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ラーメンに大量のコショウ投入する「調味料テロ」、またも被害の店主「24時間かけた一杯なのに」
「いっけんめ」の醤油らーめん(左、弁護士ドットコム撮影)とコショウを投入された瞬間(右、店提供)

ラーメンに大量のコショウ投入する「調味料テロ」、またも被害の店主「24時間かけた一杯なのに」

澄んだ鶏油が輝くラーメンスープは、黒色に染まっていた――。水戸市のラーメン店で3月24日、男性客がコショウ1瓶と大量の酢を入れて退店するトラブルが発生した。

この店は、約1年前にも爪楊枝500本を入れられる被害に遭った「中華そば いっけんめ」。店主のもとを訪ねると、再びの迷惑行為に「スープから仕込んで、お客さんのもとに届けるまで最低24時間かけている。真っ黒にされてショックです」と肩を落としていた。

●コショウを何度も振りかけ、酢を大量投入

件の男性客が訪れたのは、3月24日午後0時半ごろだった。醤油らーめん特特盛(3玉分、700円)を注文し、途中まで食べすすめた後、テーブルには置いていない酢を要求してきたという。対応した従業員は目深にかぶった帽子の男性の雰囲気から「いやな予感がした」。案の定、彼の残したどんぶりは真っ黒に染まっていた。

店主の男性によると、当時、厨房まで酢とコショウのにおいがしてきたという。客の退店後にカメラを確認すると、ブラックペッパーを40振りほど、コショウ1瓶、酢は容器のほぼ全量をぶちこんでいた。

憂さ晴らしなのか、味に物言いをつけたいのか――。意図のわからない「調味料テロ」に、店主は戸惑った。

「30年この道にいますが、迷惑客は年に1人いるかどうか。泣き寝入りする同業者がほとんどです。味が気に入らない、食べきれなかったら残せばいい。SNSに書くと炎上商法だとか批判もきますが、こんなことがまかり通る世の中であってほしくないと発信しました」

対処法として、テーブル置きのコショウを撤去したとツイッターで投稿。続けて、ことの経緯を説明すると、1万5000RTを超える反響があった。

ラーメン道30年の店主自慢の一杯

●店主「ラーメン大好きだから安価で提供したい」

名古屋コーチンでとる鶏だしラーメンは、チャーシュー3枚とメンマ、玉ねぎと海苔がのって500円。コロナ前は350円だったが、茨城産小麦ゆめかおりを使った味と香りのいい麺に変えたことと物価高騰で、この2年ほどで、50円ずつの値上げを重ねてきた。

安価をキープしてきた理由は、老若男女に身近であってほしいから。「ラーメン、僕大好きなんです。1日1食は麺にしたいけど1000円超えたら痛い。財布と相談する大学生やほぼ毎日来るお年寄りを見たら、上げられないですよ」

提供までの時間を2分と短くして回転率を上げる。朝8時から営業して「朝ラー」を提供する。値段と時間で差別化するという経営努力をしてきた。

調味料や割り箸、紙ナプキンなど無料で置いている備品も、当然に経費がかかる。「完食してお金を払っているから使い放題というわけじゃないはずです。ムダに使われれば、撤去や減らすことになります」

「うちのラーメンは絶品ではないけど、スープ作りからお客さんの口に届くまで最低24時間かけて作っています。たった20分の間にあんなふうにされてショックですが、もし再度いらっしゃっても門前払いはしません。普通に食べてくれればいい。作る側のことを考えてほしいと世に訴えかけていきます」

●弁護士「事件化は厳しいが、責任は問える」

店主は責任を問うつもりはないようだが、こうした迷惑客には、どんな対処ができるのだろうか。

ラーメンを愛する西山良紀弁護士は「形式的には犯罪に該当する可能性がある」と指摘する。1瓶分のコショウや容器全量分の酢などをラーメンに入れる行為に及んだ客は「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」(軽犯罪法1条31号)に該当し得るという。

刑罰は、拘留(1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置される刑罰)または科料(1000円以上1万円未満の金額を国庫に納付させる刑罰)と定められている。

ただ、同じ行為を繰り返すなどの特別な事情がなければ、警察が取り扱うことはあまりないといい、実際の事件化は厳しいとの意見を示す。

他方で店側が、民事上の責任を問うことはできるという。

「コショウや酢といった調味料は、味にアクセントを加えるという通常想定される用途・用法に従って使用してもらうために提供しており、本来の用法・用途と異なる使用は許容していません。1瓶分のコショウや容器全量分の酢などをラーメンに入れた行為は、明らかに本来の用法・用途から外れるものであり、違法な行為に該当し、損害賠償責任が発生することになります」

西山弁護士は店側にこうエールを送った。

「店主のラーメンへの想い、500円という安価を維持されている企業努力には頭が下がる思いです。この店のラーメンが活力の源になっているという人も多いのではないでしょうか。迷惑客に負けることなく頑張ってもらいたいです」

(3月28日午後9時半に一部修正、追記しました)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

西山 良紀
西山 良紀(にしやま よしのり)弁護士 リライト神戸法律事務所
兵庫県弁護士会所属。 離婚・男女問題、遺産相続、労働問題、債権回収などを多く扱う。 昼食の大半はラーメン。鶏がら・豚骨から出汁をとってラーメンを自作することもある。独立する際に、前所属事務所からもらった餞別は寸胴鍋とオリジナルラーメン鉢。

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