東京歌舞伎町の「トー横」と呼ばれる一帯で知り合った少女らに対して、無許可で処方薬や市販薬を譲り渡すなどしたとして、無職の男性が医薬品医療機器法違反(販売目的貯蔵など)の罪に問われた裁判の判決が5月15日、東京地裁(今井理裁判官)であった。
今井裁判官は「(トー横に集まる)若年女性との関係を維持するために販売・譲渡した」として、懲役8カ月の有罪判決を言い渡した。男性はトー横界隈の少女とわいせつな行為をしたとして逮捕されて、別の裁判で懲役2年6カ月となっていた。(ライター・渋井哲也)
●咳止めや睡眠薬など1000錠貯蔵
トー横界隈では「ヒロ」と呼ばれていた男性は、この日、長袖の白シャツと黒ズボンの姿で出廷した。今井裁判官が判決を読み上げる間は、時折、持参したノートにメモをとるなど、冷静な表情を見せていた。
起訴状などによると、男性は2023年7月、東京都港区の自宅マンションで、無許可で販売、もしくは譲り渡す目的で、咳止め薬や痛み止め、睡眠薬など1000錠ほどを貯蔵した疑い。
また、2022年5月から2023年3月にかけて、トー横で知り合った16〜17歳の男女3人に咳止め薬「メジコン」や鎮痛剤「トアラセット」、睡眠薬「サイレース」などを販売もしくは譲り渡したとされる。
男性の自宅マンションから多量の薬が見つかったことについて、弁護側は「処方された薬を飲み忘れたか、出入りしていた誰かが置き忘れたもの」と主張した。
しかし、LINEの記録には、2023年4月から6月まで、複数人からメジコンやトアラセット、サイレース、経口避妊薬などがほしいという連絡があり、「いくらでも売るのに」などと返信するやりとりが残っていた。
●元交際相手の少女の証言
争点の一つは、元交際相手である少女の証言が信用できるかどうか。弁護側は「(マンションの)カギを持っているのに、持っていないとウソの証言をした」などとして、信用性がないと主張していた。
証人尋問でのやりとりは、以下の通りだった。
検察官:被告人(男性)と知り合ったきっかけは?
少女:2022年10月にトー横で知り合いました。(男性が)薬を売っていると聞き、買いたいと思いました。
検察官:薬に依存していた?
少女:OD(オーバードーズ/過剰摂取)をしていた。そのため、2023年1月、薬がほしいと(男性に)連絡した。
検察官:実際にもらうことができた?
少女:最寄駅に持ってきてもらいました。咳止め100錠を千円で買いました。
検察官:その後、交際した?
少女:はい。2023年3月から7月まで。
検察官:交際中に薬をもらった?
少女:はい。サイレースやメジコン。
検察官:被告人宅に大量に薬があるのは?
少女:売るため。見たことがあります。メジコンは女の子にあげて、他の人には売っていました。
こうした証言について、今井裁判官は「不自然さは感じない。十分に信用できる」と判断した。
●利益が出ないことが「不合理とはいえない」
また、弁護側は「被告人が薬を安く売っていたのは合理性がない」と主張していたが、この点についても、今井裁判官は「交際していたからこそ、利益が出ないことが不合理とはいえない」と指摘した。
さらに「居場所を失って、歌舞伎町界隈に集まり、売春に手を出す若年女子たちと日常的に接しており、心身の状態が不安定で性病や体調不良のリスクが高い女子たちと接する中で、咳止め薬を大量に服用して感覚や気持ちの変化を起こす、いわゆるオーバードーズを考えたり、性病や体の痛みがあるものの、医療機関には通い難い事情があるものに販売することに合理性がないとは言えない」とした。
量刑の理由については、累犯の前科や余罪があることに加えて、押収された医薬品の量が多いこと、メジコン錠はODをするために大量に服薬されるおそれがあったこと、それらは保健衛生上のリスクが高い行為であること、さらには販売による利益を得るため、または若年女性との関係を維持するために犯行に及んだと認められるとした。