フジテレビは6月5日、中居正広氏と元女性アナウンサーへの対応など一連の問題をめぐり、港浩一元社長らに対し、法的措置をとることを発表した。港元社長のほか、大多亮元専務に対しても「法的責任を追及することを会社法に基づき決定し、訴訟の準備に入りました」という。
一連の問題をめぐっては、すでに株主代表訴訟も始まっている。5日には、フジ・メディア・ホールディングスの個人株主が、旧経営陣に233億円賠償を求める株主代表訴訟の第1回口頭弁論が都内で開かれていた。
フジテレビが港元社長らを提訴するのはどのような理由、目的があるのだろうか。また裁判所はどのように判断する可能性があるのか。企業法務に詳しい浅井耀介弁護士に聞いた。
●元社長らが「任務を怠った」といえるのかが重要な争点
フジテレビはどんな理由で港元社長らを提訴したと考えられるでしょうか。
「まず、フジテレビは、株主や世間に対して『過去の体制からの脱却』をアピールするために、旧経営陣に対する提訴を決定したのではないかと考えます。
旧経営陣に対する法的責任の追及のための手段としては、『役員等は、その任務を怠ったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う』と規定された会社法423条1項に基づき、フジテレビが港元社長らに対し、損害賠償請求をすることが考えられます。
そのような損害賠償請求訴訟においては、港元社長らが『その任務を怠った』(=任務懈怠)といえるかどうかが重要な争点となります」
本件では、どのような点が「任務を怠った」という事情にあたるのでしょうか。
「本件の場合は、港元社長が、中居正広氏と女性社員との間のトラブルについて認識していたにも関わらず、他の取締役に当該トラブルについて報告していなかった点や、必要な調査を行わないままに中居氏の番組を継続させる判断をした点について、やるべきことをやっていなかったとして、『任務懈怠』と認定される可能性があります」
●すでに始まっている株主代表訴訟との関連は?
すでに個人株主が旧経営陣に対して233億円の損害賠償を求める株主代表訴訟も始まっていますが、2つの裁判をどう整理すればよいのでしょうか。
「株主代表訴訟においても、港元社長らの 『任務懈怠』が認められるかどうかが重要な争点になるものと思われます。
そもそも株主代表訴訟とは、会社が役員の法的責任を追及しない場合に、株主が会社の代表者として役員の法的責任を追及することができるという制度ですから、会社が役員の責任を追及する訴訟(=フジテレビが港元社長らを提訴)と、株主が会社の代表者として役員の責任を追及する訴訟(=株主代表訴訟)とは、実質的にはほぼ同じ内容の裁判といえます。
そうであるとすると、今回の展開は、『会社がやらないなら自分でやる!』と始まった株主代表訴訟に後押しされる形で、『ちゃんと自分たちでもやります!』と会社自身で旧経営陣に対して法的責任を追及することを決定した、というように見ることができるかもしれません」