「インフルエンサーにSNS投稿してもらう時には、『#PR』と入れないとダメですよね?」。そんな質問が弁護士ドットコムニュースに寄せられました。
相談を寄せた都内のIT企業の担当者によれば、自社の製品に関する投稿を依頼したところ、最後の投稿の段階になって「『#PR』って入れないとダメだって知らなかったです」と言われ、困惑したそうです。
このインフルエンサーはまだマイクロインフルエンサーと言われる、フォロワーが数万人程度の方でした。担当者は「とはいえ、仕事は他にも受けてきたはずですし、このクラスの子でもステマはダメだって知らないんだなと驚きました」と話します。
SNSや口コミサイト、ブログ、YouTubeなどで「これって本当に第三者の感想?」「広告って気づかなかった」という経験がある方も多いはずです。どんな場合、ステマに該当するのか。そして問題になったケースとは。
少し難しいステマに対する法的規制について、簡単に解説します。
●ステルスマーケティングとは?
「ステマ」とは、広告であるにもかかわらず、その事実を隠し、あたかも一般人の感想や中立的なレビューのように見せる宣伝行為のことです。
たとえばSNSでの「このコスメ、今まで使った中で一番でした!」という投稿や、口コミサイトでの高評価レビューが、実は企業から依頼された広告であるにもかかわらず、その旨が明示されていないケースが該当します。
広告だと分かっている情報については、消費者は「これは広告だから、多少は誇張されているだろう」と考えて、誇張されていることは分かったうえで商品やサービスを選びます。
しかし、広告であることが隠されてしまうと、第三者の本音や感想だと信じてしまい、誤った選択をしてしまうこともあります。
こうした「隠れた広告」(ステマ)から消費者を守るため、2023年10月、景品表示法によって正式に規制される改正が行われました。
●景品表示法での規制内容
これまでも「優良誤認表示」や「有利誤認表示」など、消費者をだますような広告は景品表示法で禁じられてきましたが、2023年10月「ステルスマーケティング」も不当表示として規制されることになったのです(景品表示法5条3号)。
同条は「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」を、ステルスマーケティングとして禁じています。
おおざっぱにいうと、企業が自社の商品などを宣伝するにあたり、「一般人の感想のふり」をし、消費者がそれを広告だと見抜けない場合、違法とされるのです。
なお、インフルエンサーやブロガー本人が自分の感想を投稿する場合は対象外ですが、企業から依頼を受けたのにその事実を隠す場合は規制対象となります。
●実際に措置命令を受けた例
最近、実際にステマ規制によって消費者庁から措置命令を受けた例がいくつか発表されています。
1)ロート製薬(製薬会社)(2025年3月25日)
モニターを募集して自社商品「ロートV5アクトビジョンa」というサプリメントを無償で提供し、インスタグラムでロート製薬側が指示した方針に沿った内容で投稿するように依頼しました。
そして、そこで投稿された画像を自社サイトで「”わたしも”使っています from Instagram」などという表示とともに転載していましたが、会社が依頼した投稿であることが表示されていませんでした。
なお、ロート製薬によると、その投稿を自社サイトで表示する際、投稿のうち1件に設定にミスがあってPRであることが分かる部分が表示されなかった結果、措置命令が下されたようです。
2)RIZAP(フィットネスジム)(2024年8月8日)
自社サービスの「ChocoZAP」について、第三者に対価を提供し、インスタグラムで自社サービスに対する好意的な感想を投稿してもらっていました。
そして、その一部(「気になっていた『chocoZAP』ついに入会しちゃった」、「なんと完全個室のセルフ脱毛が使い放題 !!←これにかなり惹かれた感ある」、など)を抜粋して、「SNSでの投稿でも話題」として自社サイトに掲載していました。
その際、RIZAPが依頼した投稿であることを明らかにしていませんでした。
3)医療法人祐真会(クリニック)(2024年6月7日)
インフルエンザワクチンを接種しに来た人に対し、Googleマップ内の口コミ投稿欄で星4・星5をつければワクチン接種費用を割引すると伝え、ワクチン接種者がそれに応じて高評価を投稿していました。
この投稿は、一般の消費者からすると、事業者の表示であることがはっきりしない(純粋な口コミだと思われてしまうおそれがある)ため、措置命令が下されました。
●消費者が気をつけるべきこと
この規制によって、「広告」と「個人の感想」の区別が明確に求められるようになりました。
消費者としては、SNSや口コミサイト、ブログなどで見かけるレビューや評価が、本当に中立的な意見なのか、それとも企業から依頼を受けた「広告」なのかを意識して見ることが大切です。
今後は「#PR」や「広告」などの明示がされているかにも注目しましょう。
ステマ規制の導入は、消費者にとってはより正確な情報に基づいた商品選びができるようになる点で歓迎すべきことだと思われます。
反面、このような景品表示法の改正は、こういう規制が行われるほど、ステマが多いという現状を物語ってもいます。
SNSや口コミが溢れる今だからこそ、情報の正確性や、偏った情報でないかといった点を意識することが大切になっています。