SNSで知り合った人の誘いにのせられて、自分の性的な画像や動画を送ってしまい、その後、言いなりになるよう脅されたり、金銭を要求されるという被害が、若年層を中心に報告されている。
デジタル性暴力の一種であり、「性的な」を意味する「セックス」(SEX)と「脅迫・ゆすり」を指す「エクストーション」(Extortion)を合わせた「セクストーション」(性的な脅迫)という造語で呼ばれている。
児童の人身取引を阻止する活動や、セクストーション被害の相談窓口を運営するNGO「ゾエ・ジャパン」によると、これまでは女性が被害に遭うケースが目立っていたが、最近、男性の被害者にも目に付くようになってきたという。
ゾエ・ジャパンの秦地浩未さんとオズボーン・ゆりさんに聞いた。(ライター・玖保樹鈴)
●コロナ禍を機に「セクストーション」被害が増えた
――ゾエ・ジャパンはどのような団体なのでしょうか?
秦地:本部にあたる「ゾエ・インターナショナル」は、2002年にアメリカで設立されました。当時は、タイで人身取引の被害に遭っている子どもたちを救済することが主な目的でした。
日本では2017年、キリスト教の理念に基づいて「被害の防止」「被害者の救出」「被害者の回復支援」という三本柱で、子どもの人身取引を終わらせるために「ゾエ・ジャパン」が設立されました
――その1年前の2016年、日本では「AV出演強要」がメディアで大きく取り上げられていました。このような性的搾取問題について、以前から関心はありましたか?
オズボーン:人身取引の問題は関心があったのですが、AV出演強要が人身取引にあたるかについては、まだ知見が積み上がっていませんでした。そこで人身取引について一から調べたところ、その人の意思を無視して脅したり、騙したりして、自由を奪い、利益を搾取するものであるということがわかりました。
ゾエ・ジャパンの活動に関わる以前は、人身取引は、貧困国特有の問題だと思っていました。しかし、国内においても、深刻な被害が起きていることが改めて痛感させられたのです。
秦地:キリスト教の理念から、人を救済することへの関心はずっとありましたが、人身取引については活動を始めてからです。設立当時は「セクストーション」という言葉もなく、児童ポルノの問題も公の場で話されることが少なかったので、まずは、東京・新宿や秋葉原などで実態調査をしていました。
セクストーションを啓発する冊子も作っている
――「セクストーション」という言葉を知ったのは、いつごろでしたか?
オズボーン:「セクストーション」という言葉は、日本に先立ってアメリカで認知されました。以前はアメリカでも「ネットいじめ」と言われるのが一般的で、日本でも「デジタル性暴力」と言われていましたが、「セクストーション」という言葉はほとんど浸透していませんでした。
秦地:海外で認知されている「セクストーション」という言葉に一本化して、配布物などに使うようになったのは、2021年ごろです。コロナ禍がきっかけで、オンラインに関連する性被害相談が増えてきた時期でもありました。
――男性の被害もこのころから増えてきたのでしょうか?
オズボーン:若年女性が被害に遭うケースは以前からありましたが、若年男性の被害が増えてきたのは、この2、3年です。アメリカでは、10年以上前から被害が報告されていたので、啓発運動などの対策がされてきました。 私たちの団体に寄せられる男性の相談者への加害者は外国人が多いのですが、これは翻訳アプリの精度が向上したことで、日本の10代男性を騙せる環境が整ったからです。
●「連絡先の全員に裸の画像を送るぞ」と脅されたケースも
――具体的にはどんな被害が起きたのでしょうか?
オズボーン:海外に留学している高校生の男の子が、異国の地で寂しさを紛らわすため、ネットで友人を探すうちに「同年代の女の子」を称する人物と出会って、やり取りが始まったというケースがあります。
何度か会話しているうちに、彼女が「今、私、エッチな気分なの」と言い出し、立て続けに性的な画像が送り付けられて、その気にさせられました。
「これくらいなら大丈夫だろう」と自分の顔と性器が写った画像を送った瞬間、相手の言い回しが変わり、「公開されたくなければ、金を支払え」という冷酷なメッセージが届くようになりました。
彼はパニックに陥り、電子マネーを支払ってしまいました。脅せば金銭を支払うと判断した加害者がさらに要求を突き付けてきたことで、どうしようもなくなり、悩んだ末に私たちに相談してきました。
なお、加害者側に女性がいるというより、インターネット上で拾ってきた女性の画像を使って、誘導することが多いようです。
――加害者とはどうやって知り合うことが多いのですか?
