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「小6少女」が缶を分別するゴミ箱を開発して「特許取得」なぜ小学生にできたのか?
特許公報に掲載されたゴミ箱の図

「小6少女」が缶を分別するゴミ箱を開発して「特許取得」なぜ小学生にできたのか?

愛知県安城市の小学校6年生、神谷明日香さん(12)が、磁石の力を利用してスチール缶とアルミ缶を自動的に分別するゴミ箱を開発して、「特許」を取得したことが話題になっている。

報道によると、神谷さんは昨年の夏休みの課題として出された自由研究をきっかけにゴミ箱を作るようになった。スマートフォンアプリを開発して特許を取得したことがある父親に薦められて、昨年12月に出願。今年8月に認められた。

開発の際には、磁石の力でアルミとスチールを分別することはできても、スチール缶に磁石がくっついて、缶が落下しないことが課題になった。板の大きさや形を調整しながら、うまく缶が落下するように工夫したそうだ。

小学生が特許を持つというのは珍しいが、今回の特許のポイントはどこにあるのだろうか。特許問題にくわしい木村貴司弁護士に聞いた。

●小学生の自由で素直な発想から生まれた

「特許制度で保護されるものは発明です。人の願望や抽象的なアイディア自体は保護されず、その願望を実現するための具体的手段(具体的なアイディア)を保護します。

缶を分別するために磁石の特性を利用するという抽象的なアイディア自体は、これまで第三者も着想していたのですが、その着想を具体化した空き缶分別機は複雑な構造のものしかありませんでした。

今回の神谷さんの特許は、缶の投入口の内側の壁の下端付近に磁石を設け、その下にシート片を垂らして設けるという、非常にシンプルな構造で実現したことにポイントがあります。

この構造により、投入口から投入されたスチール缶は磁石により力を受け、シート片を押し退けて、シート片の奥にあるスチール缶入れに落下します。他方、アルミ缶は磁石の影響を受けないためシート片を押し退けることがなく、そのまま下に落下し、アルミ缶とスチール缶の分別を可能としました」

小学生でも簡単に作れるものなのか。

「神谷さんは、単に頭の中で抽象的なアイディアを発想しただけでなく、実際に試作し、何度も実験を繰り返して試行錯誤し、缶の分別に最適な構造という具体的なアイディアまで見出したことが特許取得につながりました。

大人であれば、いろいろと複雑な構造を考えてしまいがちで、頭で考えるだけで手を動かさないことも多いのですが、小学生の自由で素直な発想、そして、実際に手を動かし試行錯誤する行動力があったからこそ、この発明が生まれたといえます」

●取得した「特許権」は他人に売ることもできる

特許は一般人でも取得することができるのか。

「一般的に特許といえば、企業が取得するもの、また、いわゆる発明家と言われる特定の方が取得するものというイメージが強いかと思いますが、今回の例でも分かるように、一般の方でも特許を取得することはもちろんできます。

特許を取得することにより発生する特許権は、自分が独占して実施でき、他人の実施を排除できるという強力な権利です。ただ、実際に一般の方が特許を取得したとしても、工場等は持っていませんし、事業化するには資金もかかりますので、自らが特許発明を事業としてすぐに独占排他的に実施することは困難でしょう。

しかし、特許権は、それ自体が財産的価値のある権利ですので、自ら実施するのではなく、その実施する権利を他人に付与することもできますし、場合によっては権利自体を有償で譲渡することもできます。事業化を望む企業に対して、特許権の実施権を付与したり譲渡することで、その財産的活用を図ったり、また、企業と一緒になって事業化を図っていくこともできます。

このように特許取得には大きな夢があります。もっとも、特許取得のための手続は複雑で、権利が付与されるには、これまで世の中になかった新規なもの、既存の発明から容易に思いつかないものであること等、様々な要件が課せられます。また、特許の権利範囲は特許書類に記載された内容で定められますが、自らのアイディアを文字で的確に表現できていないと、せっかくの素晴らしいアイディアが適切に保護されないこともあり得ます。

これらを一般の方が全てを自力で行うというのはなかなか困難な面もありますので、まずは特許出願の専門家である弁理士に相談されたほうがよいでしょう」

木村弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

木村 貴司
木村 貴司(きむら たかし)弁護士 松島・木村法律事務所
大手電子部品メーカーで半導体エンジニアとして従事した後、弁理士として企業知財実務を経験し、弁護士となった弁理士・弁護士のWライセンサー。特許、商標等の知的財産権の問題を中心に取り扱う。

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