中居正広氏と女性とのトラブルを巡る一連の問題で、1月27日にフジテレビが行なった記者会見は10時間以上にも及ぶ長丁場となった。その中で会見の中盤、「フジテレビ社会部のカツマタです」と名乗り、現役社員として経営陣に対し質問をした人物がいた。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
会見では肩書きは名乗らなかったが、質問したのはフジのニュース総局にて、事件事故報道の陣頭指揮を執る勝又隆幸・社会部長だった。
勝又部長は会見で自社の不祥事について陳謝した上で、トラブルが発覚した2023年6月から去年12月までの長期間、港浩一前社長とコンプライアンス部門のトップである遠藤龍之介副会長との間で情報共有がされなかった理由を追及した。
28日、弁護士ドットコムの取材に応じた勝又部長は記者会見について、遠藤龍之介副会長が事案を1年半もの期間、共有されなかったことの問題点を認めたことで、一定の説明責任が果たせたと評価する一方、その理由については港前社長から満足のいく回答が得られなかったとして「今後の解明が必要」と断じた。
●クローズドな会見が事態を深刻化させた
会見するフジテレビ経営陣(弁護士ドットコムニュース撮影)
事態をこれほどまでに深刻化させた要因について勝又部長は「報道機関でありながら、クローズドな会見をしてしまった、という点が大きいと思う」と問題が発覚してから最初の会見となる1月17日の定例会見で出席者や撮影方法に制限を設けた点を指摘。
会見において勝又部長は冒頭、「日頃、たくさんの個人や企業の不正、疑惑について厳しく追及しているので、本当に申し訳ない」と謝罪。その上で「少しでも事実解明に役に立てばと思い質問する」と述べた。
会見に臨む思いについては「フジテレビの問題だけに沈黙するわけにはいかないという思いだった。一方で、会場では多くのメディアの方が質問の順番を待っている状況だったので、多くの時間は取れないと言う点に留意していた」と振り返った。
●情報共有しなかった理由「満足のいく回答ではない」
会見するフジテレビ経営陣(弁護士ドットコムニュース撮影)
会見で勝又部長が問い質したのは、中居正広さんと女性とのトラブルについて、港浩一社長とコンプライアンス部門(社内のコンプライアンス委員会)のトップであり、上役でもある遠藤龍之介副会長との共有が1年半もの期間、行われなかった点についてだ。
この点については、先に挙げた閉鎖的な会見と同様、事態を深刻化させた要因だと勝又部長は分析。
「女性から相談があって以降、記事になるまで、コンプライアンス部署に共有していなかったことで、女性のケアや事後対応に専門的な見地を反映できなかった点も非常に悔やまれる」と自社の対応を嘆いた。
勝又部長は会見で「皆さんが一番知りたいことというのは(被害)女性の誰にも知られたくないとかプライベートの領域での出来事というのを盾にして、『情報隠蔽』をしているのではないかということに尽きる」と怒りを滲ませるような強い言葉で前置き。
その上で、「隠したいものや守りたいもの、示談が済めばそのまま、なきものにしたいという思いはなかったのか」と港前社長を追及した。
それに対し、港前社長は「守りたいとか隠したいという気持ちはなかった。社員が関与しているのではないか、という可能性を知ったのは去年の夏以降なので、(事案発生時に)そういう要素(社員の関与)が入る余地はなかった」と説明した。
この回答を勝又部長は「なぜ『情報隠蔽』をしたのかについて、満足な回答を得られなかった」と説明。第三者委員会などを通じて「今後の解明が必要だと思っている」と語気を強めた。
勝又部長が会見の場で「愕然とした」と表現した共有の遅れについては、遠藤副会長が「(どんな理由であっても)共有すべき問題だった。(被害)女性のメンタルを考えながら伝える人を広げていくというのは簡単ではないが可能だった」と自らの非を認めた。これについて、勝又部長は「『難しいが共有すべきだった』という回答を貰ったので、フジテレビの説明責任が果たせたと思う」と一定の評価をした。
●自らが取材対象になっても「逃げてはいけない」
フジテレビ(Faula Photo Works / PIXTA)と文藝春秋
本来、部長は原稿のチェックや取材体制の管理などが主な役割。このような会見に質問者として出席することはほとんどないと言っていい。
それでも自らが出席した理由について「フジテレビの社員が会長、社長を取材するという一定の覚悟が必要な状況だったので、部下にやらせるわけにはいかないと思った」と部下への配慮を見せた上で、「部長が自ら質問に立つことで、現場の記者たちに報道記者としての矜持を示そうと思った」と勝又部長は話す。
問題発覚以降、スポンサー離れが続くなどフジテレビに対する逆風が止む気配はない。
その上で、フジテレビ報道としての課題を尋ねたところ、「企業や個人の疑惑や問題を追及する報道機関は、自らが取材対象になった時には逃げてはいけない。この当たり前のことを、記者だけでは無く、新たな経営陣にもしっかり伝えていくこと」と強調。
さらに「今回の件に関する検証報道を行い、報道機関としてのフジテレビの信頼を回復していくことが重要だと考えている」と応えた。