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「SNSで犯人情報を集めたい」60万円の詐欺にあった女性、顔写真を公開へ…法的問題は?
60万円の詐欺被害(buritora / PIXTA)

「SNSで犯人情報を集めたい」60万円の詐欺にあった女性、顔写真を公開へ…法的問題は?

詐欺被害にあったという女性が「犯人の写真を拡散して情報を集めたい」と弁護士ドットコムに相談しています。

女性は名前も住所も分からない相手から、60万円ほどの詐欺被害にあいました。相手の写真や音声データは持っているため、「SNSアカウントで私が所持している犯人の写真等を公開し、拡散して犯人の情報を集めたい」と考えています。

詐欺被害についてはすでに警察にも相談、捜査してもらっており、女性はSNSでの情報提供を呼びかける際には「担当警察署に直接連絡してもらうように投稿する」予定です。

女性は「絶対に捕まって欲しい」とSNSでの情報提供に期待していますが、ネット上に犯人の写真と音声をアップする行為は法的に問題ないのでしょうか。田中伸顕弁護士に聞きました。

●基本的に許されない

——SNSでの情報募集、法的に問題になりますか?

一時期、書店などの店舗で、万引をした疑いのある人物の防犯カメラ画像を公開したといった事例が話題になったことがあります。今回の相談も、この防犯カメラ画像の公開と同様の問題があります。

現在の法律では、自分の権利を自力で実現することはできず、法的な手続によらなければならないとされています。この原則を自力救済の禁止といいます。

今回のご相談も、相手の写真や音声をインターネット上に公開することは、この自力救済の禁止の原則に抵触するおそれがあります。

●名誉毀損罪や脅迫罪などの犯罪になるおそれがある

——具体的にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

まず、相手の写真や音声を、モザイクや加工をせずにインターネット上に公開すると、刑事上、名誉毀損罪や脅迫罪に問われる可能性があります。

さらに、民事上でも、名誉毀損やプライバシー侵害、肖像権侵害などを理由に、損害賠償請求などをされるおそれがあります。

このように、無断で加工もせずに、相手方の写真等をインターネット上に公開すれば、刑事と民事の両面で、責任を追求される可能性があるのです。

●リスクを承知で公開したら?

——相談者はこうしたリスクを承知の上で、相手の写真等を公開しようとしているかもしれません。

相談者の方は、実際に公開し、相手が法的な措置をしてきたら、それをきっかけに相手の情報を得て、今度は自分の方から相手に対して法的な措置をすることを期待しているのかもしれません。

ですが、残念ながら、そのような期待どおりにはならないと予想されます。

刑事事件になったとき、警察は、本件のような事案では、被害者の情報を加害者本人には教えてくれないと考えられます。加害者に弁護人が付いたとしても、被害者の情報は示談交渉の目的のみに限って、弁護人限りで開示されるにとどまると予想されます。

また、民事上でも、相手は自分の住所を秘匿して訴訟を起こしてくる可能性があります。 相手の住所が分からなければ、相手に対して法的な措置をしたり、実際に金銭を回収したりすることは困難です。

そのため、リスクを承知で相手の写真等をインターネット上に公開したとしても、結局、相手の情報は得られず、相談者において損害賠償義務を負ったり、場合によっては刑事罰を受けたりと専らリスクのみを負う結果になるのです。

——ではどうしたらいいのでしょうか

結局のところ、警察を頼るか、探偵に依頼するのが穏当な方法だといえますね。

もどかしいところではありますが、相手の写真等をインターネット上で公開することは、トラブルを拡大させる可能性があるため、お勧めすることはできません。

プロフィール

田中 伸顕
田中 伸顕(たなか のぶあき)弁護士 田中法律事務所
秋田弁護士会所属。交通事故、離婚、債務整理から、インターネット上の誹謗中傷まで扱う。「住む地域にかかわらず、悩みを解決できるようにしたいです。事件には、大きいも小さいもないと考えています。そのため、どのようなご相談・事件についても一所懸命、全力で取り組みたいと思いますので、お気軽にご相談ください」 Twitter:https://twitter.com/n_tanaka_akita

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