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紀藤弁護士「会見、訴訟…旧統一教会の迷走はカルトそのもの」「いまが国の正念場」
都内の事務所で取材に応じる紀藤正樹弁護士(2022年10月29日、弁護士ドットコムニュース撮影)

紀藤弁護士「会見、訴訟…旧統一教会の迷走はカルトそのもの」「いまが国の正念場」

安倍元首相の銃撃事件以降、紀藤正樹弁護士の姿をメディアで見ない日はない。ツイッターのトレンド入りは十数回以上。第一線で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害に向き合ってきた法律家として、発信を続けている。

教会側は、紀藤氏らの発言に名誉を傷つけられたとして提訴したり、記者会見を開いたりして自身の正当性を強調している。時にヒートアップして怒り出す幹部もいる。メディア戦略にたけた紀藤氏は冷静に受け止め、こう解説する。

「彼らの表情が同じこと、怒るトーンが一緒であること、世間の常識から遊離してしまっている事実を、面白がるのではなくて正面から受け止めてください。不安や恐怖によって人間本来の感情を押し殺した人たちの共通した姿です。カルト被害の実態そのものなのです」

30年以上闘ってきた彼らの解散請求も視野に入ってきたが、紀藤氏は「欧米に比べて周回遅れだった日本が、やっとカルト対策に向き合う時にきた。先進国並みに到達できるか今が正念場です」と気を引き締める。

●分かりやすさは依頼者のため

論旨は明快、短い時間で的確に解説する紀藤氏がテレビ向きなのは、30年前から証明されている。「社会を変えるには、一般の国民の理解が不可欠」。忙しい合間をぬって、数多くのメディアに対応する。

もともと分かりやすさを追求しているのは、依頼者のためだ。法曹3者しか読まないような準備書面もある。それでも、依頼者が読んで分かるように、平易な言葉で書くことを心がけている。

「真摯(しんし)に」は「誠実に」、「債務不履行」は「契約の不履行」といった具合に、法律用語もできる限り置き換える。漢字ばかりにならないよう平仮名を使い、段落を入れて読みやすいようにする。

こうした反復が、テレビなどで一般の人に問題の本質を伝える原点となっている。

●教会側の会見が炎上してしまう理由

旧統一教会はこれまで6度行われた会見で、従来の持論を展開している。福本修也弁護士は、記者の質問にヒートアップして声を荒らげ、かつて広報担当として「テッシー」と言われた勅使河原秀行氏は、被害者宅にアポなし訪問をして、記者らに集中砲火を浴びた。

「同じ発想の人たちで一定の議論しかできないんです。韓国からの指示で決めているから会見を開くタイミングも最悪。内閣改造の日だったり、予算委員会の最終日だったり。国会の議事を妨害しているようなものです」

紀藤氏によると、東大出身の福本弁護士や京大出身の勅使河原氏は「特別扱い」されてきたため、現場の信者の実態を理解できていないという。だから「違法な勧誘は信者が勝手にやっている」という論が展開できてしまう。

紀藤氏はオウム真理教の追っかけ「オウマー」が出現したのとは違い、安倍元首相の事件とその背景は「あまりにも悲惨だったため、今は深刻にとらえられている」としながらも、彼らの会見を「面白おかしくする」ことには警鐘を鳴らす。

「『常識的に考えれば受け入れられないようなことを、真面目にやっている』というのが統一教会信者の属性そのものです。30年以上同じ。その結果、家族の被害や2世問題が起きています」

●「対策は周回遅れ、先進国並みまでまだ3合目くらい」

日本ではオウム真理教、旧統一教会とカルトに関連した大事件が2度も起きた極めて特殊な国にもかかわらず、一度も総括的な調査・報告はなされたことがない。

紀藤氏の所属する全国霊感商法対策弁護士連絡会は、国にこれまでも、さんざん働きかけてきた。関係省庁を回るだけでなく、旧統一教会は国際的組織のため米国やEU、本国の韓国にも何度も行った。でも、動かなかった。

米国では1978年に下院議会委員会が旧統一教会などの調査をしており(議員名にちなんでフレイザー委員会報告書と呼ばれる)、フランスも1995年にカルトに関する報告書がつくられている。

「カルト現象は世界共通。既に一定の成果がある。日本も担当大臣を立てて特別委員会で議論し、総括的な報告書をつくるべきです。解決のための処方箋をつくるには調査が必要です。先進国並みまでは、まだ3合目くらいでしょう」

臨時国会の会期は12月10日まで。紀藤氏は、今国会でも特別委員会を作ることは可能だとの認識を示す。

●「マインドコントロール」という言葉が法律に入るか

現在、解散請求の前段階として、文科省が質問権の行使に向けて動いているが、10月25日の専門家会議は非公開。次回は11月8日で質問の基準を決めるという。週1回YouTubeで公開されていた消費者庁の有識者会議と比べると、スピード感に歴然とした差がある。

「大臣の緊張感に差があるのでしょう。文科省は所管だから今の事態は想定できたのに準備不足です。できる限り議事は公開していかないと、無責任になります。委員には、自分たちが所属する宗教団体の立場の個人的な意見ではなく、カルト対策でどんな未来をつくっていくべきなのかを考えてほしい」

政治が動き始めたこの状況は、まだマインドコントロールという言葉が定着していなかった30年前と比べれば隔世の感がある。

「マインドコントロールの違法性を問う裁判を起こしたころは、まるでSFのようだって言われたんですよ。提訴の会見をした時、記者たちは白々しく、質問も出なかった。よく覚えています」

契約を取り消せる範囲を拡大する高額献金対策など救済に向けた法整備についても、与野党協議が始まっている。紀藤氏は自民党の会合に出席し、消費者契約法の改正など早期に進めるよう要望した。

「マインドコントロール」という文言を条文に入れるか否かは「フランスの反セクト法にも入っていないし、大きな問題ではない。法律用語にいかに落とし込めるかです」としながらも、「2018年の改正で『霊感』が入ったのは画期的で、言葉を入れると動き出すという面もあります。もしも『いわゆる〜』という形でも『マインドコントロール』」という言葉が法律に入ったら、将来の国民から評価されるかもしれませんね」と話した。

プロフィール

紀藤 正樹
紀藤 正樹(きとう まさき)弁護士 リンク総合法律事務所
1960年、山口県宇部市生まれ。大阪大卒、同大院博士前期課程(憲法専攻)修了。2020年6月から日弁連消費者問題対策委員会の筆頭副委員長。安愚楽牧場や神世界など多くの消費者被害対策弁護団長を歴任している。2022年、弁護士ドットコムと「週刊東洋経済」の共同企画「弁護士が選ぶ弁護士ランキング」の消費者・金融部門で1位。『決定版マインドコントロール』(アスコム)など著書多数、最新刊は『議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SBクリエイティブ)。 http://masakikito.com/

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