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岡口基一元判事の退職金不支給、最高裁が審査請求を棄却「不正義のぐるぐる回りだ」
岡口基一氏

岡口基一元判事の退職金不支給、最高裁が審査請求を棄却「不正義のぐるぐる回りだ」

SNS投稿を理由に裁判官を罷免された岡口基一氏が、退職手当(見込み額約3100万円)の全額不支給処分の取り消しを求めた行政不服審査で、最高裁判所は、岡口氏の審査請求を棄却する裁決を下した。裁決は10月29日付。

この裁決を受けて、岡口氏は弁護士ドットコムニュースの取材に「まさに不正義のぐるぐる回りだ」とコメント。最高裁の判断を強く批判した。一方で、裁決の取り消しや不支給処分の取り消しを求める訴訟を起こす予定はないという。

●罷免を理由とした不支給処分は「適法」

岡口氏は2024年4月、裁判官弾劾裁判所に罷免判決を言い渡された。担当外の刑事事件に関するSNS投稿などが「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」にあたるという理由だった。

これを受けて、退職手当の管理機関である最高裁判所は、国家公務員退職手当法に基づき、岡口氏の退職手当の全額を支給しないとする処分を下した。

岡口氏側はこの不支給処分を不服として、最高裁に審査請求を申し立て、主に次の2点を主張した。

・手続きの違法(理由付記の不備)
不支給処分の通知書には罷免された事実が記載されているだけで、最高裁がその事実をどう評価し、どういう理由で不支給としたのかが記載されておらず、違法である。

・実体上の違法(裁量権の逸脱)
SNS投稿は、一市民としての表現行為であり、犯罪行為などでもない。これを非違と判断するのは表現の自由(憲法21条)の侵害であり、勤務態度も問題なかったことから、全額不支給とするのは裁量権の逸脱・濫用にあたる。

これに対して、最高裁判所・行政不服審査委員会の答申(10月6日付)を踏まえた今回の裁決では、岡口氏の主張はいずれも退けられた。

・理由付記について
不支給処分の通知書には、処分の原因となる事実関係(弾劾裁判所で罷免判決を受けたこと)と根拠法条が示されており、「処分の理由の付記に不備があるとは認められない」と判断。

・裁量権について
「判事兼簡易裁判所判事という重い職責を負っていた」にもかかわらず、弾劾裁判所から罷免の裁判を受けたことを重く見たうえで、非違の内容や「公務に対する国民の信頼に及ぼす影響は重大であると評価せざるを得ない」とした。

岡口氏の勤務態度や勤続期間を考慮しても、退職手当の全額不支給は「相当であり、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法はない」と結論付けた。

●岡口氏「またデタラメな事実認定が繰り返されるだけ」

今回の裁決について、岡口氏は弁護士ドットコムニュースに次のように語った。

「裁決は『処分の原因となる事実関係及び処分の根拠法条が理由として示されている場合には、理由の付記に欠けるところはない』と判断しました。

それが、事実関係を掲げただけで非違行為と認められるものであれば問題ありませんが、事実関係自体が直ちに非違行為にあたるとは認められない場合には、それを掲げただけでは理由を付記したとはいえません。

こんな運用がまかり通れば、民間会社でも、非違行為にあたらない行為を掲げるだけで懲戒処分が手続的に適法ということになってしまいます。それがどういう理由で非違行為にあたるのかも説明されないまま処分されるような運用は許されません」

また、実体上の違法の判断については次のように述べた。

「裁決は『裁判官弾劾法2条2号に該当することを理由とする罷免の裁判の宣告を受けた』ことをもって『非違の内容及び程度、公務に対する国民の信頼に及ぼす影響は重大』としました。

他の裁判所がどのように判断しようと、あくまで他の裁判所の判断でしかありません。たとえば交通事故で、刑事と民事の両方の裁判があった場合に、刑事で有罪判決が出たことを理由として民事で不法行為が当然に認められるわけではありません。したがって、これは理由になっていません」

さらに、自身が繰り返し不当な判断を受けてきたと指摘した。

「今回の一連の事件は、まさに『不正義のぐるぐる回り』です。

発端は、最高裁大法廷決定で、私の『性犯罪の判決についてのSNS投稿』について、性的関心を煽り、興味本位で刑事判決を閲覧させようとしたというデタラメな事実認定をしたことでした。そんな証拠はまったくありません。

その後、東京高裁が、この理由をそのまま真似して、このSNS投稿を不法行為と認定しました。弾劾裁判所は『東京高裁がこのSNS投稿を不法行為にしたこと』を最大の理由に罷免決定を出し、そして今回は『弾劾裁判所が罷免にしたこと』を理由に退職金不支給を適法と──そういう循環構造です」

裁決書では、この裁決や不支給処分の取り消しを求める訴えを提起できるとされている。

しかし、岡口氏は「今後、行政訴訟を提起する予定はありません。不正義がさらに積み重なり、デタラメな事実認定が3回繰り返されるだけだということは、訴訟を起こす前から明らかだからです」と述べ、訴訟を起こさない意向を示した。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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