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5年に1回の世論調査、死刑「やむを得ない」「廃止すべき」の2択に 専門家「変化の分析が不可能に」
龍谷大学名誉教授で弁護士の石塚伸一さん(2025年1月28日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

5年に1回の世論調査、死刑「やむを得ない」「廃止すべき」の2択に 専門家「変化の分析が不可能に」

死刑に関する内閣府の5年に1度の世論調査の結果が2月21日に公表され、「死刑もやむを得ない」とする回答が83.1%、「廃止すべきだ」が16.5%だった。

調査の方法や回答の選択肢にこれまでと変更点があり、内閣府も「単純比較は行わない」と説明する。専門家の中には「国民の死刑に関する考え方の変化を分析することができなくなったことは残念だ」と指摘する声もある。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●死刑に関する質問、選択肢3つ→2つに

世論調査は2024年10月24日〜12月1日、日本国籍を有する全国の18歳以上の3000人を対象に調査票を郵送して実施(これまでは面接する形で実施していた)。有効回答は1815人(60.5%)だった。

今回の調査では死刑制度に関する質問の回答の選択肢が、これまでの「死刑は廃止すべきである」「死刑もやむを得ない」「わからない・一概に言えない 」の3択から、「死刑は廃止すべきである」「死刑もやむを得ない」の2択になった。

この変更について、龍谷大学名誉教授で弁護士の石塚伸一さんはこう話す。

「質問は同じように見えますが、『わからない・一概に言えない』という選択肢が消えたことでアンケートの本質が変わってしまいました。

この二者択一は、回答者に『いま即時廃止か』と『差し当たり現状維持か』の選択を迫られているように感じさせると思います」

なお、2019年の前回調査では、「死刑は廃止すべきである」が9.0%、「死刑もやむを得ない」が80.8%、「わからない・一概に言えない」が10.2%だった。

石塚さんは、「死刑は廃止すべきである」という選択肢は「徐々に死刑を減らし、いずれ廃止する」という日本人的な慎重かつ穏やかな変化を好む人たちの意見が反映されにくいと指摘する。

「調査の目的が『強い死刑廃止の意志を持っているか』それとも『いまのところは具体的な意見は持っていないか』を問うアンケートになったことになります。

これまでの調査に対しては、死刑の存廃の意見を問うには不適切であるという専門家の意見がありました。しかし法務省は、質問の仕方は変更しないと頑なに拒否してきました。

今回の変更は『いますぐには廃止を求めない』という国民の意志を確認するためのものになってしまったことを示唆しています」

そして、次のように述べた。

「5年ごとに内閣府が実施するこのアンケート調査は、同じ方法で定期的に実施する『定点観測』の意味がありました。

しかし、選択肢と調査方法の突然の変更で、国民の死刑に関する考え方の変化を分析・検討することは不可能になりました。極めて残念です」

画像タイトル 写真はイメージです(bee / PIXTA)

●専門家「国民の司法への無関心は深刻」

死刑をめぐっては、昨年9月、長い間死刑囚とされてきた袴田巌さんにやり直しの裁判で無罪が言い渡され、その後確定するという大きな動きがあった。

今回の調査はその直後に実施されたもので、「死刑もやむを得ない」が前回調査の80.8%から2.3ポイント増え、「死刑は廃止すべきである」が9.0%から7.5ポイント増加した。

これについて石塚さんは「昨年9月26日の袴田さん再審無罪の判決は、調査方法の変更という雑音を潜り抜けて、死刑廃止の強い意志を持つ人が16.5%になったことを意味します。袴田判決の影響は重大です」と話す。

内閣府による5年に1度のこの調査は「基本的法制度に関する世論調査」と名付けられており、他の質問には「あなたは、今までに、裁判所を見学したり、裁判を傍聴したりしたことがありますか」という項目があり、今回は「ある」が12.3%、「ない」が87%だった。

「ある」と回答した割合は前回調査の11.7%から微増したが、石塚さんは「9割近くの人が裁判所に行ったこともない。国民の司法への無関心は深刻な状況にあります」と危機感を隠さない。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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