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「奨学金返済のため、ブラック企業でも辞められない」識者ら、制度拡充を要求
大内裕和教授

「奨学金返済のため、ブラック企業でも辞められない」識者ら、制度拡充を要求

奨学金問題を考えるイベントが11月14日、東京・永田町であり、国会議員や識者らが「貸与ではなく給付、有利子ではなく無利子の奨学金制度を整備すべき」などと制度の拡充を訴えた。

「ブラックバイト」問題の提唱者である、中京大学の大内裕和教授は、学生が学費や生活費などを稼ぐために、アルバイトせざるを得ず、学業に集中しづらくなっていると指摘。さらに奨学金を返済するため、就職先がブラック企業でも辞められなくなっているなどとして、「奨学金の改善は緊急の課題だ」と語った。

現在、学生の2.6人に1人が「日本学生支援機構」の奨学金を利用しているが、すべて返還の必要がある「貸与型」で、約7割が利子つきだ。政府は、2017年度から低所得者について、無利子の奨学金の成績基準を大幅緩和することを決めた。

また、返済不要の「給付型」奨学金についても、2017年度から私立大の下宿生などに対象を絞って先行導入し、2018年度から本格実施する方針で議論が進められている。ただし、成績や収入に大幅な条件がつく可能性が高く、金額も月額3万円程度が想定されている。会場に集まった識者らは、これらの変更を「第一歩」と評価しつつも、より充実した制度を検討するよう求めた。

●「いつまで学生に甘えるのか」

以下、会場で出た論点をいくつか紹介したい。

<予算の問題>

奨学金を拡充するためには、予算が必要だ。しかし、奨学金政策を担当する文科省の予算には限りがある。子どもの貧困問題に取り組むNPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長は「文科省の予算内でやりくりするというロジックはナンセンス」と話し、省の枠組みにとらわれない予算組みを求めた。

<高齢者世代との認識のギャップ>

和光大学の竹信三恵子教授は、自身が学生だった1970年代前半は、国立大学の学費が年間3万6000円だったと振り返る。物価は違うものの、現在の国立大の学費は年53万円ほど。学生が置かれた状況は大きく違う。竹信教授は「いつまで学生に甘えるのか」と現状に即していない制度の不備を批判するとともに、年配者が奨学金問題の深刻さを理解していない可能性を指摘した。

<授業の充実>

せっかく進学し、高い学費を払っていても、教育内容が充実していなければ意味がない。東京大の本田由紀教授は、「大学教員として、内容を費用に見合うものにして行く必要がある。『大学教育は役に立たなくても良いんだ』という教員に対して、苛立ちを感じる」と語った。

<日本学生支援機構の取り立て>

返済を延滞すると利子が増え、いくら支払っても元金が減らなかったり、日本学生支援機構から裁判を起こされたりする。支払い困難者を支援する鴨田譲弁護士によると、生活に余裕がないから延滞しているのに、機構側は延滞者に対し、一括の支払いを求めてくるという。

鴨田弁護士は、こうした機構の姿勢を「払えないなら破産しろ、破産しないなら全額払えという方針になっている」と批判。返したい気持ちはあるが、生活が苦しく返せない人が多いとして、「少しずつでも返してもらった方が機構としても良いはず。返したいという人の立場に立った制度設計をしてほしい」と訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

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