新しいラーメン屋がオープンし、店頭に並ぶ開店祝いの花。よく見ると贈り主の名前は「宮沢りえ」「前田日明」「舛添要一」と、誰もが知るような有名人ばかり。店主に「なんだよインチキな花たてて」と言うと、「ガタガタ小さいことを言うなバカヤロー」との返答。人気マンガ『ゴリラーマン』の1シーンだ。
実際に町を歩いていると、芸能人やスポーツ選手と同じ名前が書かれた花を並べる、新規オープン店を見ることもある。「こんな有名な人とつながりのある店なら」と信用して入店する客もいるのだろうが、本当に有名人から開店祝いを贈られたかどうか、わからないことがほとんどだ。
もしゴリラーマンに出てくるラーメン店主のように、著名人の名前を勝手に使っていた場合、詐欺などの罪に問われることはないのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。
●開店祝いの花が入店の「決め手」となったといえるか?
「実際にもらってもいない有名人名義の『開店祝い』の花を、店の回りに並べたという場合でも、詐欺罪での刑事処分まではなかなか難しいように思います。
お店と有名人との『つながり』が、ラーメン屋に入るのに、どれほど決定的な要素になるのかは不明です。開店祝いの花なんて見ずに、ラーメンが目当てで入店・注文するお客さんもいるでしょう。入店したお客さんにとって、その開店祝いの花がどの程度『決め手』となったのか、それがあったからお金を使ったのか、立証するのは困難でしょう」
つまり、うその開店祝いで客を「だました」ことと、客が「金を払った」ことの間に因果関係があれば詐欺罪になる可能性はあるが、実際にそれを証明するのは難しいだろう、ということだ。
●有名人の名前を勝手に使ったら「パブリシティ権」の侵害になる
それでは、無罪放免かというと、さすがにそうは問屋が卸さないようだ。秋山弁護士は、もし有名人から民事裁判で訴えられたら、店はピンチに陥ると指摘する。
「こうしたラーメン屋は、有名人の名前・信用を勝手に使い、いわばただ乗りして、自分のラーメン屋を繁盛させて利益を得ようとしているわけですから、有名人の『パブリシティ権』を侵害することになると思われます。
『パブリシティ権』とは、個人の人格権に基づくもので、野球選手や芸能人等の有名人が、その氏名や肖像の有する顧客吸引力を経済的に利用する権利です。
そうした有名人の顧客吸引力にただ乗りし、無許可で有名人の氏名を使えば、当該有名人のパブリシティ権を侵害することになり、不法行為による損害賠償の義務を生じさせます」
『ゴリラーマン』に登場するラーメン屋がもしも、名前を拝借した有名人から訴えられたら、裁判で厳しい立場に置かれるということだろう。そのときは、「有名ではない友人の宮沢りえさんに贈ってもらったんです・・・」と言い訳するのだろうか。