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振込手数料、なんと最大990円 銀行は個人客を「切り捨て」か
振込手数料を大幅に引き上げる三菱UFJ銀行

振込手数料、なんと最大990円 銀行は個人客を「切り捨て」か

三菱UFJ銀行は、店頭・ATMの振込手数料を大幅に引き上げると発表しました。店舗での他行宛の振込が990円、ATMでの現金での他行宛の振込が880円になります。つまり、振込金額にかかわらず振込をするのに約1,000円も手数料が掛かるということです。

最近は、銀行の窓口で予約制度が導入され、予約がないと長時間待たされるようになり、気軽に銀行の窓口にも行けない状態になっています。また、支店の閉鎖も目立つようになってきており、銀行と利用者との距離が離れていっているように感じます。

4月24日に冒頭の手数料値上げのニュースがあったばかりですが、5月2日には、「三菱UFJ銀行がATMの24時間稼働を2023年度中に終了する」との報道がありました。銀行は、もう店舗やATMに来て欲しくないと考えているのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●収益の確保が難しくなっている銀行業界

金融緩和政策により、超低金利が続く中、利ざやが取れないため貸付(融資)による収益を確保することが難しくなっています。最近では新型コロナウイルスの感染拡大により、観光関連業界や飲食店などが大打撃を受け、行動制限で多くのビジネスチャンスが失われました。それによって銀行が抱える信用リスクも高まりました。

また、人口減少で借入需要が低下している中、デジタルの進展に伴い、クラウドファンディングなどの新たな資金調達手段も生まれ、融資業務について益々厳しい状況になっています。

さらに、ネット専業銀行の利用者が増えたことで、銀行間の競争も激化しています。ネット専業銀行は、店舗を持たないため、コストを低く抑えることができ、店舗を持つ銀行よりも高い預金金利や低金利のローンを提供することができるからです。

このような厳しい環境から、店舗を持つ銀行は、投資信託の販売、保険の販売、コンサルティング(M&A、事業承継など)で手数料収入を稼ぐ「手数料ビジネス」にシフトしています。ただ、銀行員の給与は比較的高く、店舗も駅前の一等地にあることが多いので、人件費と賃貸料の負担は相当重いと言えます。

●駅前一等地の店舗を閉鎖や移転の動き

このような現状から、銀行はコスト削減に必死です。キャッシュレス化が進んでいることからATMの利用が減っているということもあり、銀行としては維持管理費がかかるATMをできるだけ減らしたいと考えています。

また、駅前の一等地にある1階にある店舗を閉鎖あるいは移転する動きが加速しています。駅前の一等地に店舗がなくても融資を受けたい人は店舗に来るし、1階に店舗がなくても、大きな支障はないと考えられるようになったからです。大幅なコスト削減を図ることができるため、今後も支店の統廃合は進むでしょう。

その他、一部の銀行では、新規の口座を開設し、紙の通帳を発行する場合、「紙通帳利用手数料」や「通帳発行手数料」が必要になりました。ネット専業銀行では紙の通帳がそもそもないので、紙の通帳を発行する場合、そのコストは利用者に負担してもらおうということです。

「通帳にお金を払うのはバカらしい」と思うかもしれませんが、通帳には偽造防止技術が施されているため、結構コストが掛かっています。未使用の通帳は金庫で保管されており、冊数も厳重に管理されています。大した預金額でもないのに、取引が多く、何冊も通帳が発行されると、銀行にとってはとても重い負担になります。

銀行としては、将来的には通帳を無くして、取引履歴はPCやスマホで見て欲しいと考えていると思いますが、PCやスマホを持っていない高齢者などもいるので、当面は通帳が必要な場合には、手数料を取って発行するという形になるでしょう。

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●悪化する銀行のイメージ、公益性とのバランスが課題

銀行と言えば、かつては優良企業のイメージがあり、就職先としても人気がありました。子どもが銀行に就職が決まれば喜ぶ親も多かったと思います。しかし、最近は、銀行を題材としたドラマも増え、中小企業の社長が土下座して「返済を待って欲しい」と懇願しているにもかかわらず、銀行員が非情にも全額返済を求めるという姿が描かれるなど、銀行に対する イメージが悪くなってきています。

