「離婚する際に、ペットの親権をとることはできますか」、「離婚に向けて話し合い中ですが、ペットをどちらが引き取るかでもめています」、「妻と離婚協議中。結婚後に飼い始めた猫を引き取りたいが、妻も譲らない」。
弁護士ドットコムに、ペットを夫婦のどちらが引き取るかで争っているという相談が複数寄せられています。
犬や猫などのペットを「家族の一員」として大切にしている人は少なくありません。結婚後に飼い始めたペットの親権はどのように決まるのでしょうか。
ペット問題に詳しい細川敦史弁護士の解説をお届けします。
●法律上は、ペットを人と同じように扱うことはできない
ーーそもそも、ペットの「親権」を主張することはできるのでしょうか。
現在、個人に飼われている犬猫の頭数は約1813万3000頭(2020年12月一般社団法人ペットフード協会による推計)と、15歳未満の子どもの人口(総務省統計約1533万人:平成31年4月1日時点)を大きく超えています。
犬は番犬として外につなぎ、猫は外飼いが当たり前といったかつての関係から、「家族の一員」、さらには「かけがえのない存在」と考える人が増えています。いわゆる「ペットの親権」(法律用語ではありません)は、ペットを人生のパートナーとする人が増えてきたことに伴い、新たに発生した問題といえます。
ただ、少なくとも法律上は、ペットを人と同じように扱うことはできません。民法でのペットの分類は「モノ」、正確に言うと「動産」です。離婚時にどちらがペットを引き取るか決める際は、基本的には家財道具などと同じように「所有権が誰にあるのか?」という観点から考えることになります。
一般論として、結婚後、婚姻期間中に飼い始めたペットであれば「購入した」、「無償で譲り受けた」、「拾った」など、どのような経緯でも、夫婦が協力して得た財産、つまり「共有財産」であり、財産分与の対象になると考えられます。
そのため、裁判所外の離婚協議であればペットをどちらが引き取るか話し合うことは可能です。ただし、協議ではまとまらず離婚調停をおこなう場合、裁判所としては財産的価値がない動産であるとして調停の対象としない可能性もあるため、注意が必要です。
●「ペットの立場に立って」考えていく必要がある
ーー話し合いでペットをどうするかについて決着がつかない場合はどうなるのでしょうか。
その他の夫婦共有財産とあわせて、裁判所が判断することになると思われます(調停と同様に、財産的価値がないことを理由に審判の対象としない可能性はあります)。動物は、モノとは違って「命あるもの」(動物愛護管理法2条)であることから、子どもの親権を決めるときの考え方を応用できると考えられます。
たとえば、普段の餌や水、糞尿の処理、散歩などの世話をしていたのはどちらか、別れた後の居住環境が整っているか(特にペット可の物件か)、十分な収入があるかといった事情が重要なポイントです。
ちなみに、夫婦の一方が結婚前から飼っていたペットは、連れてきた側の特有財産で、個人のものとなります。もう一方が、主に世話をしてかわいがり、ペットがなついている場合でも、結論は変わらず、離婚時は所有者としてペットを引き取ることが可能です。
離婚に至った夫婦の多くは、相手方に対する信頼が大きく損なわれていますので、お互いが「大切なペットを渡すことは絶対にできない」という思いを抱くのは無理もないことです。
しかし、子どもの親権と同様に、「ペットの立場に立って」、ペットにとって幸せな環境を冷静に考えていく必要があるでしょう。
誰しも、一歩引いて冷静に見つめることはなかなか難しいものです。一人で考え込まず、弁護士に相談していただければと思います。
(弁護士ドットコムライフ)