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ロースクール失敗論を超えて、未来の法曹養成を語ろう 弁護士・学者・学生らが本気の議論
法曹養成イベントの様子(2024年3月21日、弁護士ドットコム撮影)

ロースクール失敗論を超えて、未来の法曹養成を語ろう 弁護士・学者・学生らが本気の議論

法科大学院(ロースクール)開設をはじめとする平成の司法制度改革から20年余。日本の法曹養成の形を大変革したものの、年3000人合格目標は10年を待たずに撤回され、予備試験に人気が集中するなど、当初の理想とはかけ離れた誤算が続いてきました。

「政策の失敗」「国家的詐欺」とまで批判されたこの改革を振り返ろうと、弁護士ドットコムニュースは各界の当事者を取材し、特集企画「転機のロースクール」を展開しました。

法曹志望者が減少するなか、令和時代の法曹養成はどう進んでいくべきか。2024年3月21日に行われた締めくくりイベントでは、研究者・弁護士・メディア関係者・学生らが車座になって議論。その様子をレポートします。

●伊藤氏「合格はスタート地点にすぎない」

画像タイトル 伊藤塾長

冒頭、40年以上にわたって司法試験指導を続ける伊藤塾の伊藤真塾長、「平成司法改革の研究〜理論なき改革はいかに挫折したのか」の編著者・早稲田大学院法務研究科の須網隆夫教授が登壇。いずれも旧司法試験で法曹資格を得た2人が、20年を振り返った。

伊藤氏:私はロースクールをつくって、修了資格を司法試験の条件にしたことが失敗の一番大きい原因だと思っています。誰でも、自由に、何回でも受けられる非常にオープンな制度を変えてしまったことで、受験者数も激減しています。

また、法曹の数を急激に増やしたものだから「就職が厳しい」「収入が増えない」などネガティブキャンペーンのようにメディアから取り上げられてしまいました。私は食えない仕事とは思わないし、むしろ可能性は広がっていると学生に伝えます。合格が出発点なんです。

大手事務所に人気が集中するのも否定はしません。インハウスのように安定したいという選択肢もある。経営者になって企業を育てるのも夢があっていい。法曹資格は役に立つから、とりあえずやってみない?という勧め方をします。フレキシビリティーある働き方がこの試験の先にはあるんです。「あるべき弁護士の姿」をこれからの人たちが自分たちで作り上げるために、土台や環境を整備すべきでしょうね。

法曹養成機関のあり方を考える上で優先すべきは合格後の研修の充実です。最高裁主導ではなく実務家リカレント教育も含めて各地のローを活用できればいい。試験制度は誰でも挑戦してみようと思えて、多様な人材を確保できる制度にすることが不可欠です。学びのルートも多様であっていいはずです。

●須網氏「ロー制度は各界に禍根を残した」

画像タイトル 須網教授

須網氏:法曹志望者が激減したのは、他の職業との競争に負けたということでしょう。私たちが法曹になった頃に比べ、今は会社に入っても若いうちからなんでもできる。転職も活発です。ロースクール制度だけを原因にするのは、ずれていると思います。ローへの制度変更には、おそらく弁護士も大学にも被害者意識がある。ただ、これからは恨みを再生産するようなことをしても将来はないでしょう。

私が当初、ロー制度に賛成したのは、日本の法律家はかわいそうじゃないかと思ったからです。弁護士になった後に、米国とベルギーに行きました。米国型・欧州型はあるけれど「学問の自由に裏打ちされた大学が法曹養成に関わる」ことが一般的でした。翻ってロー以前の日本の大学は、最初から法律家を育てようと思っていなかった。日本と諸外国では、法律家を養成するために投入されている資源の量が全然違う。もっと資源を投入してもいいと思ったんです。

学者の中に、研究能力があって、実務もやっている人はほとんどいない。しかし、実務家に訴訟はできるにしても、現行法に対する批判的な理解は別です。法曹養成をうたうなら、試験対策以外のことを教える機関であるべきではないでしょうか。今のシステムは、非常に大切なものをなくしていると感じています。

●深澤弁護士「若者・受験生...弱い人を大事に」

画像タイトル 深澤弁護士

深澤諭史弁護士:法曹養成制度をいじる立場の方々に最も言いたいのは、人を大事にしてほしいということです。平成の司法制度改革では、受験生の声は全然顧みられなかった。修習生の給費制が貸与制から復活した時に大反対する人たちがいました。修習生や新人弁護士といった弱い立場にしわ寄せがいくことは避けてほしい。これまで合格者の数が増えたり減ったりしました。また変更するにしても、今の受験生やロースクール生に不利益が出ないように、期間を十分に構えるべきです。

ローが問題となっているのは、時間やコストを費やしても期待できる待遇が得られないという「不釣合い」です。学者の方々から時折出るのは、弁護士会への批判です。実務をしたことがない方たちが敬意を払わない、それは問題ではないかと考えています。無用な対立で困るのは、受験生たちです。

司法修習の充実については、期間の延長や司法研修所の民主化が必要だと思います。修習期間は今は1年ですが、導入修習という座学をほんの少しやることになっている。結局、実務修習が圧迫されています。1分野、民事裁判だったら2カ月間しかない。完全にお客さんになってしまうので、前期を復活させる形で1年4カ月程度にする考え方はあるのかなと思います。

●吉田弁護士「不人気なんて言わなくてもいい」

画像タイトル 吉田弁護士

吉田京子弁護士:受験者減は確かですが、弁護士が不人気だと声高に言わなくてもいいと思います。米国のローに留学しましたが、カリフォルニア州の司法試験は合格率が日本より少し高い50%ぐらいです。でも、弁護士は非常に人気があります。弁護士が特殊でもなく、IT技術者やロボット工学などと並んで、数ある魅力的な職業の一つなんです。

ただ、ロースクールを出てからの教育で言うと、司法研修所の問題は大きいと思います。最高裁が取り仕切る以上は彼らに都合の良い教育しかできないわけですし、裁判官や検察官の興味・関心はもっぱらリクルーティングです。最高裁の下にある研修所で変えていくのは難しいでしょう。

ボスの高野隆弁護士は早稲田ローでの教え子と作った事務所を15年続けています。学生には、実務を知ってどんな法律家になりたいかビジョンを持ってもらいたいと、3カ月1タームで独自のインターン制度を設けています。給料も払って事務所の一員として、事件の会議にも入る。判例を調べて整理し、何が使えるかまで考える。決して高くないお給料で、熱心にやってもらえる。彼らからすれば、実務家と議論することは役立つ。両者にとって有益な制度です。

●板倉弁護士「専門分野は人材不足、いつ教えるのか」

画像タイトル 板倉弁護士

板倉陽一郎弁護士:弁護士の仕事は「仕事を取ってくる」「仕事をやる」「お金を取る」が3分の1ずつです。新人さんは、仕事をやる前提の勉強しかしていないので、一人前の弁護士のまだまだ3分の1にも満たないということです。そういう仕事だということが、なかなか伝わらない。実務は実務、講義は講義。結局お客さんからしかお金をもらえない。弁護士は中小企業の社長みたいなもんですよ。それなりの覚悟がないと、とは思います。

ただ、今は専門を学ぶ場面が少ない。そのため、専門分野の人材不足が顕著です。私の取り扱う消費者法や情報法といった分野、データ保護は全事業者・全行政機関が必要なのに、学生の勉強では全然たどり着かない。我々の時代は好きなように選択科目を取れたけど、今のローはすぐ受験になっちゃう。弁護士になった後は、なかなかまとまった時間は取れません。

司法研修所に期待するのは難しいでしょう。非常に保守的です。NHK連続テレビ小説「虎に翼」の三淵嘉子先生は押しかけて、無理やり弁護士任官した。その頃の方が柔軟だったかもしれません。若手の退官は深刻です。検察官や裁判官は、そろそろ全国転勤をやめてエリア採用をしたら、なり手不足に一定の意味はあるのではないでしょうか。

●米田教授「サラリーマン弁護士を生んだ改革」

画像タイトル 米田憲市・鹿児島大教授

米田憲市・鹿児島大教授:20年の間に大学教員の教育方法は、劇的に変わりました。20年前のイメージで法科大学院(ロースクール)教育を語っても意味がありません。法曹養成課程に求められていることは、そもそも司法試験合格を目指した授業は当然で、「理論」と「実務」を架橋したコンテンツです。「3+2(編注:学部3年、ロー2年と短縮化した法曹コース)」が導入されてから、このバランスがすごく悪いと思っています。カリキュラム全体が司法試験に直結しない科目をいかに削るかという流れになってしまっている。なにかしら手を打たないと、「社会が求める法曹」を獲得できないのではないでしょうか。

ロー制度が始まってから、司法試験のやり方も、法曹志願者数や合格者数、合格率も変化し続け、コロナ禍もありました。10年前に法曹になった人々と、これから法曹になる人々の経験はまったくといっていいほど違います。いまでは職域も大きく広がり、多様な領域で活躍できることも知られていて、就職状況も圧倒的によくなっています。

そこでは、法曹全体のなかでインハウスや大手事務所のように、勤務型の弁護士が圧倒的に増えたことも重要でしょう。すでに勤務型の法曹であった裁判官、検察官にも「組織の圧力」があることはよく知られています。こうしたことを踏まえた「法の支配」のあり方から、次に向けての改革を考える必要があると思います。

●現役ロー生「試験、就職…時間がない!」

画像タイトル (左から)晋川さん、谷口さん

晋川陸弥さん::The Law School Timesというメディアで、学生に司法試験などの情報を提供しています。今の学生は時間がありません。入学した1年後に司法試験。そして就活競争が始まる。自分で情報収集しないといけないから、早く動かなきゃと焦る。「みんながいいって言うから」「名前を知ってる先輩がいるから」という理由で決めている現状があります。

何のためにこんなに急がされてるのかとは思います。北海道大だったので、東京と地方都市との情報格差を感じていました。慶應ローにきて、やっと同じ興味関心を持つ仲間に会えた。野望は、弁護士を「小学生のなりたい職業ランキング」1位にすること。そのために、かっこいい弁護士やすごい弁護士の魅力を発信していくメディアにします。

谷口雄太さん:私が通う早稲田のロースクールも酷似しています。受験以外の世の中を知ることなどできていないなという感じがある。せわしなくなっています。じゃあ、ローの授業が予備校と差別化できることは何なのか。やはり答案を書くのに、塾の論証集をベースに使うことは多いし、周りもそうです。受かることが第一目的なので、ローに行くモチベーションをどう保てばいいのか分からなくなる時もあります。

周りに大手事務所志望が多いかというと、必ずしもそうではないと思います。私個人は、法曹資格は競争原理がそこまで入らないんだから、ステータスなんて持ち込まなくてもいいし、自由なはずだと考えています。

●編集部振り返り「当事者の声を聞いてほしい」

司法制度改革を振り返ろうと企画を始めたのは、2004年当時大学生だった編集メンバーが多かったことが大きな要因です。ロースクールに夢を抱いた世代で、いま40歳を迎えて、周りには弁護士になった者もいれば、夢破れてパラリーガルをしている者、全く違う道に進んだ者もいます。あの頃の期待、その後の落胆は大きなものがありました。

須網教授は「どの世界にも被害者意識がある」と話しています。だからなのか、取材をすれば、熱く語る人たちばかりでした。当事者は皆それぞれに真剣だった。にもかかわらず、なぜ迷走が続いたのか。それは、やはり政治が当事者の声を聞いてこなかったからではないでしょうか。ロー開校時に批判にさらされた伊藤塾に視察に来た政治家はいなかったといいます。現場はどうなっているのか、せめて調べることはできなかったのか。

議論の中でも上がったCBT受験が2026年度から始まります。この手法についても、参加者から批判が集まりました。デジタル化という理想だけを追い求め、一部の受験生にとって不利益があれば、またローの失敗と同じことです。中身のない改革にならないよう注視していきたいと思います。(編集部・川島美穂)

●「私たちは何をするか」について書いてもらいました

参加者には「MyPolicy」として、未来の法曹養成に、それぞれの立場で、自分は何をするのか? どんな思いを持っているのか? をスケッチブックに記してもらいました。本文では触れられなかったものの、ロースクール企画にご協力いただいたお三方にも参加いただきました(ロースクール1期生として板倉先生との対談イベントに出演・伊藤雅浩弁護士、「2割司法」という言葉の生みの親で元朝日新聞記者の佐柄木俊郎氏、企画の執筆にご協力いただいた元朝日新聞記者でライターの山口栄二氏)。

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