2019年04月27日 09時49分

平等院、「無断撮影」のパズル販売停止求め提訴、寺院の権利はどこまで?

平等院、「無断撮影」のパズル販売停止求め提訴、寺院の権利はどこまで?
「やのまん」のオンラインショッピングサイトで販売されている平等院・鳳凰堂のパズル

世界遺産として知られる平等院(京都府宇治市)の鳳凰堂を無断で撮影した写真を使用したパズルを販売したとして、平等院は3月、販売元の会社に販売差し止めなどを求めて、京都地裁に提訴した。

報道などによると、訴えられているのは、ジクゾーパズルなどを販売するメーカー「やのまん」(東京都台東区)。問題となっているパズルは、2018年7月に発売された「月夜に浮かぶ平等院」で、ライトアップされた平等院の夜景写真が使用されている。

しかし、平等院では、境内で撮影した写真を営利目的で利用することを禁止しており、拝観者に配布するパンフレットにも明記している。平等院は、やのまんのジグゾーパズルについて、「安易に許諾したという印象を与え、文化財として保護してきた寺院としての評価を低下させる」として、販売差し止めなどを求めている。

平等院の鳳凰堂は、平安時代後期の天喜元(1053)年に建立された阿弥陀堂で、内外から多くの拝観者が訪れている。一般的に建造物にはパブリシティ権(顧客吸引力などを保護する権利)は認められず、著作権の保護も弱い。しかし、境内で撮影した写真を無断で商品に利用することは可能なのだろうか。ポイントを福井健策弁護士に聞いた。

●著作権侵害の主張が難しい理由

平等院は、境内で撮影された写真の商用利用を禁止していますが、今回の訴訟のポイントは?

「訴状など見られておりませんので、詳細はわかりませんが、恐らく『著作権侵害』という主張ではなさそうですね。

まず、鳳凰堂は約千年前の建物で、本尊阿弥陀如来像とともにその著作権ははるか以前に切れています。加えて、仮にこれが最近の建造だったとしても、著作権法には46条という例外規定があって建築物は基本的に撮影・利用は自由なのですね。

ですから、公道などから有名建築の外観を撮影してTV放送やカレンダーなどに使う行為は、現に広くおこなわれていますし、基本的に自由です。また、そうでないとさまざまな文化・メディア活動はかなり不便なことになってしまうでしょう。強いて言えば、今回はライトアップがあったと言いますから、『照明効果の著作権侵害』があり得ますが、やや可能性は薄そうに思えます」

●敷地内の撮影・利用の条件に違反したという『契約違反』の考え方は?

「次いで考えられるのは、今回は境内で無断撮影された写真であり、敷地内の撮影・利用の条件に違反したという『契約』的な主張です。敷地に入るには管理者の許可が通常いりますし、その際に撮影その他の行動について一定の条件が課されることもあるでしょう。

それがわかりやすく表示され、同意の上で入場した方は、基本的には入場条件には拘束されそうです。病院や公的施設などで広くおこなわれていますね。

平等院のデジタルパンフレットを見ると、『院内で撮影した写真などを営利的な目的で使用することは禁止します』という比較的小さな表記があります(https://www.byodoin.or.jp/common/pdf/pamphlet-ja.pdf))

仮にほかに目立った注意表記もなかったとすると、果たしてパズルメーカー側が条件に同意していたかが問われるでしょう。

加えて、そもそもこうした表記から、報道されている『在庫商品の廃棄』まで求めるのはややハードルが高いので、この線でもないかもしれません。

最後に考えられるのは、『宗教上の人格権の侵害』などを理由とする不法行為の主張です」

●「宗教上の人格権」の侵害は認められるか?

宗教上の人格権侵害については、「四国八十八ケ所霊場会」と所属2寺院が、新潟県小千谷市の写真家が撮影した秘仏の写真などを無断で出版したとして、その差し止めを求めた訴訟がありました。判決では「宗教上の人格権」を認めたと報じられています。今回のケースはどうでしょうか?

「過去の報道によると、秘仏写真についての判決は、写真家がNHKの番組等以外に使用しないことを条件に、秘仏や60年に1回しか公開しない本尊の写真を撮影したにも関わらず、その後対象外の書籍やカレンダーに写真を利用した事例ですね。かなり特殊な状況での判決に思えます。

無論、信仰に向けた人々の思いは最大限尊重されるべきものですが、特に鳳凰堂のように既に世の中に広く流布している建築や仏像の場合、その姿には一定の公共性も生まれます。寺社側の独占的なイメージ管理がどこまで許されるべきか、情報流通や人々のアクセスの自由とのバランスの局面となりますね。

中でも建物の撮影と利用については、著作権法に明文のルールがあって、禁止される行為と自由な行為の境目を多くの議論を経て定めています。よって、著作権法が本来想定して許している行為が宗教上の人格権を侵害すると判断されて規制されるケースは、(あるとしても)かなり悪質な場合に限定されるようには思います。

この件を離れた一般論ですが、例えば寺社側が普段は対価を得て撮影や利用を許諾している場合などは、それが無許諾で行われたからといって宗教上の人格権の問題とするのは、恐らく困難でしょう」

●訴訟について平等院のコメント

「係争中であり、コメントは差し控えたい」

●訴訟について「やのまん」のコメント

「一部報道機関におきまして、京都府宇治市の平等院が当社の販売するジグソーパズルの販売差し止めを求めた事に関する報道がされております。

この件に関しては当社と平等院側との間には見解の相違があり、現在弁護士に対応を一任して判断を委ねております。

詳細に関しては裁判による係争中の為、ご説明を控えさせていただいておりますので、なにとぞご了承の程お願い申しあげます」(公式サイトより)

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授。内閣府知財本部委員ほか。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「ネットの自由vs.著作権」(光文社新書)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。Twitter:@fukuikensaku

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