公園でのトラブルをめぐり、警視庁の警察官から不当な聴取を受けたうえ、同意なくトラブル相手に個人情報を提供された──。
南アジア出身の母と子が東京都を相手取り、慰謝料を求めた裁判の控訴審で、東京高裁は10月16日、都に対して、原告それぞれに33万円を支払うよう命じた。
一審(東京地裁)の原告敗訴を一部変更したものの、警察官に差別的な言動があったという原告の主張は認めなかった。
判決後、原告母と弁護団は、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。弁護団は「公権力による人種差別を問うという訴訟の目的からすれば、まったく満足いくものではない」とコメントした。
●警察官は「差別的な対応をするはずがない」?
原告は南アジア出身の女性(50代)とその長女。
判決などによると、2人は2021年6月、都内の公園で男性とトラブルになり、通報で駆けつけた警察官に署に連行された。長時間にわたる事情聴取のほか、当時3歳だった長女は親の同席なしで聴取されたという。
公園で臨場した警察官がトラブル相手による差別的な発言を制止しなかったとの証言について、裁判所は「通常の警察官の行動として明らかに不自然、不合理である」として採用しなかった。
また、警察官が長女に「本当に日本語しゃべれねえのか」と発言したとする証言についても「警察官の所為として容易には想定しがたい不自然なもの」として退けた。
さらに、トラブル相手の言動を「差別的で決して許されるものではない」としながらも、「警察官が人種や国籍への差別的意識や偏見に基づいて対応したと認めるに足りない」と判断した。
弁護団は会見で「警察内部の資料には、外国人を不法滞在などの疑いで徹底追及するようなバイアスを示す記述がある。『警察官は差別しない』という裁判所の前提は、現実に即していない」と批判した。
●「個人情報提供の違法性」は認定
一方、控訴審は、警察官がトラブル相手に母子の氏名や住所などの個人情報を提供した点を違法と認めた。
判決は、警察官が情報を渡せば「投稿やストーカーまがいの行為により、原告の国籍、人種、または人格を誹謗中傷する顕著な危険性があることを認識し得た」と指摘。
東京都個人情報保護条例に基づく注意義務違反にあたるとした。ただし、原告母が情報提供を承諾したとする警察側の主張は退けなかった。
●「なぜ罪のない娘が正義を得られないのか」
判決後の記者会見で、原告の女性は悲しそうな表情でこう語った。
「娘は東京の警察官からひどい扱いを受け、不安とうつ、悪夢に苦しんでいます。薬を飲まなければ眠れません。なぜ罪のない娘が正義を得られないのか、理解できません」
長女は恐怖心から外出を嫌がるようになり、現在も精神的な治療を続けているという。
原告側は「3歳児を一人で取り調べたことを違法としなかった点は、きわめて遺憾」とし、警察官の差別的な言動が認められなかったことも不当として、上告を検討している。