北海道標茶町のハンバーガーショップ「Bob’s Burger」が商品を購入せずにサインの撮影だけ行う来店者に対して、Xで注意喚起を行ったことが話題になっています。
報道によると、この店には人気ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」がテレビ番組の収録で訪れた際に贈ったサインが飾られていて、以降、サインだけを撮影して退店する人が増えたといいます。
店はXで「他のお客様にご迷惑がかかる場合がございますので、そのような行為はお断りさせていただきます」と注意喚起。それに対して「ファンなら食って帰るだろ」や「不甲斐ないファンで申し訳ない」といったコメントが寄せられています。
商品を購入せずに、サインだけ撮影して退店する行為に法的な問題点はないのでしょうか。西口竜司弁護士に聞きました。
⚫︎不法行為にあたる可能性は低い
法的にはまず、刑法130条前段の建造物侵入罪にあたるかが問題となりそうです。
一般的な飲食店では、営業目的で客を迎え入れることを前提としているため、単なる撮影目的での入店が直ちに建造物侵入罪とはならないと考えます。
飲食店は色々な方が入ってくることが想定されており、店側の包括的同意があるものと考えられるからです。
たしかに、最初から店の商品を一切注文するつもりがなく、店内の撮影のためだけに立ち入ったのであれば、形式的には管理権者の意思に反する立ち入りとして建造物侵入罪が成立し得ます。
しかし、注文しようと思って入店したが欲しい商品が無かった、などの理由で注文しないで立ち去る人との区別は極めて難しいと思われ、実際に立件するのは難しいでしょう。
また、店の営業を妨害するような事態になった場合、威力業務妨害罪(刑法234条)の可能性もありますが、写真を撮る行為は、怒鳴り声をあげる等と違って「威力」と認定するのは難しいため、妨害行為とまでは言いづらく成立は難しいと考えられます。
このように、撮影のみで一切注文しない客が殺到して、商売にならないといった事情があれば話は違ってきますが、現時点では犯罪の成立というのは考えにくいと思います。
最後に、民事上の責任について考えても、民法709条の不法行為が成立する可能性は低いと考えます。通常、お店に利用規約等を定めて「飲食をする方のみの入店を認める」等と書いていることが少ないからです。具体的な損害が発生したという評価もしにくいものと思われます。
⚫︎節度を持った「推し活」を
中々難しいことではありますが、店側には利用規約を定めることと出禁をお願いすることで対応して頂きたいと思います。
一方で、熱心なファンが番組のロケ地などを訪れる「聖地巡礼」はしばしば問題になることがあります。今回のケースではファンの皆様が指摘されるように、何かを注文するというのがマナーだと思います。
当たり前のことですが、有名人やキャラクターなどを応援する「推し活」は人に迷惑を掛けてはいけないという最低限度のルールを守ることが大切だと思います。変なファンがいると思われることは自分の推しの評価を下げるということにもつながります。
逆にサッカー日本代表のサポーターのように、試合後のゴミ拾いを頑張ることで、日本代表の評価向上にもつながることもあります。何事も節度を持つということが大事と言えそうです。