2022年9月、大阪市内の病院で1人の高齢男性が新型コロナウイルス感染症にかかって死亡した。しかしその後、病院側が開示した男性のレントゲン写真には、のどの部分に大きなキーホルダーが付いた鍵の影が…。
病院側は、鍵の管理状況が不十分だったことを認めて遺族に謝罪した。しかし、「鍵の誤飲と死亡との因果関係は認められない」と説明したという。
全国の医療機関が厳戒態勢を敷いていたコロナ禍の出来事とあり、残された家族は「新型コロナの混乱の中で他にもおかしい状態で亡くなった人がいるかもしれない。病院には納得できる説明をしてほしい」と訴えている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●のどに鍵を発見、1週間後に死亡
亡くなったのは、大阪市で印刷関係の会社を営んでいた大西健一さん(当時82歳)。
家族や代理人弁護士によると、大西さんは2022年1月、自宅で転倒したことで胸椎を圧迫骨折し、その治療のために大阪市平野区の民間病院に入院した。
2022年9月13日の午後9時頃、大西さんがのどの痛みを訴えるようになり、翌14日午前10時頃に新型コロナウイルスのPCR検査を受けたところ陽性の結果が出た。
15日午後5時半頃に酸素飽和度が低下したことから、肺炎を疑った病院側が胸部のレントゲン検査を実施したところ、のどに鍵が入っていることが判明。すぐに鍵を取り出す手術が行われたという。
しかし、9月22日午後1時頃、死亡が確認された。
キーホルダー付きの鍵が見つかった経緯
●遺族「鍵を見た時、震えました」
大西さんは認知症の症状がみられ、おむつを触るなどの行為があったことから、入院中はファスナー付きのつなぎの服を着用させられていた。
のどから取り出された鍵はつなぎ服のファスナーを開けるためのもので、フラミンゴの形をした金属製のキーホルダー(4センチ×6センチ×5ミリ)が付いており、鍵を含めた全長は約12センチあったという。
家族は病院から大西さんが鍵を誤飲したと説明され、当初はあまり気にしていなかったという。だが、葬式などが終わって精神的に余裕ができてからふと気になり、のどに詰まっていた鍵を病院に見せてもらったという。
「鍵を見た時、震えました。これは一体何センチあるのかと。最初は小さい鍵と思っていたので、鍵の実物を見て『これはおかしい』『これが原因で亡くなったんじゃないか』と思いました」
大西さんの息子(55)は当時の衝撃をそう振り返る。カルテを見ると、大西さんが9月13日から何度ものどの痛みを訴え続けていたこともわかった。
大西健一さんののどからから取り出されたキーホルダー付きの鍵。全長12センチほどあったという(大西さん家族提供)
●コロナ禍の病院、外部の目入らず不信感増
家族が疑念を深めたのには他にも理由があった。
大西さんが亡くなる前の9月15日のカルテには「呼吸不全、脱水、肺炎(COVID-19+細菌合併)として対応」と記載されており、大西さんの肺炎の原因が新型コロナだけではないと病院側が認識していたと思われる形跡がみられたためだ。
しかし、死亡診断書の直接死因の欄には新型コロナウイルス感染症とだけ記載され、カルテに書かれていた「細菌」については言及がなかったという。
死因に疑問を持つようになった家族は、キーホルダー付きの鍵が大西さんののどに詰まった経緯や死亡との関係について説明を求めたが、納得できる回答を得られなかった。
病院の説明では、鍵は患者のベッド近くにあった点滴用のフックに掛ける形で管理していたといい、大西さんが最初にのどの痛みを訴えた日の翌9月14日午前3時頃の時点で鍵がないことに担当の看護師が気づいた。
つなぎ服の鍵は患者共通だったため看護師は他の患者の鍵を使って大西さんのおむつを交換したが、病院スタッフの間でその情報が共有されずに、鍵の発見が遅れたという。
大西さんが亡くなった2022年は新型コロナ禍の最中だったため、多くの医療機関は感染防止対策のために外部の人が病院の建物に入ることを制限しており、大西さんが入院する病院も同様だった。
そうした当時の状況を踏まえ、大西さんの息子は次のように話す。
「あんなに大きなものを誤飲するほど親父はぼけてはいませんでしたし、何度ものどが痛いと言っているのになんでちゃんと調べてくれなかったのか。当時はコロナで面会もできず、病院の中の状況が全くわかりませんでした。もしかしたら病院で誰かに鍵を飲まされた可能性だってあるかもしれません。
病院の対応を見ていると、『隠していることがあるんじゃないか』『親父以外にもおかしい状態で亡くなっている人がいるんじゃないか』などと思ってしまうんです」
大西さんの死亡診断書には直接死因の欄に「COVID-19(新型コロナウイルス)感染症」と書かれていた(家族提供)
●病院「鍵の誤飲と死亡の因果関係は認められない」
病院側は鍵の管理状況が不十分だったことを認めて謝罪した一方で、「大西さんが鍵を誤飲した可能性が高い」「鍵の誤飲と死亡との因果関係は認められない」という趣旨の説明があったという。
大西さんは徳島県出身で、大阪に出てきてから一代で印刷関係の会社を立ち上げた。「仕事が趣味だった」(息子談)といい、子どもにはよく「人に迷惑をかけるな」と言っていた。
2022年11月に退院する予定だったといい、家族は自宅をバリアフリー化するなどして帰りを楽しみに待っていた。
「親父は生きることに執着がある人でした。鍵がのどに詰まっていなければ、その状態が数日間放置されていなければ、今も生きていたんじゃないかと思うことがあります。確かにコロナで亡くなったのは本当かもしれないけど、鍵がのどに詰まった原因がはっきりせず、病院側の言うことが二転三転しています。ちゃんと説明してほしい」
病院から開示された大西さんのカルテには9月13日21時から咽頭痛を訴え始める記録が残されていた(家族提供)
●病院の代理人弁護士「これ以上の説明ができない」
病院を運営する医療法人の代理人弁護士によると、大西さんを担当していた看護師に当時の状況を聞き取った際、鍵をどこに置いたのかについて明確な記憶がなかったという。
昨年夏には、大西さんを担当していた医師などに遺族が直接質問して説明を受ける機会を設けた。
そうしたことを踏まえて、代理人弁護士は「現場をリアルタイムで確認した人がおらず、新しい証拠などが出てくることも考えにくく、これまで以上のことは説明ができない」とした上で、「今後もご家族から改めて質問があれば回答していきたい」と述べた。