6月17日夜、東京都練馬区の住宅のトイレで、住人の男性が頭から血を流した状態で発見され、その後死亡が確認された事件で、男性の妻がゴルフクラブで殴って殺害したとして、殺人の疑いで警視庁に逮捕された。
FNNプライムオンラインなどの報道によると、妻に呼び出された男性の母親が110番通報をしたようだ。妻が「ゴルフクラブで殴られたため、奪って殴り返した」「ゴルフクラブで殴ったことで夫が亡くなると思わなかった」などと話しているという。
詳細は不明だが、妻が夫から先にゴルフクラブで殴られていた状況だったのだとすれば、正当防衛にはならないのだろうか。星野学弁護士に聞いた。
●正当防衛成立すれば「犯罪不成立」
——正当防衛はどのような場合に成立しますか。
正当防衛は、「急迫不正の侵害」に対して、「防衛の意思」を持って、「必要性」・「相当性」のある防衛行為を行った場合に成立します。成立した場合は、行為の違法性が阻却され、犯罪行為ではなく適法な行為となります。
──今回のケースは正当防衛になる可能性があるのでしょうか。
事実関係の詳細がわからないため、推論の域を出ませんが、仮に「ゴルフクラブで殴られたため、奪って殴り返した」という説明が事実だとしても、正当防衛が成立しない可能性があるように思います。
正当防衛の成立には、「現に法で保護すべき利益(法益)の侵害が存在している、または、侵害の危険が間近に押し迫っている」という「急迫性」が必要です。
ナイフで切りつけられそうになったため、近くにあった棒で足を払ってけがをさせたというような場合が典型例でしょう。
しかし、今回のケースでは、ゴルフクラブを奪った時点で、暴行行為はひとまず終了しているともとれ、その後新たに別のゴルフクラブで積極的な攻撃をしてきたなどの事情がなければ、ゴルフクラブを奪った時点ですでに「急迫性」がなくなったと評価される可能性があります。
もし「急迫性」が認められるとしても、反撃行為が侵害に対する防衛手段と比較して著しい不均衡がないことという「相当性」があるかを検討する必要があります。
●「相当性」の有無は具体的な状況次第
——「相当性」があるかはどのように判断されるのでしょうか。
相当性の有無は、諸事情を考慮して判断されます。
必要最小限といっても、「木の棒」で殴られそうになったときに木の棒よりも危険な「金属パイプ」で反撃したからといって、必ず相当性がなくなるわけではありません。
しかし、「素手」の相手に対して「刃物」で防衛してけがを負わせたという状況では、一般的に相当性が否定されるでしょう。
——今回のケースはどうでしょうか。
ゴルフクラブを奪った後の状況次第ではないかと思います。
たとえば、さらに別のゴルフクラブ等の凶器で侵害を受けるおそれが高い状況だった場合には、「相当性」が認められやすくなるでしょう。一方で、ゴルフクラブを奪った時点ですでに侵害のおそれが小さくなっていた、相手が素手で殴ろうとしてきたというような事情は、「相当性」が否定される方向に働くでしょう。
ただし、素手で襲い掛かってくるような場合でも、体力差の大きい男性が首を絞めようとしてきたなどの事情があれば、また「相当性」の判断が変わりますので、一概には言えません。
なお、「相当性」が認められなかった場合でも、過剰防衛の成立はあり得ます。過剰防衛の場合、犯罪は成立しますが、減刑または免除されることがあります。