘が父に慰謝料請求するのは難しい

——母や娘は父に慰謝料を請求できますか。

父に対して慰謝料を請求できるとすれば、誰が請求できるのか、から考えたいと思います。結論から申し上げますと、娘である相談者から父に対する慰謝料請求は難しいと考えられます。

——なぜなのでしょうか

過去に、父が不貞行為をしたことによって子どもが損害を受けたとして、子どもから父の不貞相手に対して慰謝料を請求した事件がありました。

しかし、最高裁判所は、子どもから不貞相手に対する慰謝料請求を認めませんでした。不貞行為と、子どもへの愛情は別問題と判断されたのです。

この最高裁判所の判断を前提とすると、父が不貞行為をしたことを理由に、子から父に対して慰謝料を請求しても、認められない可能性が大きいと思われます。

——父は家を出てから仕送りもしてくれなかったそうですが…

確かに、父には、妻子を扶養する義務(生活費を負担する義務)がありますが、この問題は、母から父に対して子の生活費を含む婚姻費用を請求することで解決すべきだったと考えられます。

したがって、父が生活費を払わなかったことを理由に、子が父に対して慰謝料を請求しても、認められない可能性が大きいと考えられます。

●母から父への慰謝料請求も難しい可能性

——では、母から父に対する慰謝料請求は認められるのでしょうか

結論から申しあげますと、認められる可能性もありますが、確実とは言えません。

一般的には、父が不貞行為をしたことによって、最終的に離婚せざるをえなくなったとすれば、父の不法行為によって、母が離婚による精神的損害を受けたと言えますので、慰謝料が認められると考えられます。

しかし、今回のケースは、父が出て行ってから35年間も経過しています。その間、母が婚姻関係を修復するための努力をしなかったとすれば、離婚の原因が、父の不貞行為ではなく、長期の別居による婚姻破綻であると認定される可能性も考えられます。そうなると慰謝料の請求が認められない可能性があります。

ただし、その場合でも、父母の経済状況次第では、財産分与等の名目で、夫から妻に対していくらか支払うべきという判断がなされる可能性はあると思います。

なお、35年前に、父が突然母子をおいて出て行き、それ以降生活費も支払わなかったとすれば、父の行為はいわゆる「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。しかし、母が父に対して婚姻費用を請求せず、また、婚姻関係の修復の努力もしなかった以上、慰謝料請求は難しいと考えられます。

——すぐに法的措置を取らなければ、数十年後に慰謝料請求しても望みは薄いということですね。

おっしゃるとおり、請求するタイミングはとても大切です。 今回のケースの結論としては、母から父に対して、不貞行為による慰謝料を請求すれば、慰謝料を払うべきと認められる可能性もありますが、確実とは言い切れないと考えられます。

プロフィール

近藤 美香
近藤 美香(こんどう みか)弁護士 エトワール法律事務所
弁護士登録直後から大手弁護士法人にて500件以上の離婚・不倫慰謝料問題の解決に関与。夫婦カウンセラー資格保有。これまでのキャリアを生かし、独立後も引き続きこれらの問題に注力しています。

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