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早大元准教授の女性を訴えた「セクハラ訴訟」 元男子学生の請求棄却 性交渉認定も「強要」は否定 東京地裁
早稲田大学(東京都新宿区/2025年6月/弁護士ドットコム)

早大元准教授の女性を訴えた「セクハラ訴訟」 元男子学生の請求棄却 性交渉認定も「強要」は否定 東京地裁

指導教員の立場にあった早稲田大学の元准教授の女性から性交渉を強要されたなどとして、元学生の男性が女性に計700万円の賠償を求めていた訴訟で、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)は男性の請求を棄却する判決を言い渡した。

判決文によれば、2人の間に繰り返し性交渉があった事実は認められた。一方で、女性による性交渉の強要は認められなかった。判決は6月12日。

これまでキャンパスのハラスメントをめぐっては、主に男性教員から女性教員あるいは学生に対するものが問題となってきたため、女性教員の責任を学生が問う事件として注目されていた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●判決「継続的に性交渉があった事実を認めることができる」

2014年に早大の政治経済学部に入学した男性は、2018年から大学院修士課程、2021年から博士課程に進学。2016年秋ごろから、女性のゼミに所属し、修士課程進学後も研究の補助にあたった。

男性は訴訟のなかで、2017年3月から2018年9月ころにかけて、女性から多数回にわたって性交渉の強要や、子の世話をさせるなどのハラスメントがあり、指導教員という立場を利用したもので、真の同意はなかったと主張。そのような強要をうけたことでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、2022年3月に東京地裁に提訴していた。

訴えられた女性側は、性交渉の事実も強要もなかったと反論。また、子どもの世話などは男性の意向を確認しており、強要ではないと主張した。

判決文によれば、裁判所は、男性と女性が2017年2月以降に、国内外への旅行(女性の子ども同伴を含む)や出張で同じ部屋に繰り返し宿泊したほか、男性が夫不在の女性宅に20回以上宿泊したことを認定。

続いて裁判所は、2人のメッセージのやりとりから「相当に親密な関係があることがうかがわれる」とし、メッセージには2人が性交渉に関して言及したとみるのが自然と思われるやりとりがあったと指摘する。

このような事情を踏まえて、性交渉の事実については「男性と女性との間に性交渉の事実があったとする男性の供述は女性の供述と比較して相対的に信用性が高く、男性の供述によれば2017年3月から2018年9月までの間に、男性と女性との間に継続的に性交渉があった事実を認めることができる」と結論づけている。

●判決「意思に反して性交渉等を強要された事実を認めることはできない」

一方で、裁判所は性交渉等の強要を否定している。

2人に性交渉があったと認められる期間やその前後で、他愛のないメッセージのやりとりが頻繁に繰り返され、男性から食事や「デート」の誘いをしたり、女性と一夜を共にしたいなどと述べていることなどから、「指導教員の立場にある女性から学生としての評価の面などで不利益を及ぼされることを懸念して女性に忖度した態度をとったにすぎないと理解することは困難であって、男性においても女性に対して積極的に好意を寄せていたものと認めるのが相当」と指摘。

さらに、女性と性交渉に至った時点では大学に通学する20歳超えの成人男性であるなどとして、「その意思に反して性交渉等を強要された事実を認めることはできない」との判断を示した。

男性側は、被告女性と原告男性の関係性において、性交渉等に「真の同意」などはありえなかったとか、男性が「社会的抗拒不能な状態に陥って」いたなどと主張したが、裁判所はそれを退けている。

「指導教員と学生との間における性的関係が公私を混同するものとして適切ではないことは当然であるが、そうであるからといって、指導教員の立場にある者との間での性的関係が、およそ学生の真意に基づかないなどというべき根拠にまで結びつくものではない」(判決から)

結論として「性交渉等の点につき、女性による不法行為が成立するとは認められない」との判断に至っている。

男性はこの訴訟のなかで、女性が大学の調査に対して性交渉の事実を否定したことによって精神的苦痛を受けたとも主張していた。

裁判所の判決は、女性が調査のなかで性交渉の事実を否認したことが、今回の判決で認定された事実と「相反する」としながら、「そうした言動が、自身の言い分を述べる域を逸脱し、男性を嘘つきであると侮辱したものとまではいえない」として不法行為にあたらないとの考えを示した。

●大学はハラスメントと性交渉を認め学生に謝罪も…それまでに二転三転

提訴に先立って、男性は早稲田大学のハラスメント防止委員会と第三者委員会に申し立てたが、いずれもハラスメント行為はなかったとされた。

男性は2022年3月に女性だけでなく、大学も提訴している。大学はその後、対応を二転三転させた。

提訴から3カ月後の同年6月、大学は「海外への研究出張に学生を同行させ、一緒の部屋に宿泊した行為」などについてアカデミックハラスメントを認めて女性を停職6カ月の懲戒処分としたが、性交渉やセクハラについては継続して認めなかった。

画像タイトル 大学で学生に配布されているハラスメント相談のパンフレット(2023年4月発行)

しかし、2024年5月17日には学生と大学とは訴訟上の和解をしている。男性側が明らかにしたところによれば、大学は女性と男性との間に多数回の性交渉があったことを認め、ハラスメントの事実も認めた。

大学は当時、取材に「本学でこのようなハラスメント行為・ハラスメントに当たり得る行為が行われたことは慚愧に堪えません。被害を受けた方ならびに関係の皆様含め深くお詫び申し上げます」との謝罪コメントを出している。

●判決をうけた訴訟当事者のコメント

なお、女性は懲戒処分を不服として大学を訴え、その訴訟の判決は確定したという。女性側によれば、懲戒処分の無効確認は確認の利益を欠くとして却下されたが、大学による懲戒処分の発令および公表によって女性の名誉が傷つけられたなどとして、大学に対して約90万円の支払いが命じられた。(大学は取材に「当該訴訟の判決内容につきましてはお答えを差し控えさせていただきます」と回答した)

当事者双方が判決をうけた見解を弁護士ドットコムニュースに寄せた。

【原告の男性コメント】

「先に大学が和解により性的関係を認めたのに加え、今回裁判所が、性的関係の存在が明白であり、また彼女が教授であったことから、その関係が不適切であったと認めたことについては、安堵しております。今回の判決により、このような事態が今後繰り返されないようになることを願っています。しかし、彼女が大学の調査や裁判において虚偽の説明を行ったことがなぜ容認されるのか、また、彼女が既婚者であったことが権力関係や私への沈黙の強要を緩和する要素と見なされる理由については、理解に苦しみます。一部の証拠及び専門家の意見書について裁判官が過小評価あるいは誤解しているのではないかと懸念しております。」

【被告の女性コメント】

「本件につきましては、早稲田大学内部委員会及び外部弁護士を含めた第三者委員会による詳細な調査を経てハラスメントがなかったと認定されております。それにも関わらず、学生による本訴訟提起を機に早稲田大学は私に6ヶ月の停職処分を課した経緯があります。処分を不服として私は大学を提訴しておりましたが、東京地裁及び東京高裁は、当該懲戒処分は大学による私への名誉棄損を構成すると認定し、大学に対して私への損害賠償を命じました。判決は先日確定しております。そのような私の主張が裁判所に受け入れられてきた経緯があった中で、さらに、本判決で、私による当該学生への不法行為は成立しないと認定され、安堵しております。」(元早稲田大学准教授)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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