みずほ銀行に勤務していた男性が、約5年に及ぶ自宅待機を命じられた末に懲戒解雇されたのは違法だとして、同行を相手取り、解雇の無効や慰謝料などを求めた裁判の控訴審判決が2月12日、東京高裁であった。
相澤眞木裁判長は、長期間の自宅待機が違法な退職勧奨にあたるなどとして、330万円の支払いを命じた1審・東京地裁判決を支持する判決を言い渡した。
原告、被告双方が控訴し、原告側は地裁判決で地位確認とそれに伴う賃金請求が認められなかったため、高裁で補充の主張をおこなっていた。一方、被告側も長期間の自宅待機命令は法的な問題性がないなどと地裁と同様の主張をしたものの、双方の控訴は棄却された。
原告の男性は、控訴審判決後の記者会見で、新たに提出した証拠が評価されなかったことは残念だとして、上告する方針を示した。(ジャーナリスト・田中圭太郎)
●地位確認と賃金請求は認められていなかった
原告の男性
男性は、同行の人事部による執拗な退職強要を受けたうえ、2016年4月から2021年5月まで5年以上に及ぶ自宅待機の末、懲戒解雇されたと主張。「解雇は無効」として労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や、慰謝料1500万円を含む約3300万円の損害賠償と未払い賃金を求めて提訴していた。
一審の東京地裁は、長期間の自宅待機命令を「通常想定し難い異常な事態」と認定した。2016年4月から2020年10月頃までの「約4年半」を実質的な退職勧奨の継続としたうえで、そのうちの約4年間を「社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨」と判断。不法行為が成立するとして、賠償金330万円の支払いをみずほ側に命じていた。
ただし、解雇を無効とする地位確認と賃金請求については認めていなかった。一審判決を受けて、男性とみずほ双方が控訴していた。
2月12日の控訴審判決で、相澤眞木裁判長は、双方の控訴をいずれも棄却した。
一審では、みずほからの就労継続の意思確認などに男性が応じなかったことなどから「懲戒解雇は有効」と判断された。控訴審で、男性側は、精神障害により体調が悪化したことなどから意思確認に応じられなかったと主張するとともに、違法な自宅待機の期間が長いことから賠償金の増額などを求めたものの棄却された。
また、みずほ側の「自宅待機命令は違法と評価されるものではない」などとする従来の主張も退けられた。
●原告側は上告する方針を示した
中川勝之弁護士(左)と笹山尚人弁護士
控訴審判決を受けて、原告とその弁護団は都内で記者会見を開いた。中川勝之弁護士は、一審判決が維持されたことに対して一定の評価を示した。
「長期間の自宅待機命令を東京地裁に続いて東京高裁でも違法と判断したことは、評価したいと思います。一方で、みずほ側が懲戒処分を繰り返したうえで懲戒解雇した事実の流れを、高裁でも見てもらえなかったのは残念です」(中川弁護士)
一審判決のあとには、みずほ銀行の現役社員から、社内のパワーハラスメント通報マニュアルなどの新たな資料が原告弁護団に寄せられた。控訴審で、原告側はこうした資料をもとに、男性がルールに則って上司らにパワハラ通報をしたことなどを主張した。
しかし、裁判所には評価されなかったことから、男性は「非常に残念」と述べ、上告する方針を示した。
「なぜ社内マニュアルに沿って調査がおこなわれなかったのか。5年の自宅待機が適切なのかどうかをなぜ私に調査しなかったのか。これらの点が今回の裁判でも明確にされなかったことは非常に残念です。最高裁に上告したいと思っています」(男性)
●原告の弁護団「きちんと謝罪すべきだ」
また、原告弁護団の笹山尚人弁護士は、みずほ銀行に対して、高裁判決を重く受け止めて、男性に謝罪することを求めた。
「長期にわたる自宅待機は異常で、社会通念上許容される限度を超えていると高裁は判断しました。非常に重い判断をしたと思います。そこをみずほ銀行はしっかり受け止めるべきです。こういった異常事態を二度と引き起こすことがないよう、コンプライアンス体制やガバナンス体制を見直して、原告に対してきちんと謝罪すべきだと思っています」
男性は一審判決後の2024年5月に、解雇された当時のみずほフィナンシャルグループ会長を相手取り損害賠償など550万円を求めて提訴していて、こちらの裁判も現在続いている。