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大谷選手のホームランも…野球の観戦中にボールが観客に直撃してケガ 裁判でも争われた「誰の責任?」
写真はイメージです(digi009 / PIXTA)

大谷選手のホームランも…野球の観戦中にボールが観客に直撃してケガ 裁判でも争われた「誰の責任?」

オリンピックに高校野球とスポーツ観戦が楽しいシーズンとなりましたが、野球場や競技場で観戦していた時に飛んできたボールが直撃してケガをすることもあるようです。

プロ野球のオールスター戦を観戦していたところ、ボールが飛んできて手にあたって、骨折してしまったという女性の投稿が最近、Xで注目を集めました。

女性はボールを自ら取りに行ったのではなく、観ていた時に突然、ボールがぶつかったと説明しています。女性は、左手に包帯を巻いた痛々しい写真とともに「皆さん野球観戦にはお気を付けください………」と投稿していました。

ドジャースの大谷翔平選手も7月、打ったホームランが観戦していた日本人の子どもの頭部に直撃したと報道されました。子どもは検査で異常がなく、無事に帰国できたとのことです。

こうした不運な事故はこれまでにもしばしば発生し、裁判にまでなったこともあります。もしも観戦中にボールが飛んできてケガをしてしまった場合、誰の責任が問われることになるのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました

●札幌ドームでファウルボールが飛んできて失明

——野球場ではよく「ファウルボールにご注意ください」といった場内アナウンスがありますが、本当に当たってしまった場合、観客の自己責任になるのでしょうか。

野球場では、ホームランボールやファウルボールが観客席に飛び込んでくることは、野球観戦に来た観客としてはある程度織り込み済みのことではないかと思われます。

どこまでが観客の自己責任となるかが問題となった裁判例として、札幌高裁平成28年5月20日判決があります。同判決は、札幌ドームで子どもを連れて観戦していた女性にファウルボールが直撃して右眼球破裂等の傷害を負ったという事案です。

女性は、試合を主催していた日本ハムファイターズ、札幌ドームを管理していた株式会社札幌ドーム、札幌ドームを所有していた札幌市に対して損害賠償請求を行いました。

同判決は、「観客は、相応の範囲で、プロ野球というプロスポーツの観戦に伴う危険を引き受けた上で、プロ野球の球場に来場しているものというべきである」とした上で、札幌ドームではファウルボールに対する注意喚起の放送、警笛がなされていたこと、フェンスは屋外体育施設の建設指針や他のプロ野球の球場のフェンスと比較して低くなかったことから、社会通念上、プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとは言えないとし、株式会社札幌ドーム及び札幌市の損害賠償責任を否定しました。

●あらかじめわかっていた危険性

——では、ケガをしてしまったとしても、試合をしていた球団側や施設側の責任は全く問えないのでしょうか。

ただ、札幌高裁判決でいえば、女性は、野球に関する知識や関心がなかったものの、日本ハムファイターズが小学生の子どもを試合に招待したため子どもに同伴したといういきさつがありました。

このため、同判決は、そのような子どもの保護者に対しては、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、ファウルボールがぶつかる危険性が相対的に低い座席のみを選択し得るようにするか、保護者らが札幌ドームに入場するに際してファウルボールがぶつかる危険があること及び相対的にその危険性が高い席と低い席があること等を具体的に告知して、保護者らがその危険を引き受けるか否か及び引き受ける範囲を選択する機会を実質的に保障するなど、招待した小学生およびその保護者らの安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていたものと解するのが相当であると述べ、日本ハムファイターズにそのような安全配慮義務が欠けていたとして女性に対する損害賠償を命じました(ただし、女性にも過失があったとして2割の過失相殺がなされています)。

札幌高裁の判決を前提とすると、野球観戦に来てホームランボールやファウルボールにぶつかったとしても、それは観客が予め危険を引き受けていたものとして野球場やゲーム主催者に対して損害賠償請求をしても原則として認められないことになります。

ただ、ゲーム主催者が野球に関して知識や関心のない者を試合に招待したなどの特段の事情がある場合は、必要な安全配慮義務(ファウルボールが飛んで来にくい席を案内する、ファウルボールの危険性を明確に告知してそれでも試合を観戦するかと確認する等)を果たしていなければゲーム主催者の損害賠償責任が認められることになります。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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