「銀行は晴れた日に傘を差し出し、雨の日に傘を取り上げる」と言われるように、お金がある人に融資したいと思っており、お金がない人にはできるだけ融資をしたくないというのが本音です。だから、どんなに良い事業計画であっても、預金残高が少なければ、融資を申し込んでもほとんど審査で落とされます。

銀行員が、お金がない人に融資したくない理由は、貸し倒れになることを恐れているからです。「審査が甘い」と判断されると人事査定に響くわけです。逆に言うと、十分な担保があれば、融資をしたお金は回収できるので、会社が潰れても構わないと思っています。そのため、公的機関が信用保証した融資などはほとんどフリーパスで審査が通ります。銀行にリスクがないからです。

また、銀行は、会社の業績が下がり、返済が滞るようなことがあれば、すぐに回収に動きます。良心のある銀行員は、このようなことに耐えられなくなり、心の病になったり、銀行を辞めたりする人もいます。

銀行は多くの人から預金を預かっているという性質上、公益性があり、甘い審査で融資することは許されません。ただ、一方で、資金を必要とする人に融資するというのも銀行に求められる使命です。このバランスをどう取るかが難しいところです。

●金あまりのなか、メガバンクは大手企業を重視

融資先が多くあった時代は、銀行にとって預金をしてくれることは非常にありがたいものでした。だから、銀行は、個人や中小企業も大事にしてきました。しかし、今は、金融緩和によって、お金が余っている状態なので、預金をしてもありがたがられることはありません。むしろ、預金口座は、マネーロンダリングや犯罪に利用されるリスクがあるため、特にメガバンクでは、新規の預金口座開設は嫌がられます。

特に酷いのは、法人の預金口座開設です。起業をしたら、仕事をするのに銀行口座は必要不可欠ですが、法人の場合、非常に審査が厳しく、簡単には口座開設ができません。法人は、自然人と違い、いくらでも作ることができるので、個人よりもマネーロンダリングや犯罪に利用されるリスクが高いと警戒されているからです。

もちろん、振り込め詐欺等の対策は非常に重要なことですが、ごく一部の犯罪者のために、真剣に事業を始めようとしている人が銀行の口座を開設できないというのでは本末転倒です。万が一、詐欺などで口座が利用された場合には、「振り込め詐欺救済法」によって、手続を踏めば預金口座を凍結することができます。面倒だからと一律に法人の口座開設を拒否するのではなく、もっと柔軟な対応をすべきだと思います。

メガバンクなどは、大手企業を重視していることは明らかで、個人客や中小企業は軽視していることは否めません。表立っては言いませんが、「手数料が高いと感じるような人は解約してもらって構わない」と考えているのかもしれません。金融庁も利用者保護よりも金融システムの安定の方が大事だと考えているので、銀行が手数料を上げることは、むしろ、収益改善に繋がると好意的に考えているでしょう。

●キャッシュレス化や給与デジタル化は「諸刃の剣」の側面も

銀行は、現金をできるだけ取り扱いたくないと考えているので、キャッシュレス化には実は賛成の立場です。しかし、この考えは、諸刃の剣であり、現金の扱いがなくなれば、銀行を利用する価値がなくなる可能性があります。

なぜなら、給与デジタル払いが解禁になったことで、電子決済で給与を支払う場合、振込手数料が掛からなくなるからです。今後、電子決済で家賃なども含めほとんどの支払いができるようになれば、一切銀行を使わずに生活することができるようになります。そうなれば、少なくとも個人については、住宅ローンなどを利用しないのであれば、銀行を使う必要性はなくなります。

つまり、コスト削減やリスク管理ばかりに注力し、本質的な業務をおろそかにしていると、気づいた時には、「銀行は必要ない」という状態になるかもしれないということです。そうなったら、リスク管理をしていても何の意味もありません。米国で銀行の破綻が続いていますが、日本がそうならないためには、顧客に真剣に向き合い、よりよいサービスとは何かについて、初心に戻って考えることが重要なのではないでしょうか。

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