1966年に静岡県でみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件の裁判のやり直しで、一旦死刑が確定した袴田巌さんの無罪が確定したことを受けて、日本弁護士連合会(日弁連)の渕上玲子会長は10月9日、「国は袴田氏に真摯に謝罪した上で、えん罪の発生や無罪確定までに長い年月を要した原因を検証し、是正する措置を講じなければならない」とする談話を発表し、再審法の改正に着手するよう求めた。
●「原因と責任の所在を明確に」
談話で渕上会長は、袴田さんが逮捕されてから58年2カ月、死刑が確定してからは43年10カ月という長い年月が経過したことに触れ、「袴田氏が、今後心身ともに回復され、人間らしい、穏やかな日々を送られるよう切に願っている」と述べた。
また、裁判所が捜査機関による非人道的な取り調べや証拠の捏造を認定したことを指摘した上で、「本件えん罪の原因と責任の所在を明確にしなければ、同様のえん罪被害の発生を防ぐことはできない」と話し、具体的な手続きが規定されていない再審法の改正に向けた具体的な検討をすぐに始めるよう求めた。
●談話全文「再審法改正に力を尽くす」
日弁連会長の談話全文は以下のとおり。
「袴田事件」に関し、静岡地方裁判所が本年9月26日に宣告した再審無罪判決について、本日、検察官が上訴権を放棄したことにより同判決が確定した。 再審無罪判決の確定に至るまで、1966年(昭和41年)8月に袴田巖氏が逮捕されてから実に58年2か月、1980年(昭和55年)12月に袴田氏に対する死刑判決が確定してからも43年10か月という長い年月を要した。 袴田氏、姉の袴田ひで子氏、そして弁護団の長きにわたる雪冤に向けた努力と多くの方々の支援が結実し、袴田氏が晴れて真に自由の身となられたことを心から喜ぶとともに、袴田氏が、今後心身ともに回復され、人間らしい、穏やかな日々を送られるよう切に願っている。 国は、「袴田事件」の経過及び結果を重く受け止め、袴田氏に対して真摯に謝罪した上で、本件えん罪の発生や再審無罪判決確定までに長い年月を要した原因を検証し、これらを是正する措置を講じなければならない。 昨日公表された検事総長談話は「再審請求手続がこのような長期間に及んだことなどにつき、所要の検証を行いたい」とするが、その検証においては、再審無罪判決で捜査機関による非人道的な取調べや証拠のねつ造が認定されたことなどを真摯に受け止め、本件えん罪の原因と責任の所在を明確にしなければ、同様のえん罪被害の発生を防ぐことはできない。また、単に刑事司法制度の運用を改めれば足りるとするのではなく、法改正を含む抜本的な改革に取り組まなければならない。 とりわけ、「袴田事件」を通じて改めて浮き彫りになった再審法の不備を正すため、直ちに再審法改正に向けた具体的検討に着手すべきである。 当連合会は、「袴田事件」のような悲劇を二度と繰り返さないよう、今後も刑事司法制度の改革に尽力するとともに、他にも多数存在するえん罪事件の被害者が一日も早く救済されるよう支援を続けていく。また、死刑制度の廃止並びに再審請求手続における証拠開示の法制化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止及び再審請求審における手続規定の整備を含む再審法改正の実現のため、今後とも力を尽くす所存である。