弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. インターネット
  3. ダイヤモンド・オンライン連載企画/違法サイトからの請求は拒否せよ
ダイヤモンド・オンライン連載企画/違法サイトからの請求は拒否せよ

ダイヤモンド・オンライン連載企画/違法サイトからの請求は拒否せよ

ネット文化の発展により、最近はネット上でのトラブルが急増している。トラブルの原因や内容も多様化しているようだ。特に多いのは、アダルトサイトからの不正請求やネットショッピングで購入した商品に関するトラブル、出会い系サイトでのトラブルなどだ。これからご紹介する事例は、だれの身にも起こりうることだ。

●スケベ心は13万円也!解約するのも5万円!?

たとえば、こんな事例で困ったという男性の話を聞いたことはないだろうか?

あるアダルトサイトにアクセスし、「年齢確認ボタン」をクリック、その後「利用規約に同意する」のチェックボックスにチェックを入れ、そして「先に進む」をクリック――。

ここまで進んだら、いきなり、「会員登録が完了しました」というポップアップ画面が現れた。そして、こう記載されていた。

「ご入会日は*年*月*日です。あなたの会員番号は*****です。入会日3日以内に下記口座に登録料10万円と月額3万円のお振り込みをお願いします。お振り込みが遅延した場合には延滞料金3万円と日額1000円が加算されます」

不審に思い慌てて画面の隅々まで見ると、たしかに「利用規約に同意して先に進む」という画面に、目立たない小さな文字で、「本サービスの利用は登録料10万円と月額3万円の料金が発生します」と書いてあった。

気の迷いから、ついクリックしてしまい合計13万円……。払わざるを得ないのだろうか。

どうしようか悩んでいると画面上に、「解約についてはこちら→お客さまセンター090-****―****」と丁寧に解約の案内を発見した。「助かった!解約しよう」と思い、何の迷いもなく電話をかけると、お客さまセンターではあり得ない、太い声で人を食ったように、担当者がこうまくしたててきた。

「サイトにアクセスしましたね。お客さん、これ、有料サイトなんですよ。会員登録は完了しています。見ましたよね?有料だって書いてあるの。解約するなら5万円を違約金として払ってくださいね。そうすれば今後、利用料のお支払いは結構ですから。お支払いいただけないのであれば家族や勤務先に請求しますよ」

こちらの言うことなど、まるで耳を貸さない。一方的に電話は切れた。

トラブルに巻き込まれたくないし、家族や会社に知られたら困る。仕方なく、指定の口座に5万円を振り込んだ。5万円くらいなら、数ヵ月、飲みにいくのを控えれば、家計に迷惑をかけることもない。

ところが、これで終わりではなかった。その後、ひっきりなしに、聞いたこともない業者から、手を変え品を変え、勧誘や架空請求の電話が次々とかかってくるようになってしまった。

●カギとなる「注文確認画面」。有無にかかわらず契約無効は可能

今回のケースは、「ネット上の申し込みにおいて、画面上に形式的には料金や申し込み内容の表示がなされていたのに気付かず、申し込みボタンをクリックしてしまった」というものだ。結論からいえば、この「会員登録」については、そもそも契約が成立していないか、無効であると主張でき、登録料や違約金を支払う必要はない。

先の事例では「注文確認画面」がないことが、契約が無効と主張できる最大の理由だ。だが、たとえ確認画面があったとしても、契約無効の主張は可能だ。確認画面があった場合となかった場合の両方を、法律的に解説してみよう。

まず、注文確認画面がなかった場合(ワンクリック)だ。

電子消費者契約法第3条により、錯誤無効(勘違いを理由とする契約無効)を主張できる。同法3条によると、消費者がネット上で申し込みや承諾の意思表示を行う場合に、業者側が画面上でその「意思の確認措置」を講じていない場合には、申込者の「そんなつもりはなかった」という言い分が通る。申し込んだ契約の無効を主張できることになっているのだ。

一方で、「注文(登録)確認画面」が形式的には表示されており、「登録する」といったボタンをクリックしてしまった場合でも、諦める必要はない。

最近では、この電子消費者契約法を意識し、「クリックの回数を増やす」「わかりにくい確認画面を設ける」等、姑息な手段を講じる悪質なサイトも増えている。

消費者契約法4条1項1号は、「消費者に重要事項について虚偽の情報」を与えるような契約については、取り消すことができると定める。およそ、形式的に確認画面が設けられていても、登録(契約)内容がわかりにくい場所に小さい文字で記載されている等、記載内容や表示方法、構成、レイアウト等の状況によっては,「重要事項について虚偽の情報を与えている」と評価され、申し込みの取り消しを主張することができるのだ。

また、ボタンを押せば申し込みとなることや、申し込みの内容自体がわかりにくいような確認画面であれば、消費者に実質的に確認を求めているとは判断しえないため、「確認措置を講じたとはいえず、これを理由に契約無効を主張することもできる。「申し込みボタン」だと分からないようなケースであれば、そもそも契約が成立していないといえることもあるだろう。

今回のケースはいずれにせよ、登録料等の支払をする必要はないということになる。

●「支払わない」と断固として拒絶するべき

基本的には、このようなワンクリック詐欺業者は「支払わない」といって断固拒否すればそれで鎮まるケースが多い。断ってもしつこく請求をしてくるようなケースは、かなり悪質である。

