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ジャニーズ問題、再発防止チームは「第三者委の体を成してない」 ガバナンス専門家が徹底批判
元検事総長の林眞琴弁護士、精神科医の飛鳥井望氏(2023年6月12日、弁護士ドットコムニュース撮影)

ジャニーズ問題、再発防止チームは「第三者委の体を成してない」 ガバナンス専門家が徹底批判

ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(享年87)による性加害問題を受けて、ジャニーズ事務所は「外部専門家による再発防止特別チーム」を設置した。その目的は「過去の対応上の問題点を調査し、ガバナンス上の問題に関する再発防止策を提言するもの」としている。

6月12日には、特別チームのメンバーである元検事総長の林眞琴弁護士と精神科医の飛鳥井望氏が都内のホテルで記者会見を開いた。会見で、林氏は「事実認定は専権で行えると思っている。事務所側が認めなかったとしても、職責は果たしていく」とする一方で、全容解明に踏み込まないとの見解も示した。

この特別チームを専門家はどうみるのか。企業会計やコンプライアンスが専門の八田進二・青山学院大学名誉教授に聞いた。

●「第三者委員会」と言えるのか

——12日の会見をどのように評価していますか

特別チームの林弁護士、飛鳥井医師が記者会見を開き、記者と質疑応答する姿勢からは非常に誠実さを感じますし、同時に節々から苦渋も伝わってきました。しかし、いくつか問題も指摘できます。

林弁護士は記者会見前、藤島社長と「当然全く何の話もしておりません」と明かし、飛鳥井医師も「再発防止策を提言した際には、代表者としてどのように実行していくか、お考えを明らかにしていただけるものと考えております」と話しました。

委員会としては、独立性があることを強調したかったのかもしれませんが、発言からは調査のあり方をめぐり、事務所と十分な意見交換および合意形成をしていないことがうかがえます。

また会見に先立ち、事務所は「外部の独立した第三者が調査・提言を行うものであり、第三者委員会としての機能を有しています」と発表したほか、会見でも「第三者委員会と受け取ってもらっても差し支えない」という発言もありました。

しかし私は、残念ながら、この特別チームが「第三者委員会」という体は成していないと考えています。

日弁連でも「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を定めていますが、第三者委員会にはその成り立ちや目的、さらに具体的な委嘱事項等について詳細を明らかにする必要があります。

例えば、第三者委員会を設置するにあたっては、委員会の調査対象範囲、事実認定、それを受けての評価と原因分析をどのように進めるのか。そもそもチームメンバーはどのようなプロセスで選ばれてきたのか。第三者委員会はどのようなミッション、使命を請け負ったのかを明らかにするとともに、そうした活動に対して、事務所の方では全面的な理解と協力を行うということを明らかにしなければいけません。

中でも、調査範囲はどこまでを対象とするのか。調査を進めていく中で会社が求めるものと異なる調査が必要になった場合、委員会の権限でそれを広げることができるのか。特別チームに対して全面的な信頼をするという確約を取っているのかどうかも重要です。

しかし、会見では委嘱事項、独立性、結果報告時期等に関する開示は一切されず、事務所も明らかにしていません。

本来、「自力では調査はできなかったため、これらの目的で第三者委員会に調査をお願いした」と、メッセージを発するのは、ジャニーズ事務所であるべきでした。ところが5月14日に藤島ジュリー景子社長が事務所サイトで一方的に情報発信をして以来、事務所としては何の説明責任も果たしていません。

第三者委員会は、法律や規則に則って調査を進めるわけではなく、会社が自浄能力を発揮するための1つのサポートをしているにすぎません。

事務所は「本チームによる調査結果及び再発防止策の提言を受けまして、弊社としましても適切に対応を進めていく所存」としていますが、逆に言うと、全てこの調査チームに責任をなすりつけているようにも捉えられます。

●調査対象に問題は

——会見では「過去の加害の存在を前提として検証するが、網羅的に調査はしない」「調査対象になること自体が被害者に心理的な負担になる」という発言も委員からは出ていました

これは話になりません。既に被害を申告してきている人や、これから申告できる人に聞いて寄り添うと言っているわけですが、メディアで既に発信されてきた話を単に上書きするだけではないでしょうか。本来であれば、これまで声をあげられなかった犠牲者、今でも人に言えず苦しんでいる人達の声を吸い上げる必要があります。

先日も『週刊文春』が元事務所マネージャーの加害告白を掲載しましたが、ジャニー喜多川さんによる性加害以外にも、様々な問題が隠されているはずです。

調査することが被害者の心理的な負担になると言いますが、これは逆で、一部の人に聞くのではなく、みんなに聞けばいいんですよ。被害にあっていない人であっても、何か耳にしていないか聞くこともできます。現在の在籍タレント、事務所の職員、過去に辞めざるをえなかった人などが対象になるはずです。つまり、すべての関係者を公正にかつ一律的に聞き取りを行うことが不可欠です。

そうした調査であれば、対象も多くなりますので、とても3人の委員では対応できないはずです。

——本来であれば、どのような第三者委員会の在り方が求められますか

今回のケースで言えば、芸能界についてある程度、客観的に物を言える人や児童・子どもの心理学、いじめ・虐待に対する見識のある人、さらにはマスコミの世界における倫理に精通している人などでしょう。

独立公正、専門性をもち、関係者の影響力を逃れた公正中立な人たちが相談役、聞き役となってヒアリングしていかなければいけません。そしてその調査には、事務局業務も含め、一切会社の関与を許してはいけません。事実関係を調査するものだから、当然に、人権を守りかつ匿名での証言を認める。

これを機に、ジャニーズ事務所がこれまで放置してきた、30年、40年の膿を出さなければいけません。これほど長期間にわたって問題を放置してきた事務所には、もはや自浄作用は期待できませんし、だれもが納得する正式な第三者委員会を設置するべきだと考えています。

【プロフィール】 八田進二(はった・しんじ) 会計学者。青山学院大学名誉教授、大原大学院大学教授、金融庁企業会計審議会委員、第三者委員会報告書格付け委員会委員など。著書に『「第三者委員会」の欺瞞 報告書が示す不祥事の呆れた後始末』(中公新書ラクレ)など多数。

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