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<児童虐待>「子育てを楽しんでいた」母親は、なぜ我が子を「餓死」させたのか?
ルポライターの杉山春さんが登壇した

<児童虐待>「子育てを楽しんでいた」母親は、なぜ我が子を「餓死」させたのか?

児童虐待の問題を考えるシンポジウム「子どもの虐待死を悼み命を讃える市民集会」が11月16日、東京都内で開かれた。講演には、児童虐待死事件を取材してきたルポライターの杉山春さんが登壇し、小さな子どもを家に放置して餓死させた母親について、「当初は子育てを楽しんでいた時期があった」と話した。

子育てを楽しんでいた母親は、なぜ追いつめられたのか。異変に気づいた周囲の人間は、何かできることがなかったか。

●幼児2人を50日間放置して餓死させた母親に懲役30年

杉山さんが取材した虐待死事件の1つが、2010年に起きた「大阪2児餓死事件」だ。

2010年7月30日未明、大阪市西区のマンションで、3歳の女児と1歳半の男児が、変わり果てた姿で発見された。母親はマンションからほど近い繁華街ミナミで働く風俗嬢。当時の報道によれば、その前月の6月9日、母親は子どもたちを自宅に残して、1人で外出していた。

その間、一度も帰宅せず、子どもたちは約50日間放置された。子どもたちの遺体が発見されたときには、腐敗が進み、一部は白骨化していた。母親は殺人罪で有罪となり、懲役30年という重い刑が科せられた(2013年、最高裁で確定)。

この母親が幼い子どもを自宅に残し、自らは遊んでいたことをSNSで発信していたことなどから「なぜ?」と世間の関心を集めた。

事件を取材した杉山さんは、母親の境遇について、次のように話した。

「彼女は幼少期、実母からのネグレクト(育児放棄)を、思春期には家出などの非行を経験している。学校は、『困った子どもとは思っていたが、支援が必要とは思わなかった』。取材を進めながら、『孤独の中で育っている。彼女を思いやる人が1人もいない』と知って、愕然としました」

●「ママサークル」の立ち上げメンバーに

いっぽうで、母親は「当初は子育てを楽しんでいた」とも述べた。

母親は高校卒業後、職場で知り合った男性との子を妊娠し、20歳で長女を出産。当初は子育てを楽しみ、行政の支援を使い、ママサークルの立ち上げメンバーにもなった。姑との関係も良かったという。ところが、2人目の子どもを出産後、浮気にはしる。夫やその親族に浮気がばれ、さらに借金が発覚すると、一気に離婚へなだれ込んだ。

「離婚について話し合った家族会議の場で、この母親は『1人で子育てをしていく自信がない』と思っていた。しかし、周囲の『お母さんと子どもを離してはいけない』といった意識の中で言いだせず、子どもを引き取ることになりました」

周囲に助けを求められずに子育ての困難さを1人で抱え込み、その結果、事件が起こった。「育っていく過程で困難を抱えていると、他者を信頼する力や、困ったときに人を頼る力がとても乏しくなる」と杉山さんは話した。

裁判でおこなわれた心理鑑定で、母親に「解離」と呼ばれる症状があるという指摘があった。解離は、辛い体験から自分を切り離そうとする防衛反応の一つと考えられている。「解離を抱えている人には、問題が起きると『自分とは違う誰かが起こしている』と考え、問題を直視できない特徴がある」と杉山さんは語る。

●「子どもの声が聞こえる、おかしいなと思ったが・・・」

周囲の人間が子どもの異変に気づけなかったのか。実はこの事件では、深夜2時ごろに、部屋に残された子どもたちが「ママ、ママ」と呼ぶ声を聞いた人物が複数いた。

「1人は、同じマンションに住む女性でした。子どもの声が聞こえることを職場の同僚に相談し、児童相談所に数回通報しましたが、施設には当時、虐待の通報が多数寄せられており、対応しきれなかった。子どもの声に気づいた他のの住人は、『声が聞こえる、おかしいな』とは思ったが、戸を閉めてしまった」

杉山さんは、「おかしいな、と思うことを人に話して分かち合うことで、もう1つの力になることもあると思う」と語る。

また行政に対しては、「虐待がどうやって起こるのか、(解離といった)病理性を抱える人たちの内面とはどういうものなのかという正しい知識が、現場の人たちの間で知られることが求められている」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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