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大阪府警が京都府警に「便乗」、無令状捜索で地裁が違法認定…背景に「手柄争い」があった?
京都地裁(gamoth / PIXTA)

大阪府警が京都府警に「便乗」、無令状捜索で地裁が違法認定…背景に「手柄争い」があった?

大阪府警が、無令状で室内に立ち入ったのは違法だとして、捜索を受けた男性が府に対して110万円の損害賠償を求めた訴訟で、京都地裁は4月18日、違法だと認めて府に3万3千円の支払いを命じた。

判決によると、もともと京都府警が男性に対する恐喝未遂容疑で逮捕状と捜索差押許可状を取得。同じ男性の銃刀法違反容疑などの捜査で付近にいた大阪府警と偶然遭遇した。

捜索した京都府警から「拳銃様の物3丁を発見した」との連絡を受け、令状なく男性宅に立ち入った。

大阪府警はなぜ違法と判断されるような立入りをしてしまったのか。元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士は「内偵捜査の成果を京都府警に持っていかれることには抵抗があったのではないか」と指摘する。澤井弁護士に本判決のポイントを解説してもらった。

●事件の経緯

事件は2019年7月、同じ男性宅を別の容疑で捜査をしていた両府警がたまたま遭遇したことがきっかけだ。令状のあった京都府警側に「被疑事実に関連した物を発見した場合は確認させてほしい」と掛け合った大阪府警の行為が問われた。

国側は「わずか数分の間、立ち入り、拳銃様の物の外観を観察したに過ぎ」ず、捜査として「捜索」するために立ち入ったわけではないと反論。しかし、判決は「なお、男性の住居の平穏やプライバシーは法的保護に値するもの」と判断し、大阪府警の立入りはこれらを侵害したと認定した。

●<弁護士解説>なぜ大阪府警による捜索は違法とされたのか

判決文によれば、恐喝未遂容疑で逮捕状と捜索差押許可状を取得した京都府警の刑事らが男性を逮捕するとともに家宅捜索を行いました。ここまでは令状に基づく捜査なので何ら違法性はありません。

その結果、男性のポケットや所持品の中から拳銃様のもの3丁が発見されたものの、その場でただちに真正拳銃(本物の拳銃)かどうかの判断ができなかったことから、イレギュラーな展開となります。

どうやら被疑者宅にはモデルガンやモデルガンの弾などがあり、真正拳銃かどうかの判断ができなかったようです。もっとも、恐喝未遂事件が拳銃様のものを示して脅迫するという態様だったことから、この「3丁」は恐喝未遂事件に関係あるものとして京都府警の捜索差押許可状により押収されました。

もし、その場で真正拳銃だと判断できたならば、拳銃不法所持の現行犯で逮捕することができました。これは京都府警が逮捕するのが自然な流れです。

また、京都府警の刑事が連絡して、外で待機していた大阪府警の刑事が被疑者宅に立ち入って現行犯逮捕することも可能でした。拳銃不法所持の犯人がその部屋にいるわけですから、大阪府警としては刑事訴訟法220条1項1号に基づいて現行犯逮捕のために被疑者宅に立ち入ることができるからです。

本件の場合、その場で真正拳銃とは判断できなかったことから、現行犯逮捕ができず、拳銃不法所持事件との関係では令状を取得しなければ立入りや捜索はできない状況でした。そのような状況下で大阪府警の刑事が被疑者宅に立ち入ったことから、令状なき「便乗捜索」だと評価され、違法と判断されたのです。

●「すでに京都府警が捜索しているじゃないか」が通用しない理由

すでに京都府警が適法に家宅捜索を行っており、その場に短時間、大阪府警の刑事が立ち入ったにすぎないことから、プライバシー侵害の程度も低いし、「ぎりぎりセーフ」でもいいじゃないかとの意見もあるかもしれません。

しかしながら、捜査機関が逮捕、捜索などの強制捜査を行う場合には、原則として裁判官が事前に発した令状に基づかなければなりません。これを「令状主義」といいます。

令状主義は「事件単位の原則」といって、あくまで令状請求を行った特定の被疑事実について裁判官が審査して発付したものなので、令状の効力は当該被疑事実にのみ及び、別の犯罪事実については令状の効力は及びません。

令状の効力から漏れてしまった別の犯罪事実については、原則どおり、その被疑事実で別に令状を取得しなければならないのです。例外として、薬物や銃器などの法禁物が発見された場合にはその場で現行犯逮捕できますが、本件では真正拳銃であることが確認できなかったため、この方法によることができませんでした。

●大阪府警はどうすべきだったのか

今回のケースで、大阪府警がとるべきだった選択肢として、以下の2つが考えられます。

一つは、京都府警の科捜研を呼んでもらい、その場で鑑定等を行って真正拳銃であることが確認された後、大阪府警が拳銃不法所持で現行犯逮捕するものとして立入りを行う方法です。ただし、現場に科捜研を呼ぶという点は現実的ではありません。

もう一つは、当日は手を出さず、京都府警が押収した拳銃様のものについて、後日、真正拳銃であることが確認された段階で、本件でもそうしたように、大阪府警と京都府警が合同捜査の協定を締結して合同捜査班を設置し、拳銃不法所持で通常逮捕して立件する方法です(警察法61条の2、犯罪捜査共助規則19~20条)。

●大阪府警がすべて京都府警に任せなかった理由

大阪府警はもともとこの被疑者に対し拳銃不法所持で内偵捜査をしていたことから、その成果のすべてを京都府警に持って行かれることに抵抗があったのではないでしょうか。

犯罪摘発件数は各都道府県警察ごとに統計データが作成されます。特に拳銃の押収件数は重視されます。そのまますべてを京都府警に任せてしまうと、拳銃摘発事件が京都府警の点数となってしまうのです。そのためか、大阪府警は関与したい旨を申し入れ、後日、両府警の間で合同捜査の協定が締結され、合同捜査とされた経緯があります。

個人的には大阪府警の立場もわかりますが、本件のように拳銃らしきものが発見されたものの真正かどうか判断できないというイレギュラーな事件の場合には慎重に判断すべきでした。

大阪府警としては、拳銃様のものが発見された時点では真正拳銃である蓋然性が高く、当然現行犯逮捕できる前提で立ち入ったのかもしれません。しかしながら、結果として現行犯逮捕できなかったのですから、勇み足となってしまった感は否めません。

本件は、大阪府警と京都府警が互いの動きを知らずにバッティングするという偶発的な事態が起き、さらに拳銃様のものが発見されるも真正拳銃かどうか判断できないというイレギュラーな事態が重なったレアケースといえます。

判決でも触れられていましたが、警察官はその職務上、捜査活動を行いに際し法令を遵守する義務を負っていることから、レアケースにおいてはより一層の慎重さが求められるということになります。

●府側から控訴なし「地裁判決で確定」

男性の代理人を務めた石側亮太弁護士によると、大阪府は控訴期限の5月2日までに控訴しなかったため、今回の地裁判決がそのまま確定した。

(5月9日・判決確定について追記しました)

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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