秦地:たとえばオンラインゲームです。また、外国人と友だちになりたいと思って、言語交換アプリや国際マッチングアプリなどでつながるケースもありました。
ただ、ゲームやアプリは入口にすぎず、多くの場合、被害者のフォロワーを見ることができるアプリ、例えば「Instagram」などに誘導されます。裸の写真を友人や知人に「晒すぞ」と脅すために、そのようなアプリへの友だち追加が必要不可欠なのです。
また、やりとり自体は自動翻訳機能がある「LINE」経由が多く、お金の要求も「LINE」でされることが多くなっています。
オズボーン:「Instagram」を経由しなくても、犯罪組織が作ったハッキングアプリに「もっとエッチなやりとりがしたいから、これを使いましょう」と誘導してダウンロードさせて、写真フォルダや連絡先などの情報を盗み出す被害もありました。
相手に連絡先一覧が渡ってしまうので、「連絡先の全員に裸の画像を送るぞ」とか「学校の先生に送り付けるぞ」といったメッセージと画像が送られてきて、脅されたといった被害もあります。
●社会人になって日が浅い世代が最も多い
――男性の場合は「相手のエッチな画像が見られてラッキー」と思ってしまうことで、被害に遭う人が多いのでしょうか?
秦地:女性は「どうしよう、本当はイヤだけど相手に嫌われたくない」と苦しみながら性的な画像を送ってしまうことが多いのですが、男性は、外国人女性とセクシャルトークできることに興味をもってしまう人が少なくありません。
また、自分が性的対象になることに対する意識・感覚が、女性に比べて薄い傾向があります。あくまで性的対象になるのは女性で、オンライン上の性的なやりとりを簡単に考える傾向もあります。
実際に脅されて金銭を要求されて、そこで初めて何が起きているかがわかり、パニックになるようです。
――被害に遭う年齢のボリュームゾーンは、何歳ぐらいでしょうか? また、2024年はどれくらいの相談があったのでしょうか?
秦地:ゾエ・ジャパンにアクセスしてくるのは15、16歳の子もいますが、18歳から、23歳くらいの世代が最も多いです。
オズボーン:2024年、現段階で、セクストーションは72件の相談がありました。男性は10代が15件、20歳以上が50件でした。女性は10代が2件、20歳以上が5件となっています。
――加害者側はどれくらいの金額を要求してくるのでしょうか?
秦地:若年者の場合、「電子マネーで2万円送れ」など、払えそうな金額が要求されることが多いです。中には全額は無理だけど、5000円だけ払ってしまったという被害者もいました。
20歳以上になると一桁あがって10万円、20万円と要求されることが多いようです。同じ加害者から複数の被害者がターゲットにされ、合わせて数百万円要求された人もいました。加害者側でパターンを決めて、まず数万円要求し、もっと取れそうだと踏んだらエスカレートするようです。
●被害を防ぐために、親子で性を語れる環境作りをしてほしい
――相談を受けた相手にどんなアドバイスをしていますか? また相談を受けて、どんなアクションをしていますか?
秦地:被害者は死を考えるほどの苦しみを抱えているので、まず「あなたは悪くない」と伝えます。そして、一度金銭を払ってしまうと、どんどん要求してくるので、絶対に金銭の支払いをしないようにアドバイスしています。また、信頼できる友人がいるなら、その友人には本当のことを話して、「自分の性的な写真を目撃したら連絡してほしい」と伝えることをすすめています。
未成年は「親に言えない」と悩んでいる人も多く、「被害者はあなただけじゃないし、あなたは悪くない。お父さん、お母さんは最初驚くかもしれないけれど、あなたを一番大切にしてくれる人だから、どうにか助けてあげたいと思うはずだから」と親の視点に立ったアドバイスをしています。
オズボーン:追い詰められて最悪の決断をしないように「一緒に解決方法を考えていきましょう」と伝えたうえで、公開を許可していない性的画像を削除するサイトにコンタクトを取って削除を要請します。
しかし、もうすでにネット上で画像が公開されている場合は、インターネット・ホットラインセンターにも連絡しています。
裸ではなく服を着た写真を送っただけで、ディープフェイクによって、性的な動画を作られた人もいます。ネット上に自分の情報をどこまで載せるのか。学校の制服姿の写真を載せることなども実はリスクがあります。
また、小さなお子さんがいる方は、自分が気を付けていても、友だちが自分の写真や学校名、地域の情報などを投稿してしまうこともあるので、コミュニティ全体で気を付ける必要があるとアドバイスしています。
秦地:相談を受けたときはパニックに陥っていても、解決の糸口がわかって落ち着いた被害者には「性と尊厳は深く結びついている」ということを伝えています。
性の問題は、親に相談するのは気まずいので、ネットで知識を仕入れてしまい、歪な性認識を持ってしまう子どももいます。だから、親世代には、子どもが性のことを相談できる関係づくりを日ごろからしてほしいと思います。
そして、性はネガティブなものではなくて、人生を豊かにするものだというポジティブなイメージを持つことも合わせて、子どもに教えてあげてほしいと思っています。