離婚調停中の妻のメールを不正に盗み見た——。6月18日、大分市の男がそんな容疑で逮捕された。朝日新聞によると男は昨年、当時別居中だった妻が利用するインターネット上のメールサービスに不正アクセスし、メールを計196回のぞき見たとして、不正アクセス禁止法違反の疑いがもたれている。
この夫婦は当時、離婚調停中だったという。しかし、特に夫婦間に問題はなくても、相手の浮気を心配した夫や妻などが、パートナーのメールを「ついつい見てしまう」ことはあるかもしれない。夫婦でパソコンを共用している場合などは、IDやパスワードを入れなくても簡単に相方のメールが見られる状態になっているケースもあるだろう。
では、たとえば、メールのIDやパスワードが保存されているような状態のパソコンを使って、パートナーのメールを読んだ場合でも、不正アクセス禁止法違反になってしまうのだろうか。それは、夫や妻の携帯電話を盗み見た場合と、何か違いがあるのだろうか。堀井亜生弁護士に聞いた。
●アクセス制限をかいくぐってサービスにアクセスするのが「不法アクセス行為」
そもそも、不正アクセスとは、どういう行為をさすのだろうか。
「不正アクセス禁止法における『不正アクセス行為』とは、『アクセス制御機能による特定電子計算機の利用制限を免れて、その制限されている特定利用をできる状態にさせる行為』です。こうやって説明すると難しいですが、要するに、ID・パスワードなどの制限によって、特定の人しか使えないようになっている状態を、特定の人以外が利用できる状態にさせることです」
このように堀井弁護士は解説する。注意したいのは、不正アクセス禁止法がいうところの「特定電子計算機」というのは、ネットワークに接続されたコンピュータのことを指すということだ。つまり、インターネット社会において、ネットワークを介して遠隔からコンピュータにアクセスするような場面を想定しているのが、不正アクセス禁止法というわけだ。
したがって、Gメールのようなインターネット上のメールサービスにアクセスする場合も、不正アクセス禁止方法の対象となってくる。
「今回逮捕された事案のようにIDとパスワードを入力してログインし、メールを閲覧することは、他人の識別符号を入力することでアクセス制限機能による利用制限を免れて、当該サービスを利用できる状態にする行為、すなわち、同法2条4項1号の『なりすまし』行為にあたります。
もし、IDとパスワードが保存されていた状態であったとしても、それを利用してログインをし、メールを盗み見た場合には本条に該当し得ると言えます」
●「ネット上」のメールサービスと「パソコン内」のメールで結論がかわる
では、ネット上のメールサービスではなく、パソコン内のメールボックスに保存されたメールを見た場合はどうなのだろうか。
「不正アクセス禁止法が対象としているのは、電気通信回線(ネットワーク)に接続されたコンピュータに対して、その電気通信回線を通じてアクセスする行為です。したがって、単にパソコンにかかっているロックを解除し、既存のメールを盗み見る行為は、不正アクセス禁止法の対象外であり、現在取り締まる法律がないのが現状です」
携帯電話の場合は、どうだろうか。
「パソコンの場合と同様に、ロックのかかった携帯電話のパスワードを入力して中のメールを盗み見た場合も、不正アクセス禁止法の対象外です。しかし携帯電話でも、IDとパスワードを用いてクラウド上のデータにアクセスした場合には、同法の適用があると考えられます」
つまり、不正アクセス禁止法という観点からは、ネット上のメールか否かで、結論が変わってくるということだ。そのような点も踏まえ、堀井弁護士は次のようにアドバイスしている。
「夫婦であれば、相手のメールをこっそり見ることは法律上問題ないと思っている方も多いようです。しかし、携帯電話であってもパソコンであっても、IDとパスワードを入力してサーバーにアクセスする場合には、不正アクセス禁止法に該当しうるため、注意が必要です」