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コロナ休校 「遊びよる子がおるバイ」と苦情、在宅確認の「抜き打ち家庭訪問」は本当に必要?
福岡市教育委員会が入る福岡市役所庁舎(J6HQL/PIXTA)

コロナ休校 「遊びよる子がおるバイ」と苦情、在宅確認の「抜き打ち家庭訪問」は本当に必要?

新型コロナウイルスの予防対策として、臨時休校になっている学校が多い中、教師による家庭訪問を実施する学校は少なくない。

その中で、事前に教師がいつ訪問するかを知らせず、児童生徒の家庭を訪問するとした学校があり、「抜き打ち家庭訪問」と呼ばれて批判を集めている。

「重大な人権侵害。防犯上も大きな問題を抱えています」と指摘するのは、福岡市の後藤富和弁護士だ。後藤弁護士の長女が通う市立中学校からも、生徒が在宅しているかの確認などを目的に、抜き打ちで家庭訪問を行うとメールが届いたという。

家庭訪問を抜き打ちで実施する必要性は、本当にあるのだろうか。後藤弁護士や福岡市教育委員会に取材した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「本来は学校の時間。自宅にいるように」

安倍晋三首相が全国の小中高校や特別支援学校に臨時休校とするよう要請したことを受け、3月2日から多くの学校が慌ただしく休みに入った。

長女の通う福岡市立の中学校も休校となった後藤弁護士。3月4日午前に学校からメールが届いた。

「そこには、『臨時休校の期間中、テストの返却のために家庭訪問します。あらかじめ日時もお知らせします』とありました。先生も大変だなと思いました」

ところが、追って午後に届いたメールに、後藤弁護士は驚いたという。

「2通目では、家庭訪問について、『居宅の状況を確認するために、担任から訪問時間の連絡はしないようにしました。本来学校があっている時間は自宅にいるようにしてください』と、目的が変わっていました」

家庭訪問が実施されるのは3月9日から13日まで(午前9時から午後4時)。この期間、生徒は在宅を強いられることにつながる。

●「抜き打ち家庭訪問」撤回を求めて要望書

後藤弁護士をはじめ、保護者たちがまず心配したのは、防犯だったという。

「福岡県の共働き家庭は6割を超え、長女の校区でもマンションに住む家庭が多く、小学生の頃から子どもだけで留守番する時はインターフォンに出ないよう防犯が徹底されています。先生が訪問したとしても、出ることはできません。すると、先生には不毛な仕事をさせてしまうことにもなります」

実際、福岡市では3月6日、自宅にいた女子高生が宅配業者を装った男に押入られ、羽交い締めされるという強盗未遂事件が起きている。「留守番をしていた高校生でも事件に巻き込まれています。小中学生でも被害に遭う可能性は高いです」

後藤弁護士はメールを受け取った直後、「抜き打ち家庭訪問」を撤回するよう要望書をまとめ、3月5日は保護者として学校と福岡市教育委員会に提出。要望書では、「子どもの人権」「防犯」「感染拡大防止」の3つの観点から問題点を指摘した。

まず、憲法で保障されている「子どもの人権」では、「子ども達は、長期休校の間、どこでどのような形で学習をするのかを自分自身で決定する自由を有する」と指摘。

突然の休校という異常事態の中、家庭や生徒が工夫を凝らしているにもかかわらず、学校の方針は、「これら生徒の自己決定や各家庭の事情などを一切無視し、一律に5日間、生徒を自宅に縛り付けておくものであり、重大な人権侵害であると言わざるを得ない」と批判した。

●「誤解を与える表現だった」が家庭訪問は続行

また、「防犯」の面からは、「中には教師を装って来訪するものが出てくるかもしれず、生徒達は信頼して自宅ドアを開ける可能性がある。犯罪被害の危険性の大きさは測り知れず、ひとたび事故が起これば取り返しのつかない事態を招く結果となる」と懸念を示した。

「感染拡大防止」についても、新型コロナウイルスに感染していないと証明されていない教師が、約30人の生徒の自宅を訪問し、また学校に戻って他の教師とも接触することは、「感染拡大に寄与する行動としか映らない」とした。

この要望書を提出した後、中学校の校長は後藤弁護士に対し、電話で「誤解を与えるような表現で申し訳ありませんでした」と謝罪した。しかし、その後に届いた3通目のメールには、抜き打ちによる家庭訪問は実施すると書いてあった。

ただし、「都合の悪い場合はご連絡ください、柔軟に対応します」とあり、必ずしも生徒がずっと在宅している必要はなくなったが、「教師が全家庭を訪問しなければならず、負担が大きいという点は変わっていません」と後藤弁護士は話す。

●「抜き打ち家庭訪問」の意図は?

この「抜き打ち家庭訪問」にはどのような意図があったのか。

弁護士ドットコムニュースの取材に対し、福岡市教育委員会は「抜き打ち家庭訪問と言われていますが、教育委員会としては、児童生徒の安全や健康を把握することと、テストの返却が目的であり、抜き打ちで行うものとはとらえていません。生徒を縛りつけようとか、罰則を与えようというような悪意はありませんでした」と説明する。

教育委員会としては、学校に対して家庭訪問の目的を確認し、その目的と家庭の状況に合わせて柔軟に対応することを保護者に伝えるよう、指導したという。

では、なぜこのようなことが起きたのか。

学校が送った1通目のメールには、地域から日中に子ども達が公園にいるという報告があったとも書かれていたという。全国でも、子ども達が公園にいただけで学校側に通報された事例が後をたたない。

そのため、文科省は3月9日、臨時休校中の過ごし方について、「児童生徒の健康維持のために屋外で適度な運動をしたり散歩をしたりすることなどについて妨げるものではなく、感染リスクを極力減らしながら適切な行動をとっていただくことが重要」という見解をあらためて全国の自治体の学校担当部署などに送っている。

教育委員会は経緯をこう説明する。

「通常の休校措置の場合は、不要不急の外出を控えるよう指導しています。学校側も、また地域の方もそういう認識の中、臨時休校になった当初に『遊びよる子がおるバイ』という苦情の声が地域から上がってきたのは事実です。

また、40人もいる学級で休校中にすべてのご家庭と日程を事前に調整することは困難です。初めてのことだったので、ある程度幅を持たせた中で伺うので、在宅していてくださいという趣旨でしたが、全ての期間、在宅しなければいけないと思わせてしまいました」

●「抜き打ち家庭訪問」撤回求める要望書を公開

実際、教育委員会によると、初日で8〜9割の家庭訪問が終わったという。「どれくらい家庭訪問に日数がかかるのかということも、学校には読めませんでした。言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、いろいろな対応を試行錯誤でやっている中で、ご意見をいただきながら、より確かな方法でしていければと思います」

後藤弁護士によると、全国でも同様の「抜き打ち家庭訪問」を行なっている学校があるという。

そこで、後藤弁護士は要望書をツイッターで公開( https://twitter.com/ponkititurbo/status/1235496123738886150 )し、「全国でぜひ活用してください」と呼びかけている。

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