フェイスブックのボタン1つで、離婚書類の送付が可能になった――。SNSの普及が目覚ましいなか、米ニューヨーク州の地裁は、26歳の看護師の女性に対して、連絡が取れなくなった夫との離婚手続きをフェイスブックのメッセージ機能で進めることを認めた。
報道によると、女性は2009年に夫と結婚したが、価値観の不一致などのため、当初から別居していたという。夫は2011年以降、住所不定になり、定職もなくなった。電話かフェイスブックでしか連絡が取れない状況だったが、夫は離婚を拒否していた。
同州の離婚手続きでは、相手が関連書類に署名することが必要だが、書類の送付先が分からなかった。このため裁判所は2015年3月下旬、妻の代理人弁護士がフェイスブックのメッセージ機能を使って、夫に裁判所への出頭を求める判事命令を送ることを特別に許可した。
日本でも別居中のパートナーの住所が分からなくなるケースがありそうだ。米国のように、フェイスブックで離婚手続きを進めることは認められるだろうか。離婚問題にくわしい篠田恵里香弁護士に意見を聞いた。
●日本では「メッセージ機能での送信は認められない
「裁判所が離婚書類のメッセージ送信を許可したとは、画期的な判断ですね」
篠田弁護士も驚きの声をあげた。
「ニューヨーク州の離婚手続きは、まず書類が相手に届かないと手続きが進まないので、この判断に至ったのでしょう。離婚したいほうが裁判所に離婚嘆願書を提出し、離婚書類を相手に送付することで始まるのです。その後、相手が同意・署名すれば、離婚成立。相手が異議を申し立てたら、法廷で争う、という形です」
フェイスブックやラインだけで「つながっている」という別居夫婦は、日本にもいるのではないか。便利な「フェイスブック離婚手続き」は、日本でも導入できるだろうか。
「日本でも、裁判をするには、相手に対する『訴状の送達』が必要です。送達は、紙の書類を郵送等により交付する方法が原則です。フェイスブックなどのメッセージ機能での送信は認められていません」
●相手が住所不定のときに使える「公示送達」
米国のケースと同じように、日本でも、相手の住所がわからない場合は「訴状の送達」ができないのではないだろうか。
「相手が行方不明といった理由で、書類を直接、相手に送ることができない場合は、『公示送達』という制度があります。管轄裁判所の掲示板で訴状を『公示』することで、送達したことにするのです。
これを使うと、相手に書類が届かなくても『送達完了』になり、相手方不出頭のまま裁判所の離婚判決をもらえます。また、日本の法律では、『配偶者の生死が3年以上不明』の場合も、離婚判決がもらえます」
ただ、現代では、裁判所の公示よりも、フェイスブックのメッセージ機能を使ったほうが確実に相手に伝わるのではないか。
「そうですね。実際、公示送達は煩雑でもあるので、日本でもSNSによる送達制度ができれば、相当便利になるとはいえます。ただ、受け取る相手の本人確認の方法が乏しい現状では、実用化するにはまだ検討が必要だといえるでしょうね」
篠田弁護士はこのように話していた。