「また自転車がいた。本当に勘弁してほしい」。東京都の会社員ケイタさんは、自動車を運転して移動する際、車道を走る自転車が前にいる時が一番の憂鬱だという。
自転車がトロトロ走っていると、とてもそれに合わせて走ることはできないし、追い越そうとしても、接触しないように気を使ってしまう。
そこで、クラクションや幅寄せなどで、歩道に追いやってしまいたい、という衝動に駆られる時があるそうだが、犯罪ではないのだろうか。また、車道を走る自転車と自動車が共存するには、何が重要になるのか。平岡将人弁護士に聞いた。
●クラクションや幅寄せは犯罪?
まず、自転車の法律上の位置付けはどうなっているのか。
「軽車両である自転車は、道路交通法上『車両』に該当するため、車道を走るのが原則です。ただ、道路標識等で自転車が歩道を通行できる場合や、運転者が13歳未満あるいは70歳以上のような場合や、著しく自動車の交通量が多く、自転車が車道を走るのが危険な場合などは、自転車は歩道を通行できます。ですから、自転車が歩道ではなく車道を走るのは、法律上普通のことなのです」
それでは、イライラしてクラクションを鳴らしたり、幅寄せしたりしたらダメなのか。
「自転車に対して運転の邪魔だからといってクラクションを鳴らすことは、危険防止のためやむを得ない場合を除き、道路交通法54条2項に反し、2万円以下の罰金または科料の可能性があります。
幅寄せについても考えてみましょう。自動車に比べて著しく低速の自転車に幅寄せをするということは、追い越し間際に車間距離を詰めることでしょう。
そうすると、追い越しの際には、前車の速度や進路、道路状況に応じて出来る限り安全な速度と方法で進行しなければならないとする道交法28条4項の義務に違反します(3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)。
また、刑法208条の『暴行』とは、狭い室内で日本刀を振り回す行為のように、身体へ直接的に有形力を行使しなくとも、怪我をする可能性が高い場合には認められる場合があります。ですから、故意の幅寄せによって、身体に直接有形力を加えない場合であっても、怪我の可能性が高いような幅寄せ行為の場合には、暴行罪とされることもあるでしょう(2年以下の懲役または30万円以下の罰金等)。
そして、故意に自転車の進路を妨害するために幅寄せをして、人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪に該当します(死亡の場合、原則として20年以下の有期懲役刑 、致傷の場合には15年以下の懲役刑)。
ここまでをまとめると、自転車への幅寄せは、非常に危険な行為として法律上も考えられています」
●自動車は「強者」、自転車は「弱者」
では、冒頭のケイタさんのような考え方については、どう考えればいいのか。
「パワハラ、いじめなど、多くの社会的問題は相対的な強弱の関係の中で起こっている問題です。
私は、自分より相対的に『強い』者に、邪魔だからといって排除されたりいじめられたりするような社会は望みません。多くの人は、私と同じように考えているのではないでしょうか。
道路上においては、自動車は相対的『強者』であり、自転車は相対的『弱者』です。歩道では自転車は『強者』となり、歩行者は『弱者』となります。
『強者』であるみなさんが、『弱者』に対してどのような行動をするか、それが問われているのではないでしょうか」