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ネット炎上と「その先」を描いた漫画『しょせん他人事ですから』120万部突破、ヒットの「舞台裏」
大ヒット中の「しょせん他人事ですから」(2022年12月/弁護士ドットコム撮影)

ネット炎上と「その先」を描いた漫画『しょせん他人事ですから』120万部突破、ヒットの「舞台裏」

ある朝、自分のブログが炎上していることに気づいた女性。女性はママ向けの情報を発信しているブロガーだったが、ネットでは根も葉もない誹謗中傷やデマの書き込みが止まらず、精神的に追い詰められていく。

女性は弁護士に相談するものの、弁護士は「発信者情報開示」で相手を突き止めたとしても、「しんどいんですよ」という。それでも、女性は法的手続きを進め、誹謗中傷を書き込んでいた相手を突き止めていく。しかし「犯人」は意外な人物で、「しんどい」という弁護士の言葉が女性の心に響く……。

SNSやネットでトラブルになった際に、何が起きるのか。弁護士を主人公に、リアルに描いた漫画『しょせん他人事(ひとごと)ですから』(原作・左藤真通さん/作画・富士屋カツヒトさん/監修・清水陽平弁護士)の快進撃が止まらない。電子漫画と紙版コミックスの総売上は130万部相当に届こうとしている。

そのヒットの舞台裏を、担当編集者である白泉社デジタル編集室の大野木貴史さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●身近に見かけるネット炎上や誹謗中傷から発想

——「しょせん他人事ですから」では、ネットトラブルの解決を請け負う弁護士が主人公ですが、どのような発想からこの漫画は始まったのでしょうか?

この漫画は、ウェブで連載がスタートしているのですが、まずウェブコミックは売れるジャンルがはっきりしています。その中には、「変わったお仕事もの」というジャンルがあり、たとえば政治家や医師、特殊清掃など、身近でありながら専門的で、一般にはよく知られていないものを描いた漫画に需要があります。

最近だと、ネットで炎上や誹謗中傷の事案をよく見かけるなと思い、ネットトラブルを解決する弁護士という専門的な仕事に興味を持ちました。

——作中でも描かれていますが、刑事事件のドラマなどと違い、ネットトラブルの解決を請け負う弁護士の仕事は地道ですよね。正直、漫画になるとはあまり思っていませんでした。

この漫画を作ろうと思ったきっかけともつながりますが、炎上や誹謗中傷に遭って困ってしまい、これをなんとか解決したいと思ったとき、具体的にどういう手続きがとれるのかを知りたいと思いました。匿名アカウントを訴えたいとき、どうすればいいのか。

たとえば、芸能人がネットで誹謗中傷を受けたけども、良い弁護士さんに出会って解決したというニュースとか見かけますが、ではどうやって解決したのか、興味ある人は多いと思います。

そこをできるだけ丁寧にわかりやすく、描いていけたらなと思っています。

画像タイトル 「しょせん他人事ですから」1巻の一場面。 (C)左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

●ネットトラブル解決の第一人者、清水陽平弁護士が監修

——コミックス1巻では、ブロガーの女性が身近な人物に「人妻風俗をやってる」とデマを流されたり、携帯電話の番号を書き込まれたりと「あるある」なトラブルが描かれています。2巻は、アイドルのネット炎上、3巻では、未成年のネットトラブルがそれぞれテーマになっています。どうやってテーマを選んでいらっしゃいますか?

選び方は、まず身近なケースから先に取り上げていきたいと思っています。ネットでよく見かけるような、ありそうな感じ。あるいは芸能人など、読者として興味を持ちやすいテーマに焦点を当てるようにしています。

でも、作中ではできるだけ専門用語を使いたいと思っていまして、それを登場人物がしゃべり言葉で、できるだけ丁寧に説明するスタイルです。時系列ごとにどういう手続きになるのか、また、お金の金額などの詳細も描き込んでいます。

発端が、実際にどういう手続きをしているのかという興味から始まったので、読者が実際に体験してるような描き方になるようにしています。

画像タイトル 「しょせん他人事ですから」1巻の一場面。 (C)左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

——そこには、監修の清水陽平弁護士がかなり関わっているのでしょうか。

ものすごい関わってもらっています。漫画のネームを見ていただき、実際にはこういう言い方はしませんというぐらいのディテールからもご指摘いただいて、弁護士の世界のリアリティラインを保ってもらったり、他にも色々と尽力してくださっています。

なお、清水先生に監修をお願いしたのは偶然で、上司にこの漫画の企画を相談したところ、ネット系だったらこういう本があるよと教えてくれたのが、清水先生の『サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル』(弘文堂)でした。

この本をきっかけに、清水先生に取材を申し込み、監修をお願いすることになりました。

——主人公で、凄腕だけど変わりものの保田理弁護士のモデルはもしかして…?

モデルとまでは言えないかもしれませんが(笑)、清水先生との出会いで保田弁護士のキャラクターが生まれたのは間違いありません。

●「知っているだけでちょっと勇気がわく」存在に

——まもなく130万部に到達するヒットとのことですが、どんな読者層に読まれているのでしょうか。また、どのようなところが読者に刺さっているとお考えですか?

ばら売りの電子漫画は、多くのヒット作が読者層の9割が女性なのですが、この漫画に限っていえば、性別も年齢も幅広く読まれています。

ネット上の感想を読んでいると、たとえば「この漫画に描いてあることは、昨日あった炎上事件と同じだ」とか、「実際の手続きがわかりやすい」「困った人は参考にすれば良いかも」など、「他人事ではない」とリアルに感じてくださっている方が多いのかなと思います。

——「しょせんは他人事ですから」は最初、冷たいタイトルだなと思いましたが、読後は、違った印象を持つようになりました。

「しょせん他人事ですから」という言葉は、主人公の保田弁護士の決めゼリフですが、前向きに受け止めてくれている方も多いです。何事ものめり込みすぎると良くないという人生の過ごし方とか、距離感の取り方として「他人事」という心構えがあれば、適度に大らかでいられます。そういうふうにとらえてくださっている方が多く、うれしいです。

画像タイトル 「しょせん他人事ですから」1巻の一場面。 (C)左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

——ネットで毎日のように炎上や誹謗中傷を見かけますが、この漫画がヒントになりそうです。

ネットで炎上事案を見かけたときに、こちらも暗い気持ちになる原因の一つに、「どうすればいいかわからない」「このあと、どうなるかわからない」という「わからない」の気持ちがあると思っています。

どこまで解決するか保証はもちろんできませんが、どういう手続きが可能で、どういう解決へのアプローチがあるのか、知っているだけでも、不安が少しは晴れると思います。知っているだけで、ちょっと勇気がわく。この漫画が、そういう存在になってくれたらいいなと思います。

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