脅迫を用いてお金を要求するようであれば「恐喝罪(刑法249条)」、当然支払い義務があるかのように申し向けてお金を要求するようであれば「詐欺(未遂)罪(刑法246条)」が成立する。

こういったワンクリック詐欺業者は、十分に「犯罪」であることを認識しながら組織的に動いていることが多いので、早急に警察や弁護士に相談しにいくべきである。

「特定商取引法」とこれに基づく省令の存在も私たちの味方となる。特定商取引法14条及び省令は、次の(1)~(2)に該当するインターネット取引については、「顧客の意に反して売買契約等の申込みをさせようとする行為」として禁止し、行政処分の対象としている。

(1)あるボタンをクリックすれば、それが有料の申し込みとなることを、消費者が容易に認識できるように表示していない

(2)申し込みをする際に、消費者が申込み内容を容易に確認し、かつ、訂正できるように措置をしていない(「前ページに戻る」ボタンや「変更・取消」ボタンを表示していない)

今回のようなサイトは、通常行政処分の対象になると考えられよう。

ネット上における個人情報の重要性も再認識していただく必要がある。いまや、個人情報は「売り買い」がされるほど重要なもの。悪用されるケースも増えているのだ。

例えば今回のようなワンクリック詐欺のサイトでは、下方に「解約を希望される方は、手続きに従って「解約」ボタンをクリックしてください。後ほど確認メールをお送りします」と書いてあることも多い。もし、前述のようにこれに従って「氏名・生年月日・住所・メールアドレス」を入力の上「解約」ボタンをクリックし、これに加えて解約手数料など振り込んでしまったら最後だ。

その後、メールや郵便で怪しい業者からの勧誘やパンフレット、身に覚えのない請求が一気に届くようになる。これは、悪徳業者間の“カモ”名簿に登録されたことを示している。悪徳業者の中では、このような「騙せるターゲット」を集めた“カモ”名簿なるものが売り買いされていて、いったん騙されお金を支払ってしまうと、「いい金づる」として目をつけられてしまうのだ。自分の個人情報はいったん悪徳業者に知られてしまうと、今後逃げ切れずに思わぬ被害を被ることを肝に銘じるべきだ。

●パソコンの操作間違いは救済の対象とはならない

最近のネット上のトラブルは多様化し、かつ急増している。そのトラブルに巻き込まれる危険は意外にも身近に存在しているものだ。

例えば、以下のようなケースが考えられる

・ネットオークションで商品を購入したら商品が届かなかった

・ネットショッピングの際にカード情報を抜き取られてカードを不正利用された

・出会い系サイトに登録したら、紹介相手が「さくら」で手数料をだまし取られた

・ネット上で誹謗中傷された

・ネットで個人情報が漏えいされた

・ネット上でストーカー被害にあった

・子どもがオンラインゲームで遊んで多額の料金が請求された

・サイトにアクセスしただけでウイルス感染した

こういったケースは、警察や弁護士を通じ、相手に対して法律上の手段をもって対抗することが可能である。

しかし、すべてのケースで対抗できるとは限らない。「ネットショッピングで注文した個数を間違えた」というようなケースは注意が必要だ。

最近のネットショッピングでは、電子消費者契約法に基づき、ほとんどのサイトで「注文確認画面」を設けている。したがって、商品を購入しようと思って「申し込み」ボタンを押し、「注文内容が記載された確認画面」が表示されたにもかかわらず、よく確認しないで「購入する」ボタンを押してしまうと取り返しがつかない。「2個」注文しようと思ったものを「22個」と注文してしまっても、法律的にはその代金を払わねばならないことになる。キーボードを思わず押してしまいがちなネットショッピングでは注意が必要だ。

●個人情報の入力には細心の注意を払うこと

ネット被害は、思わぬところに落とし穴がある。ただ、あまりに慎重になりすぎるとネット利用もままならなくなり困ってしまう。まずは、「申し込み」の際と、「個人情報入力」の際は慎重になること、「被害に遭った」と思ったらすぐ専門家に相談することを守っていれば一応は安心だろう。

まとめると、次のようなことに気をつけるとよいだろう。

(1)法律上、どのケースが保護され、どのケースが保護されないか、しっかり知っておく

(2)身に覚えのない請求には応じない、こちらから連絡しない

(3)「申し込み」ボタンをクリックする際は慎重になる

(4)個人情報を入力する際は慎重を期すること ※信用できるサイト以外では氏名・住所・電話番号などの個人情報の入力はしない

(5)買い物や会員登録の際、注文確認画面をしっかり確認すること

(6)怪しいサイトにはアクセスしない

(7)被害に遭ったかな?と思ったらまずは相談を

(8)騙されたと思ったら、サイトの情報はプリントアウトなどして証拠をとっておく。

(9)プロバイダ責任法に基づく発信者情報の開示請求などの手段もある

 

プロフィール

篠田 恵里香
篠田 恵里香(しのだ えりか)弁護士 弁護士法人アディーレ法律事務所
2008年に弁護士登録(東京弁護士会)。東京を拠点に活動。男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。多数のメディア番組に出演中。

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする