駅構内や人ごみで、わざと「体当たり」されたことはないだろうか。このような迷惑行為をはたらく狼藉者は「女性」を標的とすることが多いとされ、ネット上で「ぶつかりおじさん」などと呼ばれている。
SNS投稿やメディアの報道によって、少しずつその存在が知られるようになってきている。もちろん、あまりに悪質なケースは、暴行や傷害などの罪で立件されることがあるようだが、未だにその実態はよくわかっていない。
今年2月、弁護士ドットコムニュースが「ぶつかりおじさん」の被害をLINEで募集したところ、少なくない数の体験談が寄せられた。
この記事では、そのうちの1人、リナさん(仮名)のエピソードを紹介する。リナさんは20年前に「ぶつかりおじさん」の被害にあい、よほどのことがない限り「電車に乗らなくなった」という。
●「右の頬を打たれて、左の頬を差し出すつもりはありません」
その日の昼過ぎ、リナさんは、関西地方にあるJRの駅改札口に向かって一人歩いていた。敬虔なカトリック教徒であり、教会の手伝いに行く途中だった。
そこに背広風の服を着た中肉中背の男性が現れて、真正面からリナさん目がけ、猛スピードで向かってきた。年齢は60代くらい。顔は笑っていなかったという。
このままではぶつかる――。そう思ったリナさんが咄嗟に「ぎゃあああああああああ!」と大声で叫んだところ、男性は驚いて後退りしながら逃げ去った。
「まさか、ぶつかる前に反撃を喰らうとは思わなかったのでしょう。自分でも、まさかあんな声が出るとは思わず、驚きました。カトリック教徒ですが、右の頬を打たれて、左の頬を差し出す(※)つもりはありません」(リナさん)
●「ヤンキーだったら、ぶつかって来なかったはず」
この日は「撃退」によって未遂に終わったわけだが、リナさんはそれまでも被害にあっていた。しかし、声も出せず、泣き寝入りしていたそうだ。どうして何度も狙われたと思うか。
「自分より小さくて、か弱そうな女が、痛い思いや怖い思いをして吹っ飛ぶのが面白いのだろうと思います。私の見た目が派手なヤンキーやキラキラのギャルならぶつかって来ないでしょう。舐められた、踏みにじられたと感じました」(リナさん)
身長150センチ、体重40キロのスリムな体型で、おとなしめの服装、ごく普通のブラウンの髪色だったリナさんは、「ぶつかりおじさん」の目に"格好のターゲット"として映ったのかもしれない。
●電車を利用しなくなって被害にあわなくなった
この未遂事件からほどなく、リナさんはよほどのことがない限り、電車を利用せず、車で移動するようになった。それからは、めっきり「ぶつかりおじさん」の被害にあわなくなったという。
「その後、やはり悔しいので、空手と乗馬を習いました。今後はぶつかられても、踏みとどまって弾き返すつもりです。しかし、そう思って歩いてると、誰もぶつかりにきてくれません(笑)。
(ぶつかりおじさんは)弱いものいじめがしたいだけの小心者、見た目でターゲットを選ぶ哀れなやつです。今度出会ったときは、警察に通報します」
(※)マタイによる福音書の言葉より