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「ガールズバー」通いで借金→生徒の受験料10万円を横領した高校講師 発覚を恐れて重ねた杜撰な犯行
名古屋地裁半田支部(筆者撮影)

「ガールズバー」通いで借金→生徒の受験料10万円を横領した高校講師 発覚を恐れて重ねた杜撰な犯行

講師として勤める高校で、生徒の資格試験の受験料を横領などしたとして、業務上横領などの罪名で起訴された30代男性の初公判が4月21日、名古屋地裁半田支部で行われた。

横領の被害に遭った生徒は120名にも及び、その中には被告人自身が担任として受け持つ生徒も含まれていた。ガールズバー通いなどの遊興費がかさみ、債務整理をすることになった被告人だったが、横領の使途は自身の債務整理の返済だったという。

裁判では、横領の発覚を恐れるあまり、第2、第3の犯行を行った結果、さらに被害を拡大させた様子も明らかになった。(裁判ライター・普通)

●受験料を横領、合格証書52名分を偽造

画像タイトル 画像はイメージです(genzoh / PIXTA)

被告人は30代の男性。事件当時は愛知県内に居住していたが、懲戒免職により無職となり、現在は実家のある東北地方で両親などと生活をしている。

起訴状によると、被告人は勤務していた高校で、ビジネス文書実務検定の受験料集金や保管、申込などを担当。生徒から集金した約16万円のうち、約10万円を横領した他、文書偽造の罪にも問われている。

受験ができた一部の生徒のうち、試験合格者に向けて発行された合格証書を、同校内のスキャナーでパソコンに取り込んだ上で証書番号等を加工して52枚を偽造して、配布したという。被告人はいずれの事実も認めた。

ここで読者の方には、次のような疑問が浮かぶかもしれない。

受験料を横領された生徒の受験はどうなったのか。合格証書を偽造して何が目的なのか。疑問の答えは検察官によって明らかにされていった。

●ガールズバーなど遊興費がかさみ…

画像タイトル 名古屋地裁半田支部(筆者撮影)

取調べられた検察官証拠によると、被告人は大学卒業後から教員などとして働き、事件の約10年前に今回の高校へ講師として着任した。ガールズバーなど遊興費がかさんだことから、事件の3年前には弁護士に債務整理を依頼していた。しかし、その後もガールズバー通いをやめられず、生活に困窮するようになったという。

事件当時、弁護士から返済額の入金を求められ、事務作業全般を担当していたビジネス実務検定料を横領し、返済額に充てた。預かっていた検定料は196名分の約16万円であったが、学校や検定協会には受験者は74名であると報告をし、約10万円を横領した。

学校内受験用の問題用紙が届いたが、当然、被告人が申し込んだ受験者数分のみだ。そこで被告人は問題用紙を複製し、受験料を支払った全生徒に受験をさせた。

その後、学内で採点を行い、検定協会に提出する成績を入力したパソコンファイルを作成した。正式な受験申込者数と合わないため、実際に申し込んだ受験者数に合わせる形で一部生徒の名前を伏せた上で提出を行った。

しかし今度は、例年に比べて合格者が少ないと疑義を持たれることを恐れた。そこで賞状用紙を学校の費用で購入し偽造を行い、それらを配布したという。

不合格となった生徒が教師に問い合わせたところ、成績ファイルの不正に気付いたことで事件が発覚した。その後、多くの教員を動員し、受験実態を調査。被告人が重ねてきた諸々の問題が判明したという。

●滞納金100万円以上を肩代わりした父

横領した受験料は、給料から天引きされる形で学校に返還された。その他、学校と検定協会への謝罪文などが作成されたことが、弁護側の証拠によって明らかになった。

情状証人として、被告人の父親が出廷した。現在は東北地方にて、被告人と一緒に生活をしている。親子仲は特に悪いなどはなく、定期的に実家に顔を見せていたという。被告人との金銭についてのやりとりについて質問がされる。

弁護人「お金が足りないなどの相談はありましたか」     
父親 「あったので、昨年から20万円を計3回送りました」     
     
弁護人「なぜ足りないのかは聞きましたか」     
父親 「特別は聞いていません。『足りないので』と」     
     
弁護人「計60万円ともなると結構な額だと思いますが」     
父親 「どんくさいというか、おっちょこちょいなので、財布を落としたなどと聞いたので」

被告人の逮捕のことは、被告人が勤務していた高校の校長より連絡があり、知らされた。数日後、被告人の自宅を訪れ、そこにあった各種借入金や家賃、住民税の滞納金として合計100万円以上を支払ったという。

●「生徒との関わりにはやりがい」

被告人に対して弁護人が質問する。

弁護人「教員としての仕事は大変でしたか」
被告人「仕事の中身は大変でしたが、やっている中で理想を持ち、生徒との関りにはやりがいを持てていました」

学校や生徒に多大な迷惑をかける事件を起こしたとはいえ、ぽつりぽつりと供述する仕事への思いも、また本音に感じられた。

しかし、講師という立場から、次年度も雇用が継続するかの不安、その立場でも増える業務量、人間関係などからストレスを溜めこんでいった。当時の様子を「アップアップ」だったと何度も表現し、誰にも相談できなかったことも明かした。

弁護人「今回、一番申し訳ないと思うのは?」     
被告人「もちろん生徒さんに申し訳なく思っています」     
     
弁護人「どんな風に」     
被告人「検定の実害を与えたのと、学校、教師への信頼を裏切り大人を信用できなくなると思う」

その他、高校や検定協会に対しても謝罪の言葉を述べた。

●「当時はアップアップで考えられませんでした」

検察官からは犯行を行っている最中の心境について質問がされた。

検察官「横領の際、担任のクラスの子が学習していた様子とか顔が浮かばなかったのですか」     
被告人「うーん、ちらついたかもですが、ここまでになっているということは、そこまでだったのかもしれません」     
     
検察官「成績データを一部削除してますが、担任クラスの子もいたのでは」     
被告人「覚えていません」     
     
検察官「覚えていないのですか?」     
被告人「機械的にやっていたので、数だけ合わせようと」

淡々と答える被告人。当時の切羽詰まっていた心境は、やりがいを持っていた仕事を忘れさせるほど大きなものだったのであろうか。

検察官「生徒はどんな実害を受けましたか」     
被告人「資格が取れず、技能の証明ができなくなった」     
     
検察官「それもですが、もし就職後にその検定結果に誤りが発覚したら、経歴詐称として疑われたりすることになるとは考えなかったのですか」     
被告人「当時はアップアップで考えられませんでした」

検察官は論告において、遊興費などの払いのために行われた犯行動機の酌量の余地はなく、また当時現職でありながら生徒の不利益を省みず、犯行に至った経緯は悪質として、懲役2年6月を求刑した。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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