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「受刑者だって社会に戻る人間だ」 塀の中から国を訴えた男が見た"日本の刑務所"の現実
インタビューに応じる八木橋健太郎さん(2025年8月/弁護士ドットコム撮影)

「受刑者だって社会に戻る人間だ」 塀の中から国を訴えた男が見た"日本の刑務所"の現実

約2億円相当(当時)のビットコイン詐欺事件で懲役7年の刑に服することになった八木橋健太郎さん(39)。

金属アレルギーがあるにもかかわらず、受刑中に強制的にひげを剃られたとして、弁護士をつけずに国を訴え、勝訴したことは以前の記事で紹介した。彼はほかにも、受刑者の選挙権が制限されていることの違法性を問うなど、塀の中から複数の裁判を起こしてきた。

刑務所に入った当初は淡々と服役するつもりだったが、ある出来事をきっかけに「法廷で闘う」ことを決意したという。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●「命がかかってるのに…」刑務所対応への疑問が闘争の出発点

──受刑者が裁判を起こすと、刑務所側から嫌がられるのでは?

刑が確定し、喜連川社会復帰促進センターに移送されて3カ月ほどが経ったところで、白血病が見つかったんです。

命に関わる病気なのに、対応はいい加減で「ちょっと待ってくれ」と思いました。自分の身は自分で守るしかない──そう痛感して、規則を盾に徹底的に闘うしかないと考えました。

──どんな対応を受けたのですか?

外部の病院で抗がん剤治療を受けましたが、白血病の治療では免疫力がほぼゼロになるため、感染症は命取りです。それにもかかわらず、抽象的な保安上の理由で常に手錠をつけられ、コロナ禍なのに、複数の刑務官が入れ代わり立ち代わり病室を訪れ、24時間常駐していました。

刑務官が自身の素足をマッサージした手で私に触れることもあり、医師に「最低限の運動をしないと体力が落ちる」と言われても、「運動はするな」と拒まれることもありました。

処遇改善を求める願箋(がんせん)を出し始めると、「面倒な受刑者」と見なされ、要注意人物として指定されました。

社会では当たり前のことが、刑務所では当たり前におこなわれない。刑務官には裁量があるのに、それがあえて「締め付け」に使われている。国がそうした運用を許していること自体、問題だと思いました。

──それで、法を武器に自らの安全を守ろうと。

はい。刑務所にいると、公正な裁判を受けるのも難しい。外部の弁護士と手紙をやり取りするのにも時間がかかるなど、制約が非常に多いんです。そうした経験の積み重ねも、今回の訴訟につながっています。

画像タイトル 八木橋さんが受刑者の時に手書きした訴状。これで国に勝訴した

●「選挙権がほしいわけじゃない」本当に訴えたいこととは

──現在は、受刑者の選挙権をめぐる訴訟で最高裁に上告中です。

誤解されがちですが、僕は「受刑者としての選挙権がほしい、投票したくてたまらない」と訴えているわけではありません。

日本国憲法は、受刑者の選挙権を制限してよいとは書いていないのに、公職選挙法では「禁錮以上の刑の執行中の者」に選挙権を認めていません。もし制限するなら、憲法を改正するのが筋です。

これは刑務所の医療の問題にも通じます。刑事収容施設法には「一般の医療水準に照らし適切な措置を講ずる」と書かれているのに、実際にはそうなっていない。僕はただ、「法律通りにやりましょうよ」と言っているだけなんです。

──「受刑者なんだから我慢しろ」「法律を守らなかったやつは文句言うな」という批判が聞こえてきそうです。

そういう声が出ることは想定しています。でも、僕が問題にしたいのは感情ではなく、構造です。国が、法的根拠のないまま国民の権利を制限できる。それが許されていいのか、と問いかけたいんです。

これは刑務所だけでなく、警察など他の行政機関にも共通する問題です。たまたま僕は「受刑者」という立場でそれを体験したにすぎません。

画像タイトル 東京地裁(弁護士ドットコムニュース撮影)

●「受刑者だから」というバイアスを壊したい

──大きな批判を受けるリスクもあるのに、なぜ実名、顔出し?

「受刑者だから匿名であるべき」という前提自体がバイアスだと思うんです。受刑者が社会から切り離された特別な存在だとみなされること、それこそが、今回僕が提訴した「選挙権」の問題にもつながっています。

多くの人は車を運転していて、ちょっとした判断ミスで事故を起こし相手が亡くなれば、受刑者になり得ます。そして、論理的には正しい主張でも「いや、受刑者だから」という感情で却下される。

そうした偏見をなくしたい。受刑者だって最終的には社会に戻る一人の人間なんだと示したかったんです。

だからこそ、取材に応じる以上は実名、顔出しが筋だと思いました。批判されるリスクは覚悟の上です。

●懲役刑は「人格を内部から破壊する」

──約7年の刑務所生活はどうでした?

良い経験にはなりました。ただ、捕まった時点で「犯罪のセンスがない」とも思いましたね(笑)。

刑務所に入って痛感したのは、「規則通りに運営されていない」ということ。閉鎖的な環境で、刑務官の裁量がチェックされていません。受刑者は人間ではなく、"モノ"のように扱われています。厳しくするのは構いませんが、法的根拠に基づいておらず、ただただ「命を軽視している」と感じました。

画像タイトル 九州のある刑務所(弁護士ドットコムニュース撮影)

──刑務所はどう変わるべきでしょうか?

「死刑は究極の刑罰だ」という人もいますが、それは懲役の現実を知らない人の言葉です。懲役刑は、人格を内部からじわじわと壊していく刑罰なんです。

現在の刑務所は、社会復帰を前提とした仕組みになっていません。例えば、トラブルを防ぐため、受刑者同士の会話を極端に制限していますが、社会では人間関係の衝突は避けられない。

本来、刑務所で教えるべきは、トラブルをどう解決し、良好な人間関係をどのようにして築くかというスキルのはずです。日本の刑務所は過剰に「予防」に走ることで、どんどんコミュニケーション能力が衰えていき、それがむしろ再犯を助長していると感じます。

今年6月から社会復帰を重視した「拘禁刑」が導入されましたが、制度を作る側はもっと"中の声"に耳を傾けてほしいです。

──今後はどんな活動を?

刑務所の中にいた人間だからこそ、わかることがあると思っています。受刑者の改善更生や社会復帰のために、少しでも貢献できるような活動をしていきたいと思っています。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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