日弁連は4月25日、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)の成立に反対する市民集会を弁護士会館で開いた。集会では、立命館大学大学院の松宮孝明教授(刑法)と海渡雄一弁護士が講演し、「捜査機関の恣意的な検挙やプライバシーに立ち入って監視するような捜査が増える可能性がある」と法案の危険性を訴えた。
●本当に「テロ」準備罪なの?
政府は「テロ等準備罪」と表現しているが、処罰の対象は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」(法案6条の2)となっており、テロ集団に限定していない。また、組織に属していなくても関与があれば対象になるとされている(6条の2第2項)。
松宮教授は、「どんな答弁があろうと、条文を普通に読んだら、一般の市民にも適用されることがわかる」と述べ、政府答弁に惑わされず、条文に当たることの重要性を強調する。
「テロを本気で防ぐつもりなら、警察組織の改革が必要。日本語、英語に加え、最低でもアラビア語は必要だろう。日本語しかできない警察組織が共謀罪を用いるのだとしたら、テロ対策とは言い難い。目的は別のところにあるのではないか」(松宮教授)
●幅広い対象、所得税法や著作権法は必要か?
対象となる犯罪も277種類(衆院事務局によると316種類)と広範だ。海渡弁護士によると、たとえば、ブラック企業を批判するビラを撒こうとしたら、法案の条文上、組織的信用毀損罪の共謀罪になり得るという。
馬鹿げた話のように思えるが、条文の対象が曖昧だからだ。最終的には処罰されないにしても、共謀罪を根拠に、警察の捜査対象になる可能性はある。このほか、所得税法や著作権法など、生命や身体に影響がなさそうなものも対象とされている。
「この世の中には、未然に塞がないといけない犯罪はあると思う。ただ、必要性の高いものについては既に予備罪などがある」(海渡弁護士)
対象には、これまでは実行しなければ罰せられなかったものもある。たとえば、傷害罪。これまでは実行直前に思い直せば、処罰されなかったが、共謀罪に該当すれば、計画しただけで処罰される可能性がある。「共謀罪法案は、刑法体系を覆し、国家が市民社会に介入する際の境界線を大きく引き下げるものだ」(海渡弁護士)
●市民が声を上げにくくなる可能性
共謀罪をめぐっては、「普通に暮らしている市民には関係がない」と賛成する声も多い。これに対し、海渡弁護士は「今は周囲に不満がなくても、声をあげなければならなくなる日が来るかもしれない」と反論する。
「原発事故で故郷を追われるかもしれないし、ブラック企業に入ってしまうかもしれない。しかし、電力会社やブラック企業を批判しようとすると、組織的信用毀損罪の共謀罪になる可能性がある。
小林よしのりさんも(4月25日の衆院法務委の参考人質疑で)言っていたが、『ものを言う市民が萎縮し、民主主義が健全に成り立たなくなる』可能性がある。想像力を強く働かせることが大切だ」