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芸能人の私生活をばらす「暴露系YouTuber」、法的に問題ないの?
写真はイメージ(USSIE / PIXTA)

芸能人の私生活をばらす「暴露系YouTuber」、法的に問題ないの?

芸能人の私生活などをばらす「暴露系YouTuber」。7月10日に投開票があった参院選では、NHK党から出馬したガーシー(東谷義和氏)が当選するなど、注目を集める存在となっている。

暴露系YouTuberの動画が人気となっている一方で、ネット上には、プライバシーを晒すことに批判的な意見も少なくない。そもそも法的な問題はないのか。芸能分野にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。

●社会的評価を下げれば「名誉毀損」に

ーー暴露系YouTuberの暴露行為は「名誉毀損」や「プライバシー権侵害」にあたらないのでしょうか。

たとえば、性加害や詐欺をしていると暴露すれば、その人の社会的評価が下がることは確実です。このように、社会的評価を下げた場合は名誉毀損にあたります。

ただし、(1)公共の利害に関する事実に係るものであり、(2)もっぱら公益を図る目的でされた場合、(3)摘示された事実が真実であれば、その違法性が阻却されるとされています。

また、社会的評価が低下するか否かに関係なく、私生活上の事実について暴露する行為は、プライバシー権侵害になりえます。名誉毀損については犯罪にもなりますが、プライバシー権侵害の場合は、あくまで民事上の問題があるだけで、刑事上の問題にはなりません。

ーーたとえば、「芸能人の誰と誰が付き合っている」という話を暴露された場合は、名誉毀損やプライバシー権侵害にあたるのでしょうか。

反社会的勢力との交際などでなければ、社会的評価が下がる情報ではないことから、名誉毀損の余地はありません。

画像タイトル 写真はイメージ(taka3 / PIXTA)

ただ、タレント側からすれば、交際の暴露は「業務の妨害だ!」となるかもしれません。タレントは、イメージに応じて出演やCMのオファーがあるため、交際が発覚したことで仕事が減る可能性は考えられます。

タレントや芸能人は「イメージ商売」と言われますが、日本の法律は、基本的に、この「イメージ」を保護しようという発想がありません。そして交際していることが事実であれば、それは名誉毀損にはなりません。明確にプライバシー権侵害にあたるとも言い切れません。

結局、プライバシー権は裁判例の中で認められてきた権利でもあり、侵害か否かの線引きは明確ではなくケースバイケースになりがちなのが実態です。

●元動画が「名誉毀損」ならば、切り抜き動画は?

ーー暴露系YouTuberに便乗して、暴露動画の「切り抜き動画」を作成して配信したり、拡散したりする人もみられます。このような行為に、法的な問題はないのでしょうか。

たとえば、東谷氏は、自身のツイッターアカウントが凍結されたことで、YouTubeの動画を一旦非公開にしました。また、YouTubeのチャンネルが停止されることを防ぐため、当面の間、生配信だけで、アーカイブを残さないと言っているようですが、同時に、動画拡散のために切り抜き動画については全面的に肯定しているようです。

同じような拡散方式で、Twitterのリツイートがあります。リツイートが名誉毀損にあたるかどうかが問われた過去の裁判例では、リツイートも元ツイートに賛同する表現として本人自身の発言だと理解するのが相当とし、名誉毀損になるとされたものがあります。

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ただ、収益性のないリツイートが大半であるのに対して、切り抜き動画には、双方に収益分配があります。そのため、切り抜き動画の場合は、収益目的の表現と考えられる可能性もあります。

名誉毀損に関して、刑法230条の2は「その目的が専(もっぱ)ら公益を図ることにあったと認める場合」を一つの違法性阻却事由としているため、収益性がある場合は、違法性阻却についてはより厳格に判断される可能性もあります。

ただし、収益性があるのはテレビ、新聞、週刊誌などの主要メディアも同じことなので、一番のポイントは、元動画が名誉毀損になっているかどうか、すなわち真実か否かです。元動画が名誉毀損にあたれば、基本的に切り抜きも名誉毀損になるといえるでしょう。

●暴露されたら、アカウント停止を求めることも視野に

ーー現在、暴露の対象となっているのは、主に芸能人や有名YouTuberですが、一般人が私生活や過去の不貞行為、前科等を暴露された場合、削除や損害賠償を求めて、訴えを提起することはできますか。

もちろん訴えることはできますし、名誉毀損にあたれば、刑事告訴もできます。ただ、現実問題として、訴えた場合には、配信者はさらに攻撃的な動画を投稿する可能性も考えられます。そのため、YouTubeのガイドライン違反からアカウントの停止を求めることを先行させて、そのあと訴える手法を検討することも有効です。

アメリカ由来のプラットフォームということもあり、YouTubeのガイドラインは、たとえば、ポルノにはかなり厳しい対応をしています。本人の同意なしのリベンジポルノ的な動画を上げれば、一発でチャンネル停止もあり得ます。

今年に入り、東谷氏をはじめ、芸能人を対象にした暴露系YouTuberが注目されました。芸能事務所側の対応は、基本的に「無視」というスタンスが多いようです。YouTuberが一方的に暴露しているだけならば、テレビやネットニュースであまり扱われることはないものの、むしろ反論することでニュースになってしまうという傾向があるからです。

ある意味、YouTuberとの関係では、視聴者やメディアが「個人のYouTuberの信ぴょう性が怪しい」という冷静な見方をしているとも考えられます。それゆえ、個人のYouTuberが暴露しても、それだけではあまり問題にならず、そこから逮捕や裁判につながらなければ静観、というスタンスが定着しているのでしょう。

個人の場合でも、暴露された内容に応じて、訴訟対応するのか、SNS上で否定・反論をするのか、静観するのか、それとも刑事告訴するかという様々な手段を検討したうえでの対応が重要になってきます。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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