ここは、東京の中央線の駅近くにある昔ながらの喫茶店。いつもすいていて、深煎りのコーヒーを飲みながら、ゆっくりとした時間を満喫できるのだ。ところが、その日は、ふだんと店内の様子が違っていた。
この春に入学したばかりの大学生たちが何人もいて、ノートパソコンを広げながら、にぎやかに会話している。そうかと思えば、主婦らしき4人組の女性たちが、大きな笑い声をあげて盛りあがっている。
いつもの静かな雰囲気とは正反対の騒々しさ。「こんな迷惑な客たちは追い出してもらおう」。そうマスターにお願いしようと思ったが、はたしてそんな願いは聞いてもらえるのだろうか。足立敬太弁護士に聞いた。
●喫茶店は「プライベートな空間」ではない
「迷惑客を追い出してもらうよう店側にお願いすることはできますが、最終的に、実行するかどうかは店の判断になります。『追い出したい』という要望は、必ずしも実現するわけではありません」
足立弁護士はこのように説明する。
「たとえば、若者がにぎやかに話しているのを迷惑と感じる客もいれば、そうでない客もいます。そもそも喫茶店は、自分だけのプライベートな空間ではありません。
そうである以上、自分が気にくわないからといって、すぐに『迷惑だから排除してほしい』と要求できるわけではありません。我慢しなければならないときもあります」
たしかに、「迷惑」といっても、その基準は人によってそれぞれだろう。では、喫茶店で優雅なひとときを過ごそうと思ってやってきた客の立場はどうなるのか。
「客に喫茶店をどのように使ってもらいたいのか。また、喫茶店をどのような雰囲気に保ちたいか。それらは、喫茶店のオーナーや店長が決めることです。
『静かな雰囲気を楽しんでもらいたい』という喫茶店の場合、客のふるまいがその雰囲気にそぐわないときは、管理者が注意したりするでしょう。
一方、若者に楽しく利用してもらいたいと考えている喫茶店であれば、学生たちのにぎやかな会話にも寛大になるはずです」
足立弁護士はこのように話していた。結局のところ、店側がどのような客を「迷惑」だと考えているかが、ポイントとなりそうだ。