銭湯で女児を盗撮したら「児童ポルノ」の製造になるのか――。兵庫県尼崎市の銭湯の男性用脱衣所で、女児2人の裸を腕時計型ビデオカメラで撮影した男性が8月14日、兵庫県警に逮捕された。児童ポルノ禁止法違反(盗撮による児童ポルノ製造)の疑いということだ。
報道によると、今回の逮捕容疑である「盗撮による児童ポルノ製造」は、7月施行の改正児童ポルノ禁止法で新設された犯罪で、全国で初めての適用だという。盗撮行為については、これまで各都道府県の迷惑防止条例などが適用されてきたが、対象となる法令が広がったのだ。
今回は銭湯の男性用脱衣所での「盗撮」ということだが、児童の裸を盗撮したとしても、必ずしも児童ポルノ禁止法に違反するとは限らないという。それは、どういうことなのか。児童ポルノ禁止法にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●従来は「建造物侵入罪」「迷惑防止条例違反」「窃視罪」の3つ
まず、盗撮行為について、これまでどのような法令が適用されてきたのか、奥村弁護士は説明する。
「これまでも、公衆浴場などでの盗撮行為は検挙されていましたが、適用の可能性がある法令は、(1)刑法、(2)県迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)、(3)軽犯罪法の3つでした。それぞれの罪名と罰則は次のとおりです。
(1)刑法130条: 建造物侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)
(2)兵庫県迷惑防止条例3条2項、15条1項: 盗撮による卑わいな言動(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)
(3)軽犯罪法1条23号: のぞき見た点で窃視罪(拘留または科料)
このなかでは、建造物侵入罪が最も重いのですが、成立するためには、盗撮目的で侵入したことが必要です。しかし今回の事件のように、自分も男湯に入浴するという目的があれば、建造物侵入罪は成立しません。そこで、迷惑防止条例違反か、窃視罪ということになります」
●児童ポルノ禁止法に新設された「ひそかに製造罪」
今回は、そこに児童ポルノ禁止法が加わったということだが、どういうことだろうか。
「盗撮の被害について、罰則が軽すぎるという批判が以前からありました。特に児童が盗撮されることもあったので、今回の児童ポルノ禁止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)の改正によって、盗撮に関する条項が盛り込まれたのです。
具体的には、児童ポルノ禁止法7条5項ですが、次のような内容です。
『第2項に規定するもののほか、ひそかに第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第2項と同様とする』
これは『ひそかに製造罪』と呼ばれるもので、罰則は児童ポルノ提供罪などと同じく、『3年以下の懲役または300万円以下の罰金』とされています」
この条文をどう解釈すればいいのだろうか。
「提供などの目的がなく、しかも性的な姿態をとらせていない場合でも、『ひそかに』撮影する行為を処罰するものです。ですから、今回のように女児の裸を盗撮することが該当します。
罰則は『3年以下の懲役または300万円以下の罰金』ですから、さきほど挙げた3つの法令と比べると、最も重いことになります」
児童ポルノ禁止法の「ひそかに製造罪」のほうが、建造物侵入罪や迷惑防止条例違反などよりも罰則が重いということだが、内容にはどんな違いがあるのだろうか。
●学校や住宅での盗撮行為も処罰される
「迷惑防止条例と比べると、『公共の場所で』という限定がありませんので、学校や個人の住居などでの盗撮行為も処罰されます。
一方、迷惑防止条例では、カメラを構えただけでも『卑わい行為』として処罰される可能性がありますが、児童ポルノ禁止法の『ひそかに製造罪』は、あくまでカメラに撮影された段階で犯罪が成立することになります。また、『未遂』の処罰はありません。ですから、カメラを向けただけの場合や、撮影に失敗した場合は『ひそかに製造罪』とならないのです」
今回のケースでは、報道を見る限り、実際に「撮影」したようだ。だが、別の点で、「ひそかに製造罪」にあたるかどうかが問題になるという。それは、撮影された写真が「児童ポルノ」といえるのかという点だ。
●盗撮写真が「児童ポルノ」にあたるかどうかが問題
「盗撮の場合の児童ポルノの要件は、次のようなものです。
『衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの』(2条3項3号)
男湯におおむね10歳までの女児が入浴することは、条例などで許容されています。その場面を撮影した場合に、『児童ポルノ』ととしての要件を満たすかどうかという問題(大阪高裁H24.7.12参照)があります」
つまり、銭湯の男湯脱衣所にいる女児の裸を撮影した場合に、その写真が「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるのかどうか、ということだ。
児童の裸の写真のすべてが「児童ポルノ」にあたるわけではないので、今回も、この点は争点になりうるのだという。奥村弁護士は「盗撮に成功したとしても、必ずしも『ひそかに製造罪』が成立するとは限りません」と指摘している。
「今後も、盗撮行為については、事案に応じて、(1)刑法(建造物侵入罪)、(2)迷惑防止条例(卑わいな言動)、(3)軽犯罪法(窃視罪)、(4)児童ポルノ禁止法(ひそかに製造罪)を使い分けていくことになります」
奥村弁護士はこう締めくくっていた。