2019年04月27日 09時16分

新五千円札、津田梅子の「写真反転」疑惑で物議 肖像権・著作権から考える

新五千円札、津田梅子の「写真反転」疑惑で物議 肖像権・著作権から考える
新五千円札のデザイン案(財務省提供)

2024年度から発行される予定の新五千円札のデザインに決まった津田梅子の肖像画が、裏焼き(写真の左右反転)なのではないかと物議を醸している。

一方、政府は否定。4月16日の記者会見で菅義偉官房長官は、「さまざまな写真を収集し、それらを参考に国立印刷局の工芸官が彫刻を行って原案を作成する」(時事通信、16日)と説明した。

この件について、ジャーナリストの江川紹子さんは「新聞だって、裏焼き写真掲載したら訂正するレベル」とツイッターに投稿。デザイナーの角田陽太さんも「顔写真反転加工して印刷物作成はアウト」とツイートしている。

写真の反転に、倫理的な抵抗を感じる業種は少なくないようだ。顔は左右対称ではないから、反転すれば「別人」とも言える。

人物写真を反転させて掲載したり、デザインに使ったりすることには、どんな法的問題があるのだろうか。最所義一弁護士に聞いた。

●肖像権は生きている間だけ

ーー法律上、どういう分野の話になりますか?

「法律上の問題としては、肖像権、著作権の点が問題になりうると思います。

まず、肖像権ですが、今回のケースでこの権利を保有する人は津田梅子さんということになります。

ただ、肖像権は、元々人格権に由来する権利ですので、その財産的側面を除いて、権利主体が『人』として存在することが必要です。

この点、権利者である津田梅子さんは、既に亡くなられていますので、人格権の主体とはなりません。そのため肖像権の侵害とはならないと考えます」

ーー写っていた人が生きていたら?

「肖像権の内容には、無断で公表されない権利が含まれています。そのため、意に反する形で公表された場合には、肖像権侵害が問題になります。

もっとも、肖像権侵害として違法となるのは、公表によって相当の心理的負担が生じるようなケースです。

具体的には、意に沿わない形でいわゆる「アイコラ」が作成され公開されたとか、勝手に出会い系サイトの広告に利用されたとか、そのレベルでないと、肖像権侵害としては違法とはならないと思います。

その意味では、単に自らの写真が裏焼きされた形で公開されたというだけでは、肖像権侵害とはならないでしょう」

●元写真からの「改変」で著作権侵害になる?

ーー著作権はどうでしょうか?

「著作権の主体は、津田梅子さんではなく、問題となった写真を撮影した人が権利を有します。

今回の写真は、肖像写真ですが、これが機械的に撮影されたに過ぎないようなもの、いわゆる証明写真の類であれば、そもそも著作物にあたらないとされる可能性はあります。

ただし、当時の撮影状況からすると、露出や絞り、構図等、相当程度、撮影者の主観的要素が入ると考えられますので、著作物性は認められてしかるべきだと思います」

ーー裏焼きは著作権法違反?

「写真に著作物性が認められるとした場合、これを反転させる行為は、同一性保持権(著作権法20条1項)の侵害に該当することになります

多くの方が、勝手に裏焼き写真を作成することが問題だとおっしゃっているのは、同一性保持権の侵害に関する指摘だと思います」

ーー政府は、さまざまな写真を参考に彫刻したものと説明していました。

「写真を模写することも、写真をトレースしたりするなどして、精緻な模写を作成する場合には、まさにコピーをとることと変わりはありませんので、著作権侵害に該当するといえるでしょう。

今回の件でいえば、問題となった肖像が、特定の肖像写真を反転させて、その反転させたものを正確に写し取る形で、原案を作成したのだとすれば、著作権侵害(著作者人格権侵害)に該当する可能性はありうると思います。

もっとも、政府の説明通りに、複数の写真をベースに、そこから津田梅子さんのイメージを作り上げ、工芸官が彫刻を行って原案を作成したのだとすれば、複数の写真はイメージの基に過ぎないということになります。

この場合、工芸官が作成した原案は、当初の写真とは別個のものということになりますので、基本的には権利侵害の問題は生じないものと考えます」

●そもそも著作権切れになっていない?

ーー新札の津田梅子の肖像は、百年以上前の姿だそうです。仮に問題があっても、著作権者の権利は切れているのでは?

「今回の件では、著作者人格権の一内容である同一性保持権に関する侵害の点が問題となります。

著作権の期限が著作権者の没後70年(無名または変名の著作物の著作権は、公表後70年)の経過とされている(著作権法51条)のに対して、著作者人格権については特に期限が定められていません(著作権法60条)。

もっとも、著作者人格権が侵害された場合に、その権利を現実に行使しうることができるのは遺族(死亡した著作者または実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹をいう)に限定されていますので(著作権法116条1項)、現実には孫の代までに限られることになります。

そうすると、今回問題となった写真を撮影された方が、どなたであるか不明ではありますが、同じ時代に生きた方だとすると、津田梅子さんが誕生された江戸時代に生まれた方ということになります。

江戸時代生まれの方を祖父母にお持ちの方は、現在かなりご高齢でしょうから、権利が切れている可能性もあると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

最所 義一弁護士
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専修)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。
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