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「るろ剣」「進撃」など人気漫画「自炊代行」摘発、なぜアウトになるのか?
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「るろ剣」「進撃」など人気漫画「自炊代行」摘発、なぜアウトになるのか?

「るろうに剣心」や「進撃の巨人」などの人気漫画をスキャンし、複製データが入ったDVDを販売したとして、京都府警は11月30日、書籍電子化代行業の男性(35)を著作権法違反(複製権の侵害など)の疑いで逮捕した。

報道などによると、逮捕の容疑は、2016年の4月から7月にかけて、「坂本ですが?」「るろうに剣心」「進撃の巨人」など人気漫画を計64冊分スキャンして複製データを作成し、そのうち48冊分のデータがはいったDVDを男女2人に約5700円で販売した疑い。

書籍を裁断・スキャンして電子書籍化するいわゆる「自炊」行為は、個人的に使うのならば問題はないが、自炊作業を代行する業者について、著作権侵害にあたるとする判決が確定していた。その後の摘発は全国初とみられる。

所有する本を電子データ化したい一般人にとって、自炊業者はわずらわしい作業を代行してくれる面で便利な側面もあっただろう。今回の逮捕についてどう考えればいいのか。著作権の問題に詳しい冨宅恵弁護士に聞いた。

●「複製」してもいいのはどんな場合なのか?

今回のケースは著作権者のどのような権利を侵害したのか。

「一般的に著作権と呼ばれる権利は、著作物に関する様々な権利の総称です。今回問題とされたのは、その一つの複製権という権利です。

複製とは、印刷、写真、複写等の方法により著作物を有形的に再製することといい、紙媒体に再製するだけでなく、デジタル信号によりCDやDVD、ハードディスクに記録し再現することできる状態にすることも含まれます。

ですから、書籍をデジタルデータに変換しDVDに記録することは、まさしく複製にあたり、権利者の複製権を侵害する行為となります」

個人が自分の持っている書籍などを電子化することも違法になるのか。

「適法に取得した著作物を一切複製することができないとなれば、著作物を取得した者にとって不便であるばかりでなく、著作物を有効に活用することができないこともあります。

そこで、著作権法では、著作物を適法に取得した者は、個人的に、家庭内またはこれに準ずる限られた範囲の複製は認められています」

●「自炊代行業者に対して厳しい対応が求められていた」のはなぜか?

今回のケースは、顧客の求めに応じて、顧客が持っている著作物を複製したと考えられるが、限られた範囲にはあたらないのか。

「紙媒体で表現された著作物をデジタルデータ化するという行為は、データ化されることで、その後の複製が非常に容易になり、繰り返し複製が行われる危険性や、インターネットを利用して容易に世の中に拡散する可能性があるので慎重に考えなければなりません。

そのため、著作権法では、『公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製すること』は認められていません。

難しい言い回しですが、簡単に言えば、誰でも自由に使えるように設置されていて、ボタンひとつでコピーができるような装置で複製してはいけないということです。これではコンビニのコピー機も含まれてしまいそうですが、例外的にこうした装置に含まれないとされています」

自炊代行業者が利用する装置は含まれるということだろうか。

「そうです。自炊代行業者は、不特定多数の者のために紙媒体の情報をデジタルデータ化し、DVD等の媒体に記録する機器を設置しています。

ですから、自炊代行業が書籍を裁断・スキャンしてDVD等に記録して電子書籍を作製する行為は、著作権法で禁止されている複製となります。

そもそも、複製権は、複製物が市場に流通し権利者に多大な損害が発生する前に、著作物をコントロールすることで権利者の権利を保護しようとする権利ですから、権利者の立場にたてば、著作権法で禁止されている自炊業者による著作物のデータ化に対しては、厳しい姿勢で対応していく必要があります。

また、昨今では、発売直後の日本のコミックが海外サイトで無償閲覧でき、これによる被害金額が莫大な額に及んでいるとの推計も存在します。

この問題の元凶ともいえる著作物のデータ化、特に、不特定多数を相手にデータ化を行う自炊代行業者に対しては、厳しい対応が求められていたところです。このような事情が、今回の立件の背景として存在するのです」

一方で、自炊代行業者がなくなってしまうと不便だという声もあるが。

「そうですね。大量の著作物をデータ化することにより管理が容易となり、著作物の利用も非常に便利になるという面があることも事実です。

今後の検討課題ではあるものの、自炊業を登録制として、登録した業者については、データ流出防止に向けた対応をとらせるといった対策をとることによって、自炊業者からデータ化された著作物が流出することがない手だてを講じつつ、自炊代行業を認めていくということも考えていかなければならないと考えています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

冨宅 恵
冨宅 恵(ふけ めぐむ)弁護士 スター綜合法律事務所
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://www.youtube.com/c/starlaw>

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